第7話 初デート?
「へぇ~、カズさんって二週目なんですか」
宿屋に隣接するカフェにて出会った女性(?)プレイヤー、ルカさんと共に町の南側に広がる湿地帯へとやって来た。
「ええ。あっ、でもサブ垢ってわけじゃないですよ?」
「そうじゃないと困ります。このゲームで出会った初めてのお友達が規約違反をしているなんて分かったら、悲しくて泣いちゃいますよ? 私」
「あはは……気を付けます」
「でも……それならどうやって二週目に? だって自分でデータを消したり出来ないじゃないですか。あっ! もしかして―――」
「はい。スーパーノヴァ事件に巻き込まれまして……」
「あー、やっぱりそうなんですね。ん? てことはこのゲームをやり込んでたってことですか?」
「まぁ、そこそこ……」
リアルタイム一万時間越えてるなんて、恥ずかしくて言えねぇ……。
「それは頼もしいですね! 私、初心者なので分からないことが多くて……」
確かに、彼女の頭上に表示されている数字と装備している物的に始めてたてと言うのは一目瞭然だ。
でも何故だろうか。とても初心者には見えない。
ルカさんに少しばかり違和感を感じながらも湿地帯を進んでいく。
この湿地帯、敵対する原生生物の数は少なく、中立もしくは友好的な原生生物が多い。レベル上げをする狩場としては注目されない場所だが、敵の数が少ないのに比例して貰える経験値が他の場所より多い。それに敵の数が少ないのも場合によっては利点にもなる。動きに慣れていない初心者が急に最高率の狩場に行っても、うま味をあまり感じられないなんて事はざらにある。最大効率で動く術を知らないのなら、まずは動きになれるよう敵の少ないところで戦った方が良い。
「おー、貸し切り状態ですね」
「ここは割と穴場なので」
敵を探して周囲を見渡していると、大きな木の影からのっそりと巨大なカタツムリ型の原生生物が出てきた。こいつは敵対では無いがこちらが手を出すと敵対する中立生物で、この湿地帯の中では二番目に獲得経験値が多い。
カタツムリ型の原生生物は俺達の事など目も暮れず、テカテカな巨体をよっこらしょと言わんばかりに起こして、木の幹に生えた苔をモソモソと食べている。
一部のマニアックな愛好家からは愛されてるけど、あのサイズはちょっと……可愛くないかなぁ……。
「ルカさん。あのカタツムリ、美味しいですよ?」
そう彼女に振り向くと、そこにはルカさんは居らず、直後にカタツムリの居た方向からドカッと言う破壊音とパンッと言う破裂音が続けざまに聞こえた。
もしかしてと思い振り向くと、そこには拳を突き出して固まっているルカさんと、根元から破壊された木。その先にカタツムリだったものが炸裂してへばり付いている別の木があった。
「えっと……」
「あっ! ご、ごめんなさい! 倒しちゃいけませんでしたか?」
「いや、倒しては良いんですけど……。中々、殺意が高いですね」
「私、ああいうヌルヌルしたものが苦手で……つい……」
システム的に跡形も無くなっていくカタツムリに心の中で手を合わせつつ、俺は引っ掛かっていた違和感の原因に合点がいった。
この人、やってる人だ。
「あの、もしかしてルカさんってリアルで武道か何かやられてますか?」
「え? ええ。柔道と……ボクシングを少し」
やっぱり。
俺が彼女に感じていた初心者ならざる雰囲気は、これが原因だった。
そもそも変だったんだよなぁ。このゲームが発売されて三年が経とうとしているこのご時世に、今更初心者が近接武器を使うなんて……。そりゃあ、よっぽどの情報不足か実際に現実でやってる人しか居ないだろうよ。
彼女の気品ある立ち居振る舞いの中に、薄っすらと格闘技経験者特有のオーラの様なものを感じた。それは何となく感じたものだったが、俺の直感は正常に機能しているようだ。
「凄い威力ですねぇ」
「え、そうですか? あれを一撃で倒すのって難しいんですか?」
「いえ。自分が言っているのはダメージでは無くて、威力ですよ」
俺の言葉にルカさんは首を傾げる。
初期装備でもあのカタツムリを一撃で倒すことは出来る。勿論、彼女の持っている武器【手甲】でも出来るのだが、俺が褒めたのはダメージと言う数字ではない。彼女の放った拳が持つポテンシャルが凄まじいのだ。
洗練された肉体操作から繰り出されたストレートパンチ。無駄なく、しかし余力を持った殴りは、ボクシング素人が見ても多くの鍛錬を積んできたのが分かる事だろう。残念ながら先ほど放った彼女のパンチを拝むことは出来なかったが、きっと美しかっただろう。でなければ人間サイズのカタツムリが、十メートル先の木に叩きつけられ、原形が無くなる筈が無いからだ。
「これなら話が早いですね。それじゃあ、このまま狩っていきましょうか」
「はいっ!!」
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