第46話 月の下で

「こんな時間まで起きて、何してるの?」



リオスが探しに行ったちょうどその直後に、声をかけてきたのはクロウだった。

タイミング的にセーフ。


しかし聞かれた言葉に対してはギクリとする。


まさか『神様と話してるところを誰にも見られないため』なんて、言えるわけない。



「もしかして、また抜け出そうとしてる?」



だから、説明できないということは、こういうことを疑われても仕方がない。



「やーね、そんなことするわけないじゃない。」



「どうかな、前科あるからね。君は。」



そう言われると言い返せない。


確かに、ここ一回脱出ルートに使った場所だし……また脱出するんじゃないかって疑われても、無理はないか。


こんな真夜中に部屋抜け出して、立ち入り禁止の場所にいたら、そりゃ止められるわよね。




「本当に違うってば、私は、えーっとその……寝付けなくて……。今日満月だったから、見にきたの。お月見」



だから私はクロウに、月の方を指差しながら笑顔で精一杯そう誤魔化した。

こんなんでいい大人が誤魔化されたりしないわよね……



「……」



しかし、何の返事も返ってこない。


全然返事が帰ってこなかった。

ただ黙ってこちらを見ているだけだ。



「クロウ?」



その沈黙が何の意味かわからず、声をかけてみた。

でも、やっぱり返事はない。


私はクロウの目の前で手を振ってようやくハッとする。



「何?」



「何じゃないわよ。何なのよ、さっきからだっちゃって」



「別に」



な……なんだろう。

何か言いたいことでもあるのかしら……。



「へ……部屋に戻れって注意しにきたんでしょ?いうならハッキリ言いなさいよ」



「いや、何で外にいるのかって聞いただけ」



「だからお月見……」



「君がそうだっていうなら、これ以上僕が言えることないじゃない。」



「……そう………よね。」



注意するつもりじゃないなら、何でまだここから動こうとしないのよ。

用事がないなら戻ればいいじゃない。


どうしたんだろう……まさか……私と話でもしたいのかしら……雑談?


やだもーそうならそうと言ってくれればいいのに。


でも、雑談ったって、何を話せばいいのかしら……あ、そうだ。



「クロウ知ってる?」



「何?」



「月にはウサギが住んでるらしいわよ」



「……」



何よその冷めた目。



「迷信でしょ?え、そんなの信じてるの?意外だね。」



「悪かったわね!忘れてちょうだい!」



ごめんなさいね。もうロマンチックなお伽話はしないわよ!ふんだっ!


私が不貞腐れてプイッとそっぽをむくと、クロウがクスクスと笑う。


何よ、笑ってるんじゃないわよ。

話して欲しいのかと思ったから、会話無理やり捻り出したのに……


だったら一体何でまだここにいるのよ……。


あ、もしかして何か言って欲しいことでもあるのかしら……

まぁ……そうか、今日色々手伝ってくれたんだし……お礼とか……言ったほうが……いいのかしら。


言った気もするけど、心配させたし……改めて。



「なんか今日ごめんね」



私が急にそんなことを切り出すもんだから、クロウは驚いてしまったようだ。



「何が」



「色々連れ回しちゃったでしょ」



黙って抜け出そうとして、危険な目に遭わないように森の奥にあるって情報だけで馬走らせてくれたし。



「そうだね」



「すごいわがままも言ったでしょ」



森に行ったこともそうだけど、帰りにチキン奢ってくれたし。

なんかそれひっくるめて色々。



「そうだね」



「だから……ごめんね」



「そうだね」



私は、ここでなんかカチンと来た。


なんか、暖簾に腕押しってこういうことなのかしら。

結構誠心誠意謝罪したつもりなんだけど……何でそんな返事ばかりなのよ。

実に不満である。



「普通そこは『そんなことないよ』っていうところじゃないの?」



「信頼できる相手には嘘言わないことにしてるんだ」



「あ、真似した。よく覚えてたわね。」



「嫌だったら人の心からの謝罪を無碍にするんじゃないよ。まあまあさっきは本気で謝ってたんだからさ。」



あぁ、そういうことね、私にやられて嫌だったことを一日分やり返してるのよ。

立ち入り禁止の場所に入ってるのもあって、おちょくってたのね。



「やだ、何時間も前のこと根に持ってるの?小さい人ね!」



「何とでも言ってくれ」



「わかったわよ、もうあんなふうに流したりしないわ。」



全く、罰が悪いったらありゃしない。



「そろそろ戻るわ。立ち入り禁止の場所に、いつまでもいちゃいけないもの。」



私はそういうと、くるりと体を翻して神殿の中に戻ろうとした。


でも……



「ルナ」



クロウにと善呼び止められ



「何か作戦がある時は事前に教えてよ。」



「……何よ……急に」



「いや?なんか企んでることがあったりしてと思って。さっきもリイナの申し出に待ったかけてたし。」



「だって……囮になんて危なすぎるわ。止めるのは当然じゃない?」



「だからって、この前みたいに飛び出されたらたまったものじゃないよ。」



「だーれも話聞いてくれなきゃ、相談したくてもできないわよ」



「だったら今度はちゃんと聞くからさ」



「本当に?」



「本当。さっき森に行く時にも謝ったけど、後悔してるからさ。」



「……」



そういうこと聞いちゃうと、決意が揺れるじゃないの。



「それに、考えなしに行動すると、碌なことになら無さそうだからさ」



と、思ったけど、やっぱむかつく。


まぁ、それを聞くかどうかはその時の気分で決めていいわよね。

これは約束じゃなくて、お願いだもの。




「考えとくわ」




私はそう言い残すと自分の部屋に戻っていった。




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