第5話 トラベラーズ・オブ・ギャラクシーとは

 トラベラーズ・オブ・ギャラクシーと言うゲームがあった。ToGと略されるそのゲームは、これまでのゲームとは一線を画するクオリティで発売と同時に全世界で話題となった。数々のゲームで賞を受賞したゲーム会社、ストレンジソフトウェアが提供・運営をする本作を語る上で、まずはHMDの存在を知るところから始めなければならない。

 HMDとは、次世代型のゲームハードウェアで、その系譜はVRから始まり、脳神経とハードとを直接接続するフルダイブ、フルダイブの派生型の非接触型。HMDはこれらから更に派生したリアルダイブ型と呼ばれるものだ。

 ではHMDと従来型との差は何かと言うと、従来型のVRやフルダイブ、またはその派生型はどれも現実世界での操作が基本となっている。しかしリアルダイブ型はその名の通り、実際に人体をデータとして機械に取り込み、自立データとして本人が機械内で操作する事を一般的にリアルダイブと言う。

 その機構は、【R線】と呼ばれる電磁波を使い人体を素粒子レベルにまで分解、分解された素粒子を機械内に取り込みデータに変換し、それを元に電子世界上に新たな身体を構築する。現実世界に帰還する際は、この逆の手順を踏む。

 よく『現状、最もテレポート装置に近いゲーム機』と称される本機、こんな高度で最先端なゲーム機を使ったゲームは、さぞかし魅力的なのだろうと思うかもしれないが、実際このHMDが出た当初は目を背けたくなるような出来の物ばかりだった。突然のイレギュラーな物にインディーズだけでなく大手のゲーム会社も頭を悩ませた。

 頭を悩ませていたのはゲーム会社だけではなかった。統一政府はその潜在的な危険性に対してどう対処すべきかと揉めていた。

 そんなHMD黎明期に突如として現れたのが、この【トラベラーズ・オブ・ギャラクシー】だった。ゲーム内での操作性は勿論、ゲーム性、ビジュアル、安全性、このどれもが頭一つ飛び抜けていた。

 ゲーム性はハックアンドスラッシュを軸に、ゲーム内に現実性を見事なバランスで落とし込んでいて、HMD本来の機能を十二分に発揮させていた。

 だが発売当時、ゲームとしてはあまり人気は無かった。一部の熱心なゲームマニアだけがその価値を知っており、その他の一般人には本作どころかHMDさえ普及していなかった。その主たる原因は、HMDの印象とToGの世界観だ。

 HMDの機能上、一旦身体をバラバラにする必要がある。これを聞いて普通なら近寄る事すらしないだろう。当たり前だ。幾ら安全性を主張しても、誰だって自分の体がバラバラになるのは御免蒙りたい。それにToG以外のゲームは、ゲームとして遊ぶにはレベルが低い。

 ならToGはどうかと言うと、これはこれで人気の出にくいジャンルだった。ハクスラと言う手間と時間の掛かるゲームジャンルに、SFアクションと言うあまり需要の少ない世界観。発売当時のToGヘの評価は『体験型ハリウッド映画』だった。


「それがいつの間にかこんなに人気になるんだ。世の中の流れは分からんよなぁ……」


 異物として扱われていたHMDとToGだったが、段々と人の生活に溶け込み、気付けば生活の一部になっていた。HMD自体はゲーム機と言う枠を超え、携帯電話と同じく生活必需品となり、HMDの技術は医療にも転用された。ToGも、本ゲームで使われている技術が医療現場やその他業種に使われている事もある。

 そんな今では当たり前となったToGに、俺は再び帰って来たのだった。


「ティースからの頼みもあるし、このゲームに対しての愛もまだ消えてない。続ける理由には十分だろ」


 先日のティースからの頼み、そして道場での出来事によって心の中にへばり付いていた恐怖心を引き剥がすことが出来た。

 今までの様にただ空虚にこのゲームを遊ぶのではない。今の俺にはれっきとした目標がある。


「よーし! また遊び尽くすぞー!」


 格好付けている脳内とは裏腹に、心と体はこれから始まる二週目にワクワクしていた。


「さて、ログインしたは良いものの……。また初期地点からだから、まずはを目指さないとな」


 こうして俺はチュートリアルに沿って、二週目へと歩き出した。



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