第16話 メタなあいつとオフメタの俺

 はい、という事で始まりました決闘のお時間です。実況は心の中の俺、解説は心の中の俺です。今日もよろしくお願いします。早速ですが解説の俺さん、相手選手はどういった選手なのでしょうか。

 相手選手の名前はキング。クラン、ホーリーナイツのクランリーダーの様ですよ?

 キング……大した名前ですねぇ。某油屋の婆さんもこれには激怒しそうです。

 そうですね。それと、彼のクランであるホーリーナイツですが、我々が居た最初の星系、ノーウ星系内ではそこそこブイブイ言わせている集団らしいですよ?

 う~ん、ブイブイ言わせてるんですか。確かにカナブンみたいな顔してますしね。


「おい、聞いてるのか!」


 心の中でふざけた会話をして現実逃避していると、目の前にカナブn―——ではなくキングがやって来て怒号を叩きつけた。


「はいはい、何でしょう?」

「何でしょうじゃねぇ! さっさと対戦ルールを決めやがれ!」

「えぇ……」


 体慣らしをしたいから、対人戦をするのは願ったり叶ったりなんだけど……。流石にこの数の野次馬に見られながらは嫌だなぁ。

 ここ惑星アロゥはToGにおいて人口が最も集中している星だ。そんな星の第一の町ともなれば、利用者は数えきれない程いる。広場で目立ってしまったのが運の尽きだった。

 ホーリーナイツのメンバーだけなら兎も角……もしかしてあの広場に居たプレイヤー全員がここに居るんじゃないのか?


「そりゃあ、やる気も無くなるよなぁ」

「まだか!」

「はいはい。それじゃあルールは時間無制限のベーシックで」


 ルールの設定と戦闘区域の設定を済ませ、キングとの距離を空ける。

 場所が町から然程離れていない所為か、通行人達が何事かと様子を見に来て、野次馬が現在進行形で増えている。

 エリアの外からこちらを見つめる興味の眼差し。数多の視線が俺の緊張を誘い出す。


「駄目だ。集中しろ……集中しろ……」


 大太刀を帯刀し、相手の様子を窺う。キングは弓を携えていた。弓は対人戦においてメタ武器とされている。手数の多さに威力、そして何より多数の弾種が使用できる。

 そこでふと、最初の惑星で見かけた傍迷惑な対人戦をしていたプレイヤーを思い出す。

 そう言えば、あの時の高ランクプレイヤーも弓を使ってたなぁ……。ん? キングのプレイヤーランクは【403】。あの時のプレイヤーも【403】だった……。


「なあ、聞きたいことがあるんだが……あんた、PvPの戦績はどれくらいなんだ?」

「あ? そりゃあ勿論、百戦百勝! 無敵の男だぜ、俺は」

「ふ~ん……。それは凄いな。でもまさかじゃないけど、初心者狩りなんて卑怯なことはしてないだろうな?」

「初心者狩り? そんなことはしてねぇよ。可哀そうだろ?」


 キングのその言葉に安堵した。しかし直後に続いた言葉に、俺の心は一気に冷めた。


「でもよ。初心者ってどこからが初心者なんだろうな? 俺はランクが【2】以上のプレイヤーは初心者だとは思ってねぇぜ?」


 こいつだ! こいつだけは野放しにしておけない!

 機械音声が五秒の猶予を与えてくれる。

 冷めた心に沸き起こる怒りを抑えつつ、精神を目の前の敵へと集中させる。


『ファイトッ!!』


 戦闘開始の合図は出たが、まだ大太刀を抜くことはしない。まずは相手の出方を見る。

 キングはどこからともなく取り出した六角柱のやじりの矢を番える。その特徴的な形状には見覚えがあった。

 キングの射った矢は、俺の足元に突き刺さりその場で強烈な閃光を生み出した。


「フラッシュか!」


 閃光が発せられる直前、反射的に瞼を閉じたが、流石にこの近さでは瞼を閉じる程度では光を無効化することは出来なかった。

 視力が元に戻るまで五秒ほど掛かる。しかし対人戦において、この五秒間が勝敗を決する場合がある。


「終わりだよ」


 勝ち誇ったようなキングの声が聞こえる。それと同じくして風切り音が迫って来るのが分かった。

 俺は自分の耳を頼りに鍔を弾いた。



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