第48話

「皇女様お誕生日おめでとうございます。」



パーティー会場に入ると、私とフィリックは兎にも角にもクレム皇女に挨拶に行った。

主催者に最初に挨拶に行くのが当然のマナーだからである。



「ありがとう、まさか公爵に祝ってもらえるとは思わなかったわ。」



以外にもクレム皇女は丁寧に返事を返してくれた。

まぁ、嫌味たっぷりだけど、事前に聞いていた印象よりは悪い人ではなさそうだ。


というより



「この国を治める方の娘さんですから、当然です。」



フィリックの言い方も問題な気がしてきた。

これから皇族たちにあなたたち支えていくんじゃないの?その筆頭でしょ?

もっと愛想振りまいたらどうなのよ!


……というのは余計なお世話だろうか……。



「あなたって人は、昔っから可愛くないわねぇ。」



まぁ別段気にした様子はないからいいけれど。


それにしても、気になるのは……

彼女がこれだけ突っかかってくるのは、性格のせいなのか、公爵家との関係性でそうしてるのか、フィリックが聖女の婚約者だからなのか……理由が気になるわね。


というのも、私は彼女について、何も知らない。


私が執筆した時は、そもそも皇女は『いる』っていうことだけは決めたけど、物語のメインがリイナが聖女であることと、フィリックとの悲恋の物語だったから、皇女の出番なんかないし、モブとしてすら出てこない人だから、私は何も彼女について名前すらつけていないのだ。


だから、彼女の性格も人となりも全く不明。

彼女が敵かどうかわからない理由もそこだ。


フィリックは彼女が怪しいとみてるみたいだけれど……この性格の理由によって、推理も左右される。


発してる言葉も意味も、嫌味なのか、愛情の裏返しなのか、本当に疑いや憎しみなどの負の感情でフィリックにあたってるのか……ルナとして皇女にあったこともないから判断材料が少なすぎる。


彼女は一体……


フィリックが皇女と会話してる間、彼女を見定めるためにじーっと見つめていたのだけれど……それが良くなかったのだろう。


クレム皇女が私のことを気にしたのだろう。

フィリックと話しながら、こちらの方をじーっと見つめている。


何だろう……私、睨んでたかしら……

それとも、リイナじゃないことバレたのかしら……?

うーん……結構似てると思うんだけれどね……。


冷や汗を流していると、ついにクレム皇女からお声をかけられた。



「今日は聖女の可愛らしい声が聞こえないわね。どうしたのかしら」



皇女に言われて、私は何か言わなきゃと思い口を開いた。

けれど、何か言葉が発せられることはなかった。


フィリックに口を塞がれたからだ。



「すみません、彼女少し風邪を引いてしまったようで、本日は声が出せない状況なので、お祝いの言葉は私だけで勘弁いただけましたら」



何を言ってるのかしら。

私はこんなに元気なのに……あ、ほら、そんな見え透いた嘘つくから、クレム皇女が私に疑いの目を向けてるじゃないの!



「そうなの…?重ね重ねあなたも災難ね。親戚も自分も……ねえ?」



あ、皇女、やっぱ嫌味な人。

この言葉を聞いて私は確信した。



「それでは、お祝いも述べさせてもらいましたので。失礼します。」



「回復を祈っておりますわ。」



皇女にそうお言葉をもらうと、フィリックに連れられ逃げるようにその場から立ち去った。

少し距離が空くと、私はフィリックに声をかけた。



「ねぇ、フィリック」



「風邪設定、黙ってろ」



「そんなに強く言わなくてもいいじゃないのよ!大体なんで話しちゃダメなのよ!」



「声でバレるっての!」



「何でよ、リイナは皇女とあったことないでしょ?」



「いや、3回ある。婚約した時の報告、聖女になった時の挨拶、聖女の儀式の日、控室に控除自ら挨拶言ってる。」



「儀式の日?そんなはずないわ、皇女は部屋に入ってこなかったもの。」



「ルナが神官に紛れて準備してる時じゃないか?リイナが会場に向かう数分前にって言ってたし」



なるほど……だからさっき私の口塞いでまで喋らせなかったわけね。

彼なりに、私がリイナじゃないってバレないように庇ってくれたわけだ。



「でも3回くらいじゃ忘れてるわよ」



「皇女を甘くみるな、あの人は一回で何でも覚えられる化け物だ。どっちにしろ、会場にいる貴族とは話したことあるだろ?今日一日喋れないと思え」



「うそでしょ!?」



「事実だ。とにかく、入れ替わるんなら、そのくらい計算してから来い!」



ただでさえ、何千何万という人数と会っている皇女が、たった3回だけで相手の声までも覚えられるというの!?

