第14話 同窓会あるある

 ルナに負けたあの日からひと月ほど経った。

 あれから俺は、健康的な身体を取り戻すのも兼ねて体を鍛えた。まずはストレッチの様なものから始め、次に基本的な筋力トレーニングを開始。そこからランニング、水泳、器具を使っての本格的な筋力トレーニングへと段階を上げた。

 一ヶ月間みっちりと取り組んだおかげか、はたまた年齢の若さのおかげか、俺の体は誰がどう見ても健康体だと判断できるくらいには戻った。

 そして今日、自らが定めたゲーム禁止期間が終了した日だ。


「これで、百二十体目っ!」


 区切りの良い数字に一息つきながら、惑星ボスに突き立てた剣を引き抜く。

 現在、衛星ムンテーからノーウ系第四惑星の【ガリナ】へと場所を移し、雑魚敵には目も暮れずに惑星ボスを狩りまくっていた。この【ガリナ】と言う惑星は、序盤の経験値稼ぎには最適の場所だ。そのおかげで俺のプレイヤーランクも早々に【20】を超えた。

 更に武器防具も更新し、防具は星三の【アスリート】に、武器は宝石シリーズと呼ばれるレアリティ【アンコモン】の大太刀【ガーネット】へと変えた。


「切りも良いし、一旦の休憩にするか」


 腕慣らしと武器慣らしの両方を終え、【ガリナシティ・ベータ】へと帰還する。

 町の門をくぐり、装備屋に武器の耐久値回復を依頼した俺は、ふと何気無しに店の外を眺めた。すると眺めていた窓を横切るプレイヤーに目が吸い込まれる。

 見覚えのあるそのプレイヤーの正体を確認する為、慌てて装備屋から飛び出した。


「ロイ!」


 俺の突然の呼びかけに、件のプレイヤーはキメ顔で振り返った。


「戦争か……。二年ぶりだぜ」

「何寝ぼけたこと言ってんだ。ロールプレイは程々にしろよ?」


 金髪で少しチャラついた雰囲気のそのプレイヤーは、俺の反応に少し残念そうな表情を見せる。


「なんだよ、カズじゃねぇか」

「久しぶりだな」

「本当に久しいなぁ! 今までどこに居たんだ?」

「それを説明するには、少し時間が掛かるな」

「そうか。それより見た目、変えたんだな。どうした、気分転換か? それともお前もロールプレイに目覚めたか?」


 相変わらず、変わってねぇなぁ……。と言うか、よく俺の事が分かったな、こいつ。名前は一緒だけど、見た目が少し違うし、プレイヤーの情報自体も違うのに……。雰囲気で分かったのか?


「両方とも違うな。理由はスーパーノヴァだよ、覚えてるか?」

「ああ、覚えてる」

「あれで俺のデータが吹っ飛んでさ。それで仕方なく最初からプレイしてるんだ」

「なるほど、それでPRが低いのか」


 一旦、装備屋に預けていた武器を回収した俺は、ロイと共に特に行先も決めずに町中をぶらぶらと歩いた。


「他の【ハイエナ】のメンバーはどうしてる? ティースとかイーグルは」

「元気にしてる、とは言えないな……」

「そんなにあの事件は影響があったのか?」

「ああ。あの爆発に巻き込まれたプレイヤーのほとんどが何かしらの不調を訴えた。酷い奴は入院沙汰、最悪の場合は……」

「マジか……。それじゃあクランメンバーは……」

「ほとんどが入院してるし、亡くなったって奴も居た。……ティースは! でもティースは一ヶ月前くらいに目覚めてさ! 元気してるみたいだよ」

「そうか! あいつもしぶといなぁ」

「俺と同じで悪運が強いんだろうよ。ハハッ」


 まるで同窓会で話すような話をしていると、いつの間にか宇宙船を停める【港】にやって来ていた。

 すると突然、ロイが興奮気味に俺の両肩を掴んで揺らしながらこう提案して来た。


「カズ! 今から【アロゥ】へ行かねぇか?」

「はぁ? 何言ってるんだよ。俺はまだここに来たばかりだぞ? 適正レベルじゃねぇんだぞ?」

「大丈夫だって! あっちには買い出しで行くだけだ。戦闘になる事は無いさ」

「ホントかよ……」

「ホントだとも! それに久しぶりに会ったんだから、もう少し俺に付き合ってくれてもバチは当たらねぇだろ?」

「分かったよ。それじゃ一緒に船に乗せてくれ。俺はまだ持ってないんだ」

「あいよ。フフフッ、統合戦争で百八十機を撃墜した俺の操縦テクニックを見せてやるぜ」

「ありもしない戦争を捏造するな。それに、このゲームの宇宙船は武装できないし、船は自動で動くんだから、テクニックもクソもねぇだろ」


 こうして俺は、不本意ながら最初の星系、【ノーウ】星系を飛び出し、第二の星系である【ホルヴァ】星系、その第四惑星である【アロゥ】へと向かった。



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