第47話 パーティー参加

パーティー当日。


貴族たちの間では、私たちの推測通り、すごい騒ぎになっていた。


なんなら新聞の一面になっていた。


そのせいで、まさかの庶民までが、様子を見ようと皇宮の周りを取り囲み

馬車に乗ってリイナが皇宮に入るその様子を見にくるくらいだ。


それだけ長い間、皇族と立場上ばちばちだった聖女がパーティーに参加するという事実がすごいことなのだろう。


そして、中に入ると、聖女様だからと控え室を用意してくれたようで、リイナと私がそこに案内された。

なんか至れり尽くせりで、着付けとメイクをしてもらえるんだとか。


フィリックとアモルト神父は後で来るらしいんだけど、クロウは来ないらしい。

まぁ、彼は騎士だから、単純にパーティーの日は警備をするようにと出動を命じられているのかも。


とにかく、フィリックが来るまでの間にをしなければ。


私はリイナに自然を装い声をかける。



「リイナ、本当にパーティーに参加するつもり?」



「もう、宮殿の中に入っちゃったんだよ?あんなに大勢の人たちに見られてるのに、今更参加しないとか無理だよ。」



「だって……」



私はしゅんとしてみせる。

嘘ではない、できれば自分の意思でやっぱりやめると言って欲しいからだ。

しかしそれは無理なのもわかってる。



「せめて私にもなんかやることちょうだいよ」



だから一応役割が欲しいという駄々も捏ねてみる。



「ダメだよ、ここまでついてくるのOKしたのだってだいぶ譲歩したんだから。ルナはここでお留守番。」



「それに行きたくたって、パートナーどうするの?」



「それは……」



「それに今一番話題の人物が行ったら、噂の的になると思うなぁ」



「もー」



「後でお土産話いっぱい聞かせてあげるから。ね?」



お土産を持ってきてくれるならともかく、話を持ってこられても嬉しくはない。

どうせ、貴族の見栄はり話しかないのだから。



「あ、もしかして、心配してくれてるの?大丈夫!いざってときはフィリックが助けてくれるから。」



「何、惚気?」



「そんなんじゃないけど」



「何が違うのよ。あーあ、羨ましい。私も誰か絶対に助けてくれるって信じられる王子様どっかにいないかしらね。」



なんてぼやいているけれど、別に本気で言ってるわけではない。

別に本当に王子様と結婚したいわけでもなければ、王子様みたいな人と結婚したいわけでもない。


ただ自分に彼氏がいないことへのぼやきのつもりだった。


しかしリイナは以外にも真面目に受け取ってくれた。



「案外近くにいたりして」


「まさか。縁談の1つも舞い込まないし、今日の私の相手だっていないし。私には一生ないわよ」


「そうかな。ルナ可愛いし、そのうち縁談大量に舞い込んで、選ぶ方で悩みそうだけど」


「お世辞はいいわよ」



どうせ私は平々凡々とした顔ですよ。

これと言った能力もないしね。


まぁ、そんなくだらないことはどうでもいいのよ……



私はチラリと時計を見る。


神殿を出てから結構時間が経っている。

そろそろだと思うんだけど……まだかしら。


しばらく時計をじっと見つめていると、さすがに不思議に思ったのか、リイナが声をかけてきた。



「ルナ?どうしたの?」



「なんでもない。わぁー!それにしてもこれ綺麗ね!今日着るドレスはこれかしら?」



あからさまなはぐらかし会話。

これではバレるかも…と少し焦ったのだけれど、以外にもリイナは気にしなかったのだ。



「うん。そうだよ〜」



そう言いながら、リイナは大きな口を開けてあくびをする。

ようやくその時が来た。



「リイナ、どうしたの?眠いの?」



私はわざとらしくリイナを気遣うふりをして、肩にそっと手を置いた。



「うーん、慣れない場所きて疲れちゃったかな」



「大変!少し眠ったほうがいいわ!パーティーの前に英気を養わなきゃ」



そしてそのまま大きなソファーまで連れて行き、リイナを横に寝かせる。


「でもパーティー……」



もちろんそんなつもりはないのか反発して起きあがろうとするけれども……

私はそれを押さえつける。



「少しくらい大丈夫よ。そこのソファーで10分くらい横になったら?時間になったら起こしてあげるから」



きっとそれでも反論はしたかったのだろうけれど、次第に眠気の方が強くなったのだろう、リイナは『じゃあちょっとだけ……』と言って眠りについたのだった。



「……」



私はその様子を見てニヤリと口元だけ笑った。



今の気持ち?