人間の記憶力でそんなこと可能なのかしら……?


私が衝撃的な事実に頭を困惑させていると、フィリックはため息を吐き、譲歩案を出してきた。



「まぁ、俺とは別に喋ってもいいし、代弁もする。ただ、扇子で口元隠して話せ。」



もちろん黙っていられるような性格ではない私は、私は仕方がないので、扇子を開き小声で話しかけた。



「あーあ。どうせならチェルシー嬢とキャシー嬢にも挨拶したかったのに」



「なんで?」



「黒幕を探すためよ。当たり前でしょ?」



「昨日の話の続きか?」



そうなのだ、だから本当はガンガン挨拶をしていきたかったし、その許可をもらおうとしたのだけれど……他2人の候補に関してはこの前がっつり会ってるし、普段から話す機会が多いからということで、なおのことNGを食らった。


それでは今日できることがなくなってしまったので、私はフィリックと推理ごっこをすることに決めた。



「……本当に皇女が黒幕だと思う?」



「……俺はそうだと思ってる。リイナを狙って、一番メリットがあるのは皇女だと思う。資料室でのやり取り、裏があるように感じた。」



「嫌味な人なのは確かみたいね」



「ルナはどう思う?」



「今、皇女様にあったけど、なんとも判断はつかない。」



「じゃあ、他に目星でもついてるのか?」



「いいえ、でも……チェルシー嬢じゃないと思う」



私はたまたま視線の先にいたチェルシー嬢の方を見ながらそう小声で答えた。



「なんで」



「動機がない。」



本当はリオスに説明したくらい詳しい話をしたかったけれど、喋るなって言われたので、できるだけ短い言葉をセレクトした。


まぁ、別にこの前多少は話した内容と被るし……詳しく言わなくてもわかるでしょう。


「父親の言いなりになってる可能性は0じゃない」



「だったら何でこの前、あなたと父親の前で婚約の話自体したのよ、自分で。」



「……」



「まぁ、その話はいいわ。もう1つ気になることがある。あの子は来ると思う?」



「ルナを襲った子供か……宣伝はバッチリだけどな……庶民にも知られてたし。どこにいてもリイナが来ることは耳に入ってるはずだ。」



「襲うとしたら?」



「一人になったところを狙うかな……」



「じゃあ一回会場からは出ないとダメね。ここでは襲ってこないもの」



「すぐに取り押さえられる場所にいないとな……どうする?」



「ダンスが始まる時間が一番いいと思うの、会場にみんな絶対集まるし」



「まだ時間あるな。」



「フィリック様……」



しばらく会場を歩いていると、会場スタッフから声をかけられた。

なんだろう、公爵家に関係する仕事の話でもあるのだろうか。



「何、なんか用事?」



その使用人はフィリックに耳打ちをする。

それを聞いたフィリックは表情を変えた。


「どうしたの?」



「まぁ……ちょっとみたいだ」



「打ち合わせで必要と判断したもの?」



「魔女相手じゃ、が必要不可欠だろ」



「なるほど、だったら行ってちょうだい。」



「でも、一人にするわけにも……」



今回に必要なものではあるそうなのだが、私一人置いていくには、少し後ろ髪引かれる思いらしい。



「会場では襲われないって推理したばっかじゃない、平気よ。それに一回呪われてる私に、もう呪いは効かないわ。」



「……危なくなったら、周りに声かけろ」



「どうやって」



「任せるけど、まぁ……最低限手を上げて、大声で叫べ。何でもいいから。」



「わかった。」



私はそういうと、使用人に連れられて外に出て行くフィリックを見送った。



さて………………



どうしよう。


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