第49話


行っていいとは言ったものの、私喋れないのよね。

なんなら、まだ皇女様としか挨拶もしてない……こういうのって挨拶回りしないとダメなんじゃなかったっけ?

誰かと喋るわけにはいかないし、知らない人とおどるわけにもいかないし……


いっそ食べる?

うーん油断してるようには見せられるわよね。

でも、風邪ひいてる設定の令嬢がもりもりご飯食べるのもなぁ……



人間観察でもする?


それかロベリアが出てきた時のためのシミュレーションでもしてみようかしら。

逃げるだけじゃダメだから……なるべく正面で受け止めて、ギュッと抱えて……


その間に騎士呼べばいいかしら?


あぁ、わかった。

町で倒れた人を助けるようにすればいけるわきっと!


そうだ、どの位置から来てもいけるように誰かをターゲットにして考えてみよう。


例えば、あの黒い服を着てる人がこっちに向かってくるとして……



ん?



黒い?ドレスじゃなくて?


そして、その隙間から何かが光った。



銀色の何か。



嘘でしょ……


刃物!?



嘘、呪いじゃないの!?呪いかけてくるんじゃないの!?

物理攻撃するつもり!?



こ……これは……襲われたところ抱えるの無理



っていうか、あんな怪しい人物、誰か早く気づきなさいよ!!


私は一度逃げようと思ったのだけれど……いかんせん、その人物のフードの隙間から目があってしまった。


選択肢は2つあった。


1、なかったことにする。

2、フィリックに言われた通りにする。


私はこういう時どうしていいか、自分で対処法を考えるのに慣れていない。

だから素直に助言通り行動することにした。


つまり、はしたないとわかりつつ手を上げて声をあげた



「衛生兵!衛生兵!!!不審者を捕まえて!!」



パニックになってなんか違う言葉叫んじゃったけれど、まあいいや。

みんなの視線集めるのには成功したわけだし。


これで諦めるかも。

それならそれで、こっそり追いかければ……


と思ったけど、ここに来てデジャブ。


彼女がどうやらヤケクソになったらしい。



ダダダと足音をたて、刃物をこちらに向けて持こっちに走ってきた。



周りはそれを見てわぁとかキャァとか、大騒ぎだ。


でも私にはその声は遠く聞こえ、「はぁっ!」と言いながらこちらに向かってくる黒いローブを被った彼女がスローモーションに見える大kだった。


ガチで殺しにきた!?失敗したからヤケクソ!?




これは……終わった……




そう思った時




ドサっという音と、体に衝撃を受けた。


自分の体方が倒れたらしい。


一瞬、あぁ、私はこれでまた死んだんだ……と達観したのだけれど、倒れた時に受けた衝撃以外、痛みはない。


おかしい、あの角度なら、脇腹に深く入っていてもおかしくなさそうなのに。


私はゆっくり目を開くと……





「クロウ!?」




よく見知った人物が自分に覆い被さっていた。




「また勝手に行動に出て……」



「クロウ、喋らないで、脇腹怪我……何で騎士の鎧つけてないの!?」



今日は騎士として動く予定のはず……だったら、装備は万全のはず。

なのに……何でそんな軽装備なのよ!


と、内心パニックだったけれど、クロウはその疑問には答えてくれなかった。



「実行するなら、身の安全を完全確保してからやれ!というか、ついおとといした僕との約束急に破るなよな!」



相当ご立腹で、それどころではなかったようだ。



「ご……ごめんなさい」



ガチギレされて、私は驚いてしまい、思わず震えながら謝罪する。


ぼたぼた血を流しながら、こんなに怒鳴る体力がよくあったものだ。

なんか、目の前の状況に追いつけなくておろいているが、そんな暇も与えてくれない。


黒服の人、まさかのトドメを刺そうとこちらに刃物を突き立てようとしていた。


しかし、さすがにそれを避けられない苦労ではない。体制を整えると、すぐに刃物を持つその手を跳ね除けて、刃物を誰にも当たらないように手から離させた。


それを見ていてようやく追いついた他の騎士たちがようやくその刃物を持った黒い服の人を取り押さえた。



「まぁ、僕も傷を負ったし、これでチャラだよね?」



ようやく治ったころ、完全にクロウは私の上からどいて。

私が立ち上がれるように手を差し伸べた。



「何よ、かすり傷程度で……でもありがと。」



私はそういうと、その手をとって起き上がる。

そして


「来年の今日、私がまだ生きてたら、この左手のこともチャラにしてあげる」



なんて憎まれ口を叩いた。



「まぁ、思いの外あっさり捕まえられたのは良かったけど。」



そう言いながら、クロウは黒い服の人が頭に被っていたフードを剥がした。

その中身が、あの日のピンクの髪の女の子だと信じて


ところが……期待は裏切られた。



「……だれ?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る