第17話 カズ、復活ッ!
一、二、三、四……。
「フゥーー……。上手く出来た……」
凡そ五秒間の盲目の後、戻った視界で周囲の状況を確認する。
対戦相手であるキングは手元を震わせて目を見開き、観衆たちはざわめきを生んでいた。また、そんな観衆の中には動画として先ほど起こった出来事を記録している者も見受けられた。そして抜き放った大太刀の下、自分の足元に転がった矢を見て改めて安堵した。
まあ、まず体のどこにも痛みが無い時点で、狙ってたことが成功しているのは分かってたのだが……。
「お、お前……効いてなかったのか……?」
「いや? 完全に潰れてたよ?」
さも当然の様に言い放った強がりを、どうやらキングは信用したようだった。息を吞んだキングは悪態をつきながらも、追撃の一矢を番える。
その動きを見て、抜き放った大太刀を引き戻して中段に構える。
キングの指が番えた矢から離れるコンマ数秒より早く、中段に構えていた大太刀を脇構えへと移行しつつ、最大限の前傾姿勢で一直線に駆け込んだ。
飛んできた矢を躱し、キングの懐へと飛び込む。このまま振り抜けば一刀両断できるという間合いだが、ここに来て初めて自分の甘さに気が付いた。
目と鼻の先にあるキングの顔。その表情は先ほどまでの余裕の無いものとは違い、何かを狙っているかのようにほくそ笑んでいた。
その笑みを見た直後、背中に突き刺すような悪寒が襲い掛かる。それは明らかに己への危機だと分かった。その正体が何なのか頭で考えている暇は無い。背中に走った悪寒は、すぐさま脳が検知し、信号として脊髄を伝って腕へと向かう。脊髄反射とも見れるほど目にも止まらぬ速さで動かされた片腕は、握った大太刀を背負う様に動かした。
「なっ……!」
背中に回した大太刀は、その腹の部分で折り返し飛んできた矢を受け止めた。
反射的に飛び退こうとしたキングを、もう一足踏み込むことで確実に当てられる間合いに持って行く。
「遅いっ!」
両手で持ち直した大太刀を袈裟懸けに斬りつける。明らかな致命傷だが、これで倒れるほど相手は弱くない。プレイヤーランクによる体力ブーストと、星六バトルスーツによる体力倍率で、あの一刀を受けてもまだ体力は半分以上は残っている。返す刀で再び袈裟懸けに斬り上げる。
キングも負けじと弓で防御姿勢を取りつつ距離を空けようとする。しかしここまで詰まった間合いをリセットするのは無理だ。例え彼の装備しているスーツが移動速度上昇のバフを持っていたとしても、今の俺なら追いつけるし、防ぐ用に掲げた弓も意味を成さない。
邪魔な弓を、くるりと体を回して真下からの斬り上げに繋げてかち上げる。そしてがら空きになった体へ、振り上げた刀を頭から地面まで真っすぐに斬り落として戦闘終了。
ダメージエフェクトが残るキングは、その場に膝をついて放心していた。
「おぉぉぉ! すげぇ!」
「さっきのヤバかったな! 【偏向矢】を見ずに防ぎやがった!」
「それも凄いけど、最初のアレ。意味分かんねぇ……。なんで見えて無いのに切り落とせるんだよ」
あれが【偏向矢】って奴だったのかぁ。まさか、勢いそのままに百八十度別の方向に飛んでいくとは思わなかった……。物理とは? って感じだったな。
終了のブザー音が鳴るが、それよりも騒がしい観衆に嫌気が差す。
今更だと言われればそれまでだけど、こうも騒がれると変な奴に絡まれそうで怖い。
一抹の不安を抱えながら、どうやって周囲を取り囲む野次馬を突破しようかと見回していると、最前列に居るとある人物に目が止まる。
「ルカとルナ? もうここまで来たのか……?」
向こうもこちらが見ているのに気が付いたのか、ルカは手を振り、ルナは眉間に皺を寄せながら中指を立てた。
どんだけ俺の事が嫌いなんだ? あのシスコン。
「おい……あんた、えらく強いじゃねぇか」
キングがこちらを睨みつけながら言う。
「もしかして、サブ垢か?」
「いやいや、そんな事はしてないよ」
「なら、二週目か?」
「う~ん……。まあ、そんなとこだね」
「なるほど……。あんた、【星喰い】じゃないよな?」
キングの【星喰い】と言う単語に、俺も周囲のプレイヤーも口を閉ざした。
ヤバい……。
過去にやらかした俺は、今ここで正体がバレないかと冷や汗を流す。
「気の、所為だろ……。それじゃあ、俺は帰るから……」
町へと一直線に向かう俺に、取り囲んでいた観衆がモーセ効果の様に道を開ける。
過ぎ去る観衆からは、そういやそんな名前の奴が居ただの、戦い方が似てる奴が居ただのと様々な憶測を口にしていた。その怪しむ視線が怖くなった俺は、そそくさと町へと戻った。
因みに、おつかいで発生した予算過剰分の支払いは、きっちりと本人であるロイに請求した。お金は大事だからね。
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