一言で言おう



勝った!






「リイナ。準備できたか?」



それから少し時間がたった頃、フィリックが扉をノックする音が聞こえた。

私はそのノックに答え、無言で扉を開く。


何かいろいろ聞かれたけれど、

にっこりとだけ笑ってフィリックの後をついていくのだった。

喋るとバレるから。


しかし、もうすぐ会場に着くというところまで、私が一切喋らないものだからさすがに心配になったのだろう。



「なぁリイナ、本当に大丈夫なのか……?嫌ならやっぱやめるか?」



と聞いてきた。


本当はこのまま押し通そうかなと思ったのだけれど、そこまで心配してくれているのに何も言わないのは良くないし……何より、やっぱりあの時、リイナの囮作戦に反対しなかったのは、あくまで本人の意思を尊重しただけで、やらせたかったわけじゃないんだな。


なんてことに安心したので、これ以上引っ張らず、ネタバラシをすることにした。



「心配しないで、大丈夫だから」



私の声を聞くと、フィリックは後ずさって驚いた。



「……ルナ!?」



「あら、しゃべるまで気づかなかった?私もいけるわね。」



まぁ、私だとわかった時の驚き方が、まるで幽霊を見た時のようだったのはいただけないけど。



「性格が違うせいかな…あんまり気が付かれないんだけど、私たち顔も背格好も案外似てるのよね〜いとこだからかしら」


だから意外と私が黒髪のウィッグをつけて仕舞えばそっくりなのよね……簡単に返信できて便利だわ



「どう?多少はときめいた?」



「まっっっっっっっったく」



「ひどっ!仮にも着飾った女性に対していう言葉?」



「悪かった、で、リイナは?」



「大丈夫、奥の部屋でオレンジ色のウィッグ被せて部屋に寝かせてる。」



「大丈夫なのか?」



「強力な眠り薬飲ませただけだから大丈夫よ。後一時間は目が覚めないと思う。あ、一時間も目が覚めないと……パーティー行く相手いなくなっちゃうわね。大変!もう宮殿に入ったっていう目撃情報はたくさん上がってるのに、いまさら欠席なんてできないわよねぇ……?」



私の行動と説明を聞いて、全てを察したのだろう。

フィリックは盛大なため息を吐いてこういった。



「入れ替わってパーティー参加したいっていうんだろ?リイナの身代わりとして。」



「そう」



「全く……なんのために俺たちが……」



「大丈夫よ、同じ呪いを2回かけることはできないもの、むしろ安全よ。それに一人にならないと向こうも姿表してくれないでしょ?」



「……勝手なことを……クロウには言った?」



「言わないわよ、いないから。なんで?」



「……せめて言ってやれよな」



フィリックは額に手を当ててあちゃーとでも言いたそうな表情を浮かべた。



「なんで?」



「もういい。」



「だけど、ここにリイナ残していくのも危険だろ。万一ここかぎつけられたらどうすんだ?」



「大丈夫、そのためにアモルト神父にも来てもらったんじゃない」



「護衛のために読んだのかよ、神父可哀想。」



「心配だったら、一通りやること終わったら部屋行ってあげて。その方が私も安心」



「そうしたいのは山々だけど、ルナは?お前を一人にするわけにもいかないぞ?」



そういえば、そもそも元の物語では、ルナはフィリックのこと好きっていう前提の話なのよね。


もちろん聖女の従姉妹、親族として比べられたことへの嫉妬もあるけれど、いちばんの嫉妬は恋愛に対してだ。


きっと、こうやって一度でいいからフィリックと一緒にパーティーとか出てみたかったんだろうな……


ん?


今の私?



まっっっっっっっっっったく興味ない。




一応子供の頃は好きだったけど……なんだろうな……ときめきとか全然ないわぁ……



なんでだろう。





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