第8話 初デート?

 ルカさんとレベル上げをしていて、いくつか気が付いたことがある。

 まず、彼女が扱う【手甲】と言う武器について。そもそもこの【手甲】と言う武器、例えるなら剣道の籠手、ボクシンググローブ、作業に使われる安全用の手袋といった両手を保護する為の物で、いわゆると呼ばれる戦闘スタイルだ。従って、戦闘レンジが極端に短く、相応の危険性のある武器になっている。

 しかしながら武器自体の攻撃力がそこまで高く無く、どちらかと言うと手数で圧倒するタイプの武器と認識していたのだが、ルカさんの戦闘を隣で見ていると一概にそうも言えないようで認識を改められた。

 次に彼女の戦闘スタイルについてだが、見た目によらず攻撃的な動きをするプレイヤーだった。

 女性プレイヤーといえば銃や弓矢など、比較的扱いやすく敵との距離が離れる武器を良く使う。これは偏見では無く、運営が定期的に提示する武器使用率としても明確に出ているし、俺も自分の眼で見てそう判断している。極稀に近接武器を扱う女性プレイヤーを見るが、大体戦闘狂だったりする。これは女性に限った話では無いが……。

 兎に角、彼女の冷静且つ大胆な戦闘スタイルは女性と言う要素を除いたとしてもレベルが高く、目を見張るものがあった。恐らくプレイヤースキルだけならば中級者、延いては上級者にも匹敵するかもしれないものだ。

 その他ルカさんの動きの癖やカタツムリが可愛く見えて来たことなど、さまざまな事に気が付けた。


「どうしました? カズさん」

「あ、いや……本当に初心者なのかなって」

「もう、やだなー。私はこのゲーム、初めてですよ? 確かに向こう側では大会とか出てましたけど、それだけで強くなったりはしないでしょう?」


 どうやら彼女は勘違いしている様だ。このゲームがどれだけ現実世界と密接な関係を持っているのか、自分の実力がこのゲーム内でどれだけの物なのかを。

 現に先程の戦闘は凄まじく、経験者の俺でさえ興奮で鳥肌が立つ感覚があった。

 ついさっき、遭遇した猿型の原生生物の亜種、テナガザル型の敵対原生生物との戦闘では、木々を高速で駆けまわる相手に対して、追いかけるような愚直な行動はせずに相手が攻撃してくるのを待っていた。そして彼女を囲むように飛び回っていた敵が固く尖った自慢の尻尾を伸ばして攻撃して来た直後に躱し、ほぼ同時にその尻尾を掴んだ。掴んだ尻尾を綱引きの要領で本体を引き寄せ、寄って来た本体の頭部をこれまた掴んで地面へと叩きつけて決着となった。

 その初心者離れした戦闘技術と状況把握能力の高さ、戦闘終了までの鮮やか過ぎる動きに、その時俺は思わず拍手をしてしまった。

 この人、リアルでも相当な実力者に違いない……。


「それより、カズさん。そろそろ休憩にしませんか? 体力も少なくなってきましたし」


 ルカさんにそう言われて彼女の頭上に表示されているプレイヤーランクを見てみると、【2】から【4】に上がっていた。この時間でここまで上がっていれば上々だろう。かく言う俺も【1】から【3】まで上昇している為、一旦の休憩を挟みたいところではあった。


「それじゃあ、一旦町に戻りますか?」

「そうしましょう」


 こうして町へと戻る事になった俺とルカさん。その道中、ルカさんがこんな話を持ち出した。


「惑星ボスって、どれくらい強くなったら倒せますかね?」


 惑星ボスとは、各惑星の生態系に属さない特殊な個体の事を指す。

 ToGは様々な惑星や惑星系を飛び回り、探索から戦闘まで自由な冒険が売りのゲームだ。

 しかしそう簡単にあちこちに飛んでいける訳では無い。別の惑星系または惑星に行くにはボスを倒す必要がある。それが惑星ボスと呼ばれる存在で、基本的に惑星ごとに難易度が設定されており、先に進むごとに難易度が上がり、ボスも強くなっていく。

 要するに最初の惑星系で始まりの惑星であるここは、ボスの強さも然程恐れる必要は無いという事だ。


「さあ? このゲーム、ランクが上がったからって強くなる訳じゃ無いので。まあ、大体、十くらいが適性なのかなぁ」

「今の私じゃあ無理って事ですか?」

「いえ、そう言う訳じゃ無いですけど……」


 現在、俺たちが居る始まりの惑星【アルタ】のボスは、見上げる程巨大なゴリラだ。見た目のインパクトは大きいが、ソロでの討伐は難しくない程度。

 確かに強くは無いけど……プレイヤーランクが二桁も行っていないプレイヤーがソロ討伐は難しいかなぁ……。


「もう少しランク上げをした方が確実ですよ?」

「でも……お姉様と早く合流したいんです」


 お、お姉様? 急にお嬢様っぽくなったぞ? てか本当に姉が居るのか?

 ルカさんの何気ない告白に対して、ついついゴリマッチョなお姉様を想像してしまう。


「今、失礼な事考えてませんでした?」

「い、いやいや、そんなこと無いですよー」


 エスパーか何かか? この人。

 心の中で掻いた冷や汗を拭いながら、本来するべき思考へと戻す。

 ルカさんの実力は目を見張るものがある。でも流石に体力が足りなくなる可能性が高い。射撃武器なら今のランクでも行けるだろうけど……。


「う~ん……。やっぱりソロでやるならもう少しランクを上げた方が―――」

「えっ? 何を言っているんですか? カズさんも手伝うんですよ?」

「えっ?」

「えっ? 言ったじゃないですか。私達って」

「ペアで……討伐……?」

「そうですよ。ここまで来たなら一蓮托生です!」


 これが旅は道連れって奴かぁ……。


「拒否権は―――」

「ありませんっ!」


 ルカさんは強引な人みたいだ。


「あっ!、でも今日は行かないので、明日行きましょう! なので―――」


 俺が遠い目をしていると、ルカさんがモジモジとしながら俺の事を見つめていた。

 絵面が……。スーツを着たままだからトキメクより面白さの方が勝っちゃってるんだよなぁ。


「フレンドになってくれませんか?」

「はい、喜んで」


 こうして俺とルカさんはフレンドになった。



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