第6話 いざ、ToG。

 チュートリアルのガイドに沿って歩くこと五分。最初の町である【アルタシティ・アルファ】が見えて来た。純白の城壁に囲まれた堅牢な町には、様々な機能がある。

 例えば、死亡後にプレイヤーを再出現させる地点、所謂リスポーン地点の更新を行える場所があったり、武器の売買や修理を頼める装備屋があったりと、この町と言う存在はToGを遊ぶ上で切っても切れない縁なのだ。

 そうこうしている内に先日、野良プレイヤーを庇った丘に辿り着いた。眺めの良いこの丘からは町だけでなく、その周囲を囲む平原もしっかりと見渡すことが出来る。


「ん? あれは……」


 見下ろした視線の先には、見るからに異質な半球状の半透明な壁があった。そしてその中には二人のプレイヤーの姿が確認できる。


「対人やってるのか。あんな所でやるなよなぁ……」


 PvPを行っている際、周囲には半透明なバリアが生成される。このバリアには攻撃だけでなく物の出入りすらも制限される。彼らが戦っている位置は町の北口近くで、バリアの範囲がその北口に迫っている。

 バリアの範囲はプレイヤーが決めるのだが、あの範囲の取り方では通行する他のプレイヤーの邪魔になってしまう。


「全く……どこのどいつだ。あんな迷惑な範囲の取り方をしたのは」


 俺は興味本位でプレイヤーネームを見ようと、PvPを行っている二人のプレイヤーに向かって目を凝らす。


「えっと……。プレイヤーランクが【403】と【3】か。何だ? 初心者狩りか?」


 しかし、このゲームでの初心者狩りはメリットが何もない。あるとすれば、初心者側にビギナーミッション内にPvPを行う項目があって、それが勝敗に限らず達成出来ることぐらいだ。

 でもあの経験者側が、そんなボランティア精神のある善人には見えなかったから、恐らく弱い者いじめが好きな頭のおかしな人間なのだろう。


「絡まれたくないから西口から入ろっと」


 純白の城壁にポッカリと開いた巨大な入り口を潜ると、そこは統一された建物たちがずらりと並んで、やって来たプレイヤーを出迎える賑やかな大通りだった。

 俺はその通りをずっと真っすぐ歩き、中央の広場でとある建物を探す。


「うっわ~、そのケツすっげ~。スクショして良い?」

「良いぞぉ~」

「あ~、良いっ! もっとくっ付こ!」

「おっけー。あ~、やっぱ執事と主人のペアが一番よねぇ~」


 妙な会話をしているスクショ勢の間を抜けて、宿屋と書かれた看板を掲げる建物に入る。建物には大きなガラス窓があり、その近辺には椅子とテーブルが規則正しく置かれていた。

 隣のカフェエリアで雑談や食事を楽しむプレイヤーたちを尻目に、宿の受付カウンターへと足を運ぶ。


「いらっしゃいませ。ご希望のサービスをお選びください」


 カウンターに着くなり受付ロボットから話しかけられる。

 自分の中に生まれた少しばかりの嫌悪感を拭い去り、カウンターと一体になっている注文表から【リスポーン地点の更新】と言う項目を指でタップする。すると数秒の間の後、受付ロボットが更新を完了したことを告げた。


「さて、やることやったし、早速戦いに行くかなー」


 そう何気なしに呟きながら宿屋を出ようとした直後、すぐ隣のテーブルから声を掛けられた。


「あ、あの!」

「はい。えっと、何でしょうか……?」

「あなたですよね? 先日、私の事を庇ったのは」


 一瞬、自分の頭の上にはてなマークが生まれた。

 庇ったのは覚えている。じゃあ何で首を傾げたのかと言うと、あの時プレイヤーネームを確認していなかったからだ。この町と言うエリアでは【バトルスーツ】を装備することは出来ない。逆に町の外では、顔以外の部分に強制的にスーツを装備する。

 当時は、お互いにスーツを顔面まで装備したフル装備で出会った為、お互いの顔が分からなかった。おまけに名前も覚えていないともなれば個人を判断できる訳が無い。

 俺は恐らく助けたであろうプレイヤーに、実に社交辞令的な返しを行う。


「あー、あの時はどうも。お騒がせしてすみません」

「いえいえ、助かりました。突然、襲われて。びっくりして動けませんでした」

「そうでしたか。あの後、襲ってきた奴はどうなりましたか?」

「あぁ、それなんですけどね。貴方がやられた後に私も倒されちゃって、どうなったか分からないんですよ」

「そうですか……」


 良い情報が得られると思ったのだが……。てか! 助けれてねぇじゃん!

 心の中で肩を落としつつも軽い会話を交わす。

 彼女との会話をして、俺は少し驚いた。と言うのも彼女のアバターがとても良い出来だったのだ。短めのポニーテールにパッチリとした瞳、スッと通った鼻筋に形の良い唇。体つきも細すぎず太すぎない、筋肉質なアスリート体型。言葉遣いも棘が無く、しっかりとした大人だと感じた。

 中身が合致しているかどうかは置いておいて、こんな美しい女性と話が出来るのは、何と言うか……凄く光栄に思えた。

 まぁ、ゲームだから見た目なんて幾らでも弄れるからね……。キャラクリの才能があると思っておきましょう。


「それで、これからどこかに行かれるんですか?」

「ええ。今からランク上げに行こうかと……」

「でしたら! 私も一緒に行っても良いですか?」

「えっ!? い、良いですけど……」

「やったぁ! それじゃあよろしくお願いしますね? カズさん」

「はい。よろしくお願いします。えっと―――」


 彼女の頭上をチラリと見る。


「ルカさん」



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