第19話 ハーレムは何処(いずこ)へ

【アロゥシティ・アルファ】から十数キロ離れたとある山岳にて、ルカとルナの二人と共に探索へと出かけていた。


「カズっ!」


 鷲型の原生生物の群れと交戦中、ルカの警告で敵の接近に気が付く。

 こちらへ勢い良く飛び掛かってくる鷲型の原生生物は、足を大きく広げて猛禽類特有の鋭く尖った爪で攻撃してくる。

 敵の攻撃を左腕で受け、右手に持った大太刀の柄頭で敵の頭部を打撃する。堪らず敵は、掴んでいた俺の左腕を離して逃走を始める。痛む左腕を無理やり動かし、敵に最後の一太刀を与えた。


「はぁ……はぁ……。うっ!」


 真っ二つになり、システム的に消えていく敵を見届けると、左腕の痛みが急激に強くなった。


「ようやく倒しきったねぇ……。カズ? 大丈夫?」

「ああ、大丈夫だよ」


 片膝をついている俺に、心配したルカが手を差し伸べてくれる。

 なんて優しい子なんでしょう……。それに比べて―――。


「だらしないわね。それでは先が思いやられるわ」


 ルナさんは相変わらずツンツンだ。

 回復体勢を取って体力を回復させた後、差し出されたルカの手を握って立ち上がる。

 そのとき、ルカの後方に黒い何かが居るのに気が付いた。大きく盛り上がった崖のてっぺんに、逆光ではあったものの、その姿を捉える事が出来た。


「お、おい。あれ―――」


 ルカにも見るよう促すがしかし、奴は素早く崖の向こうへと姿を隠し、彼女が見る頃にはホルヴァがこちらを照らすばかりだった。


「何? 眩しっ! 何も居ないじゃん。悪戯でもする気なの?」

「い、いや……。ごめん、気の所為だった」

「ふふっ、なぁにを企んでるのぉ~」

「な、何も企んでなんか無いよ!」

「ほんとぉ~」

「本当だよ。ただの見間違いだっただけだ」

「だったらさっさとルカから手を離しなさい!」

「え? おおっと!」


 ルナからの叱咤で始めて、今までルカの手を握り続けていたのに気が付く。


「ふんっ! 白々しい。無害アピールをしても無駄よ? わたくしは騙されないから。それもルカの手を一秒でも長く握りたいからやったのでしょう?」

「ち、ちげぇよ!」

「どうだか。男は獣臭くて仕方ないわ」

「俺は人間だ!」


 そんなことより、やはりあの影は幻では無かった。痛みも今まで通り発生していたし、でも運営がこれらに気が付かない事も無いだろう……。一体このゲームで何が起きているんだ?


「ルカ、あなたが呼びつけたんだから、こいつの世話はしっかりしなさいよ?」

「ペットみたいな扱いをするな! 俺は人間だ!」

「カズ、頑張ろうね!」

「えっ……俺の所為なの……?」

「ほら、【アロゥシティ・ベータ】まで行くんでしょ? 二人ともさっさと歩きなさいな」

「はい、お姉様」

「へいへい……」


 他愛も無い世間話をしながら、緩やかな坂道を登って数分後、ようやく【アロゥシティ・ベータ】の城壁の一部が見えた。


「そう言えば、ルカ。これから惑星ボスを倒しに行くって話だったけど、肝心のボスについての情報は入れてあるの?」

「少しだけ。情報は良さげな攻略サイトから仕入れたけど、あんまり知り過ぎても面白くないからね、居場所と名前くらいしか見てないよ」

「攻略サイトか……。そういや、俺の友達にToGの攻略サイトを運営している奴が居たなぁ……。俺は見る必要が無かったから見たこと無いけど」

「へぇ……。カズって、意外と友達とかって居るんだね」

「ん? 何その言い方。俺がボッチみたいじゃん」

「あはははー……。ごめんね?」


 誤魔化すように笑ったルカは、小走りで俺を置いていってしまった。


「ごめんね……? え、ホントにそう思ってたの? ルカ? おーーい! ルカさん? ちょっと!」

「……哀れね」


 このとき何故か、俺を見るルナの視線がいつもよりも痛く感じたのは気の所為だろうか……。



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