第4話 戦場を駆け抜けました



 その後、メリンダ姫には


『必ずロビンをこの国に返し、その時はエリクサーも絶対持たせます』


 と約束した。

 彼女ももう噛みついて来ず、優しい瞳で「ロビンを頼みますね」とだけ、私に告げた。


 二人で未来の約束でも交わしたのかもね――と推測して、自ら傷ついてしまったが、それがゲームの流れだ。

 何せ、このゲームのエンディングは、二人の結婚式なんだから。




 いよいよ魔物の団体様が、我が国に近づいているとの情報により、私とロビンはユークリッドへ赴き、迎え撃つ用意に入った。


「ロビン、行くよ!」

「おう!」


 私は、ロビンと一緒に『エル』として前線に立った。

 さすがに『エリザ』の側近たちは近くにいるし、姉様方が厳選した近衛部隊の精鋭も一緒だ。 


「何があっても、ポーションと、必要とあればエリクサーも使って生きて戻ります!」


 と宣言して出してもらった。


 夜明けと共に出陣し、約束通り、踏まれても蹴られても、斬られても、皆踏ん張って戦い続けた。

 ロビンは、小休止として私が無理矢理引き摺って戻り、ポーションを飲ませる時以外は、ずっと先頭に立っている。

 まるで、魔物を倒すたびに強くなっていく様子に、さすが勇者…との認識を深めた。


 ポーションは何十本も飲んだが、エリクサーはまだ使わずに済んでいる。

 もう何度押されたか、押し返したか、分からなくなった所で、周囲が明るくなった。


「夕陽が…」


 誰かがつぶやいた。

 私も顔を上げる。

 見渡す限り真っ赤な戦場で、立っているのは人間だけだった。


「…終わった…?」

「…勝った!」

「勝ったぞー!」


 徐々に上がる声が増え、すぐに大歓声が響く中、私はロビンを探した。


「ロビンは!?」


 集まって来た側近たちに尋ね、最後に見たという方向に駆け出し、見つけたのは力尽きたようにうずくまるロビンだった。

 側には、ロビンの剣が腹に刺さった、敵の大将らしき巨大な魔物が倒れている。


「ロビン!ロビンッ!!」


 側に行って、血塗れの体の生存を確かめる余裕もなく、この戦場でたった一つのエリクサーの蓋を取った。

 生きていなかったら無駄になるが、彼が死んだらエリクサーを甦らせた意味なんてない。


 硬直している相手の口は、僅かしか開かない。

 迷うことなしに、己の口にエリクサーを含み、ロビンの口へと注いだ。


(一人で戦わせて、ごめん…生きていて…!)


 私の命を差し上げますから…女神様、アウローラ様っ!

 …そう願った時、目の前に光が満ちて、私だけ、別の場所にいた。





『やーっと呼んでくれたわね』


 白い光の中、目の前にいるのは、これでもかと圧倒的な力を感じさせる存在だった。


「…め、女神さま?」 

『そぉよぉー♪』


 軽っ…と絶句したのは一瞬で、私は一番の気がかりを尋ねた。


「ロビンはっ…!?ロビンはどこに?」

『落ち着きなさい、生きてるわ。無事よ!』


 思わずその場にへたりこむ。

 全てがあいまいで、どこが床か分からなかったが…


『貴女は期待した通りに、スタンピードを止めてくれた。そのご褒美よ』


 訳が分からず、目の前の白い塊を凝視していると、やがてソレは輪郭を持った。


「…女神アウローラ…!」


 青銀の髪と瞳。

 ゲーム『悠久の大陸・カサンドラ』の主神が、私の前に姿を現した。


『ご苦労様』


 そこからは説明タイムだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る