第5話 あぁー女神様



『そう、私が貴女をこの世界に連れてきたの』

『私が最初に受け持ったのに、この大陸は、何度やっても滅亡しちゃうのよ』

『だから、私が受け持つ他の世界に、この世界を救えるルートを考えさせたの』

『成功したのは、貴女のいた世界だけ』


 分岐制のゲーム…というのが良かったらしい。

 失敗したら、選択肢に戻ってやり直せる。

 そうやって、何前何万の人に試行錯誤を繰り返させ、正しい1本の道を作り出した…


「で、でもそれじゃあ、おかしいわ」

『どうして?』

「だって、私はシナリオ通りに動いてないじゃない!」


 シナリオでは、ユークリッドは滅んでいた。

 自国の滅びを回避するために、私は行動したのだ。


 女神は口元の笑みを深くした。


『ごめんね。こっちに連れてくる時、貴女の記憶、結構消えちゃったのよ』


 私は首を傾げた。


「…確かに、前世の事は殆ど覚えてないけど、ゲームの内容は結構覚えているわ」

『それ、選択肢のないやつでしょ?』

「? 当然でしょ、ここじゃやり直せないし、ただ一つの正しい道って…メインルートの事でしょ?」

『おそらく、貴女がメインルートと呼んでいる道は、一番初めに大陸が滅びた時のお話だと思うわ』


 スタンピードから魔王の復活までの設定、ここまでの話を、女神は世界にばらまいたらしい。

 なぜなら…


『魔王が復活すると、勇者がいようといまいと、いずれこの大陸は滅びるのよ』

「そんな…」

『でも大概の人間には、魔王を倒してハッピーエンドが受けるから、貴女の世界のメインルート?そんな話がどの世界でも一番広がったわ』


 でも目的は、魔王の復活の阻止なら、スタンピードが勇者の国に届いたら、手遅れになる。


「…だから、私は勇者の国の前に、スタンピードが通る国に生まれたのね」

『そうよ。私はあなたに託したの。あなたなら、勇者が一番苦しまないでいい道を取ると思っていたから』


 そこで少し引っ掛かる。

 いや最初っから、疑問だったけど…


「…なんで、私が?」


 何でもない事のように、女神は答えてくれた。


『貴女、覚えてないの? 毎晩、「勇者様に会わせてください」って願っていたじゃない』

 

 ぼっ!と、胸と頭に血が上る。


『小さい子が必死に、「勇者様を死なせないで!」、「勇者様に会いたいです」、「勇者様大好きだから…」って、私に祈りを捧げてたから、叶えてあげたんじゃないの』

 

(確かに、ゲーム雑誌の付録に付いて来た、ポスターを壁に貼って、何か言ってた…)


 思い出さない方が良かっただろう記憶に、私は耳を押さえて、うずくまった。

 黒歴史というにはあまりにも…


「しょ、小学生の他愛ない夢じゃないですかぁ~…」

『でも真剣だったでしょ? 私に届いたもの』


 …羞恥心で死ねる。


『メリンダ姫にしてあげても良かったんだけど、そうなるとスタンピード止められないもンね』

「…エリザで十分です。有難うございます」


 うずくまったままそうつぶやくと、女神がくすくす笑っている様子が伝わって来て、顔を上げる。


『そうよね』


 全開で笑う女神様の、あまりの神々しい美しさに目を奪われる。

 ぼーっと見惚れてると、次第にその姿が薄れていく。


『結婚式には、また私の名を呼んでね』


 必ず会いに行くわ!――…それが最後の言葉。


(ロビンとメリンダ姫の結婚式かぁ…やっぱり行かないとまずいかな。ロビンの親友として…)


 痛む胸を自覚してギュッとつむった目を開けると、私の前には、森を背景にした、ロビンがいた。

 


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