第10話 ゴリラの戯れ
ノーウ系第三惑星アルタ。始まりの惑星とも称されるこの星の主は、人間の四倍はあろうサイズの類人猿だった。
固有名称は【ギガス】。特徴的な漆黒の体毛には、洞窟に自生しているものと同様の苔が生えており、一生を暗闇で過ごす目は小さく退化している。
惑星アルタの生態系には当てはまらない、まさしくイレギュラーな存在であるこいつは、自然から追われ洞窟と言う外界から隔離された場所で生活をすることになった。これはある意味で生態系から逸脱していると言える。
その実態は、気性は穏やかだが縄張り意識が高い。これは奪われ追われて来たこいつなりの最後の抵抗なのだろう。そしてその巨体とは裏腹に体力は少ない。これも今まで争いから逃げて来た為だ。
「可哀そうだが、最初のボスとしては申し分ない。この世は弱肉強食だ!」
自らを潰そうと飛んできた拳を躱しざまに斬りつける。
「ルカさん!」
俺の横を猛スピードで駆け抜けていくルカさんに心配の声を挙げる。しかしその心配は不要だった。
肉薄して来た彼女に対してゴリラは、再びその巨大な拳を叩きつけんと振りかぶった。だが、彼女は最小限の動きでこれを回避、そして地面に突き刺さった拳から腕を駆け上がる。肩を飛び越え、ゴリラの眼前に到達した彼女は思いっ切りゴリラの顔面に向かって左フックをかました。
「おぉ……」
あの巨体が彼女の一撃でよろめいている……。
俺のところまで飛び退いたルカさんは、そのまま追い打ちをかけに駆け出した。
体勢を回復させたゴリラは、殴られまいと壁を抉って得た岩をルカさんに向かって投擲する。しかしそんな岩一つで彼女の足が止まる事は無かった。ルカさんは飛んできた岩を殴り一発で粉砕し、そのままゴリラの足元に潜り込んで蹴りを放つ。ガンッと言う鈍い音が洞窟内に響き渡り、今まで弱った素振りを見せなかったゴリラが初めて片膝をついた。
しかしゴリラの体力はまだ七割は残っている。ルカさんは容赦無くゴリラの腹に渾身のアッパーカットを叩き込む。すると人の四倍はあろう巨体が、少しばかり浮いてそのまま仰向けに倒れた。
「こりゃあ、俺の出る幕は無いかな?」
巨大なゴリラを殴り飛ばす女。どっちがゴリラか分からん……。
「カズさん。今、何かとてつもなく失礼な事を考えてませんか?」
「え!? い、いやいや。そんな訳無いじゃないですか」
「ホントですか? 私を見る目が、そこのゴリラを見る時の目と同じなのは気の所為でしょうか?」
「気の所為ですよ! ハハハハハー……」
談笑をしている後ろで、仰向けに倒れていたゴリラが起き上がるのが見えた。
ん? 来るか?
「というか、カズさんも攻撃に参加してください。折角ペアで討伐しているのに、独りで戦っているようで寂し―――」
俺の直感は正しかった。
ルカさんを狙った起き上がり際の薙ぎ払いを、間に飛び込み太刀で擦り上げて往なす。毛に覆われた腕とは思えない独特の金属音にも似た音が、握った太刀への振動と共に届く。
立ち上がり再び咆哮を挙げるゴリラを尻目に、ルカさんへ先ほど話していた言葉の返答を伝える。
「ダメージレース的にはルカさん一人で十分です。このボスは体力は少ないですが、攻撃力は高い。だから自分は攻撃に参加するよりも、ルカさんのバックアップに回った方が確実なんですよ」
「そう……ですね……」
ルカさんは完全に油断していたようで、俺の話に返事をするがどこか上の空だった。
ボーッとしている彼女の顔の前で拍手をしてやる。
「わっ!」
「大丈夫ですか? しっかりしてください。パーティーを組んでいるんですから、独りで戦っている訳じゃないんです。背中を預けるのは心配かもしれませんが、仲間を信じないと勝てるものも勝てませんよ?」
「……そうですね。それでは援護をお願いします!」
「了解」
ここからボスの体力は著しく減っていった。
この【ギガス】の攻撃パターンは大きく分けて殴り、両拳による叩きつけ、振り払い、岩石投げの四パターン。その内、今回警戒すべきは振り払いのみ。
振り払い攻撃は予備動作が短い上に攻撃範囲がそこそこ広い。ルカさんなら反応出来るだろうが、防いでやるに越したことは無い。他三パターンは予備動作が長いので見てから避ける事が出来る。
あとは精々、岩石投げを甘く見ない事かな?
「ルカさん。トドメを!」
ルカさんにラストアタックを譲り、肩の力を抜く。
岩石投げの予備動作に入っている【ギガス】。そこへルカさんは大きく跳躍し、敵の顔面に狙いを定めて拳を握り込む。
欲張ったな!
抜いた肩の力を入れ直し、彼女よりも大きく速く跳躍する。ルカさんが攻撃するよりも早く放たれた岩石を、彼女に命中する前に真っ二つに斬り落とす。
「そのまま!」
「てやああああ!!」
重い一撃を顔面に受けた【ギガス】は仰向けに倒れ、その体力ゲージと共に消え去った。
騒がしいクリアBGMを聞き流しながら、ヘルメットを取ったルカさんに向かって見せるように太刀を持ち上げる。
ルカさんは何事かと首を傾げる。
「ハイタッチですよ。このゲームでは武器でハイタッチをするんです」
「そうなんですか。じゃあ……はい、お疲れさまでした」
「お疲れ様です」
クリアBGMが鳴り終わるのと同時に、お互いの武器がカチンと音が鳴る。
かくして、復帰勢の俺に新たな仲間が出来たのだった。
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