第11話 お姉様、参上!

 始まりの惑星アルタ、その惑星ボスの討伐を成し遂げた俺とルカさんは、ゲーム内NPCが運営する宇宙船の利用が許可された。そして現在地を惑星アルタの唯一の衛星【ムンテー】へと移した。


「お姉様、遅いなぁ……」


 今何をしているのかと言うと、彼女曰く、お姉様に【ギガス】の討伐を報告したところすぐ合流したいから【ムンテー】の町に来てくれとの事らしく、どうせなら一緒に戦った仲間も紹介したいからと彼女の姉を一緒になって待っているのだった。


「あの、ルカさん……。本当に待ち合わせ場所はここなんですか?」

「間違いないですよ。広場と言えばここですし、この星には一つしか町が無いって言ったのはカズさんでしょ?」

「それはそうですけど……」

「それと! さん付けは止めませんか? ここまで一緒に戦った仲ですし、私はもっとカズさんと仲良くなりたいと思ってますし……」


 可愛らしい女の子に、そんな上目遣いで物乞いされては、耐性の無い俺の様な人間は頷くしかないじゃないか!


「分かりましたよ……。さんも敬語も要りません。その代わり、自分もため口と呼び捨てを使いますよ?」

「良いよ。カズなら使われても嫌じゃないから」


 何だろう……。ムズムズする。


「そういう言い方、あんまり他でしない方が良いよ」

「ん? あたし何か失礼な事言った?」

「いや、何でもないよ」


 お姉様とやらを待ち始めてそろそろ三十分が過ぎる。暇な気持ちを星空へと飛ばす。ゆっくりと動き瞬く星々、その中を漂い流れる青く輝く美しい星。かつて月に降り立った宇宙飛行士は実際にこの景色を見たのだろう。ゲームですらここまで美しいのだから、リアルで見れたならどれほどのものだろうかと考える。

 先程まで居た惑星を見上げていると、頭上を小型の宇宙船が通り過ぎる。折角の無心状態を切られた俺は視線を上から広場へと戻した。直後にルカが声を挙げた。


「あ! お姉様ー!」


 大げさに手を振る彼女の視線の先には、真っ直ぐこちらへと向かってくる麗人が居た。輝く星々に照らされて、さもそこに宇宙が広がっている様な美しい長髪。ぴっちりと体のラインが浮き上がるチャイナドレスを身に纏いながらも、そこらの下心満載なプレイヤーとは違う品格。キリッとした芯のある眼差しは行き交うプレイヤーを映さず、むしろ周りの関心を惹く魅力をそのプレイヤーは漂わせていた。


「もう! 遅いよ、お姉様」

「ごめんなさいね。直前になってお父様から呼び出しがあって―――」


 お父様!? また新しい存在が出て来たぞ!


「今度の会議に出るように言われたのよ」

「それ、あたしも行った方が良いのかなぁ?」

「う~ん……特にはお父様から言われていないから、あなたの好きにすると良いわ」


 何の話か全く分からないんだけど……。あれか? この二人はそう言うロールプレイをしているのか?


「ところで、はr……ルカ? 隣にいるアホ面の男は何?」

「誰がアホ面だ!」


 つい大声を出してしまった……。でも許して欲しい。こんな無礼な奴に対して怒るのは変じゃないだろう。


「何? 自分の事が分からないのかしら? アホなのは面構えだけにしてくれる?」

「てめぇ……。初対面の人間に向かって! 失礼だと思わないのか!」

「そう思うのならまずは名前を名乗ったらどうかしら?」

「見たら分かるだろっ!」

「あなた、人間と会話したことが無いの? 人間社会では例え名刺を持っていてもまずは名乗るのが礼儀なのよ?」


 言い方は腹が立つが、確かにその通りだ……。


「カズだ」

「・・・・・」

「何か言えよ!」

「何を?」

「よろしくとか自分も名乗るとかあるだろ」

「別にあなたとよろしくするつもりは無いのだけれど?」

「だったら名乗るぐらいしたらどうだ」

「見たら分かるでしょう?」

「うぜぇ!! おめぇさっき自分が言った事忘れたのかよ! 記憶吹っ飛んだのか!?」

「覚えてるわよ」

「だったら何で名乗らねぇんだ!」

「人間以外に名乗る必要は無いわ」

「俺は人間だっ! お前と同じ人間だ!」

「やーね。アホのあなたと一緒にしないでくれる?」


 今まで無礼な奴は沢山出会って来た。戦闘中、特に意味も無いのにひたすら後頭部を撃ってくる奴、PvPで勝ったら目の前でふざけたダンスを踊る奴。でもそれらはあくまでゲームをゲームとして楽しんでいるからやっているだけだった。でもこいつは違う。ゲーム以前に中の人間が無礼だ。


「何かしら? そんなにじろじろ見ないでくれる? 穢れるわ」

「名前を確認しろって言ったのはお前だろ……」

「お前じゃないわ。ルナよ。文字も読めないのね、あなた」


 人をコケにしやがって……! 今にも脳の血管がプッチンいきそうだ。


「まあまあ、落ち着て。お姉様もカズも、二人とも仲良くね?」

「すまん、ルカ。流石の俺もこいつだけは無理だわ」

「あら、奇遇ね。わたくしも同意見よ」

「なぁにがだ。お嬢様ぶりやがって!」

「やはりゲスな人間には、人を見る眼と言うものが備わっていないのね」

「良く言う! 人を人として認識できないような奴が!」

「まだ自分を人間だと思っているの? 人の妹に付きまとう金魚のフンの分際で」

「お、お姉様? カズはちゃんと手伝ってくれたよ? あたしの分からない事も教えてくれたし」

「どうだか。どうせ知識だけはあるイキりプレイヤーでしょ?」


 ルナの見下した言葉に、ついに俺の堪忍袋の緒が切れた。


「お前……今すぐ俺と勝負しろ!」

「カズ!?」

「ふんっ! 低ランクの癖に生意気ね」

「そう言うお前のプレイヤーランクは、たかだか三桁だろ? 精々中堅プレイヤーってとこだ。特に変わらんだろ」


 俺の煽りが効いたのか、ルナの表情が今までの余裕の顔から真剣なものへと変わる。


「良いわ。あなたの勝負、受けて立つ」

「お姉様!? ふ、二人とも仲良くしてよぉ……」



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