第12話 主人公、敗北!(唐突なネタバレ)

「止めるのなら今の内よ?」


【ムンテーシティ】から徒歩十分、ルナの無礼さに憤慨した俺は彼女に対してPvPを申し込んだ。


「それはこっちのセリフだぜ。良いのか? ランク八百越えてる人間が、ランク一桁の奴に負けなんてしたら大恥だぞ?」

「ふんっ! あなたに心配される筋合いは無いわ。あなた如きに負けるわたくしでは無いから」


 言ってくれるぜ……。

 しかし、口では強気な言葉を吐いているが自信は無かった。彼女のプレイヤーランクは【853】、装備しているスーツはレアリティ星六の【サフルティコーサー】。武器に雷属性を付与するアビリティを持つスーツだ。

 ルナのアバターが着ているチャイナドレスを見て分かる通り、彼女は伊達にこのゲームをやっている訳では無さそうだ。


「あなたが売った喧嘩だから、わたくしがルールを決めて良いわよね?」

「お好きにどうぞ」

「なら、ルールは時間無制限のベーシック、どちらかの体力が一になるまでの勝負よ」

「おーけー」


 ルナからルールを聞くと、ある程度の距離を空けて太刀を装備する。彼女も呼応して踵を地面にコツンと当てる。すると、みるみるうちに彼女のつま先から膝上までに重厚なメカメカしいブーツが現れた。


「【ブーツ】か……」


 武器種【ブーツ】。それは直近のアップデートで追加された武器種で、形態変化と呼ばれる特殊アクションが存在する。更に同武器種は【スラッシュブーツ】、【ブーストブーツ】、【ガンブーツ】の三タイプが存在し、彼女の装備している【ブーストブーツ】は、内蔵されたブースターによって唯一無二の高機動戦闘が可能となっている。

 因みに俺はこの武器種の名前以上の事は知らない。


「やばいなぁ……」


 喧嘩を売ってから気が付いた。これ……圧倒的に不利では?

 相手のプレイスタイルが不明なのは勿論の事、相手の武器がどういう特性を持っているのかも分からない。その上、彼女の体力はスーツの体力倍率とプレイヤーランクによるブーストを合わせて大体、俺の数十倍はある。俺からしてみれば惑星ボスに挑むような感覚だ。


「準備は良いようね。なら始めるわよ?」


 スーツを頭まで装備したルナがPvP開始のボタンを押す。

 機械的な音声が五秒の猶予を与えてくれるが、今更心の準備をし直すなんて吞気なことはやらない。帯刀したときから全ての準備は終えている。


『ファイトッ!!』


 そうゲーム側のアナウンスが流れた直後、ルナのブーツがふくらはぎ裏の装甲を展開したのを最後に、俺の視点は宙を舞った。

 何が起こったのか理解できたのは、打ち上げられた自分の体が地面に叩きつけられてからだった。

 胴が真っ二つになっているのではと錯覚してしまう程、彼女の脚が直撃した腰は感覚が無く、上手く体を動かすことが出来なかった。

 放心状態で仰向けに倒れる俺に、ルナは見下ろしながら言った。


「弱いくせに……。分を弁えることね」


 戦闘終了のブザー音が鳴り響く。動かない俺を心配するルカの声は、気付けば足音と共に消えていた。

 自分の行き場所に困った俺はメニュー画面を開き、静かにログアウトボタンを押した。


 一瞬の浮遊感を味わった後、両目を開ける。こちらは夜だった。

 喉が渇いていて声が出ないので、部屋を出て真っ暗な自宅を徘徊する。一階のキッチンにあるウォーターサーバーで水分補給を済ませて、再び自室へと戻って気が付いた。


「あぁ……俺……悔しいんだ……」


 声が出なかったのは喉が渇いてたからじゃない。さっきの事について、気持ちの整理が出来ていなかったからだ。

 ベッドへと倒れ込み、天井を見上げた。

 脳裏でついさっきあった戦闘がリプレイされる。

 手も足も出なかった。かつて『星喰い』と呼ばれゲーム内で特別視されていた俺が、嫌われて畏怖されていた俺が、こんな情けない負け方をするなんて認めたくなかった。

 相手は決して手を抜いていなかった。痛みすら感じなかった全力且つ、正確な蹴りがそれを証明している。ただその事実が尚更、心に刺さる。

 俺は、どこまで落ちたんだ……。

 自分の不甲斐無さが恥ずかしくて、叩きつけられた現実に悔しさを感じたその夜、俺は涙に溺れながら眠りについた。



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