第17話 戦
戦いが始まる。
「ソフィア嬢、ここは俺が」
申し出自体は有難いのだが、今の私は男装中だ。普段通りソフィア嬢と呼ばれ、答えられなくて戸惑う私の代わりにアンベールが対応してくれた。
「アラーン、アリガト!だけどアタシの名前はアンだから、そこのとこしっかりしてほしいワネ」
「あ、悪い…」
「いいノヨ、分かれば。分かれば、ね」
そのやりとりを横目で見ながら少年が口を開く。
「準備はできた?…っぽいね」
「ああ。戦闘開始だな」
始まってしまった。
皆んなを代表して戦ってくれるロレンツォ様に対して
“ありがとう、気をつけてね”
と言いたかったのに…
決戦(?)が始まった。
少年は“電波”で狂わせた魔物を操り、ロレンツォ様は剣で戦う。
「被験体がもったいないけどさ…まあいっか…」
言い出した本人でありながら少年は渋い顔で呟く。
もう既にロレンツォ様の呼吸は荒くなっていて、対して魔物を操るだけの少年はすまし顔だ。
「こんな不公平な戦闘、勝てるわけないよねえ…少年も一対一で、とは言ってなかったしできる人参加します?」
アンベールが耳打ちしてくる。
「確かにそうだわ。そうしましょう」
「まあアタシはか弱いから護られる側ワヨ」
折角ボロボロさんからアンベールまで昇格したのに、この発言でボロボロさんに降格だ。
「失礼」
この戦いでも私は足手纏いになってしまうかもしれない。
けれど聖女の力不在の今、彼がまた倒れたとしてもそれには頼れないのだ。
ならもう参戦するしかない。
後ろからエステルの止める声が聞こえるが、シルヴェスターがそれを制す。
多分、分かってくれたのだろう。
次々と増えていく魔物を私は掃討する。
(この魔物たちは操られているだけ…なのよね。ごめんなさい…)
心の中で謝りながら倒していく。
足元を狙って転ばせにきた魔物に踵落としを喰らわせる。
ロボット型の魔物は巻いていくしかないが、とりあえず固くなさそうなものを倒す。
魔物が吹っ飛んでいく衝撃で被っていたフードが取れる。
まずい、誰がどこで私の言動を見聞きしているか分からないのに。
「女…?」
少年は一瞬、魔物を操るための板を操作する手を止める。
その隙に彼の手から板を奪いながら私は答える。
「いや、女顔の男だ。君と同じくらいの歳だからそう見えるのだろう。髪は長旅で切る時間が無かっただけだ」
「そうなんだ…タブレット返して、お願い」
我に返り、自分の板が奪われたことに気づいた少年が返すよう懇願してくる。
「これを返すことで戦闘を終了して良いのなら返そう」
「…いいよ。分かった、終了するから」
なんとなく繊細そうなつくりなので、私は彼にそっと返す。
「結局言いくるめたってことで僕らの勝ちってことでいいよね?だからここでの実験はもう駄目だよ、わかったね?」
女性口調をやめたボロボロさんが幼い子供を諭すように言う。
「無理に話さなくてもいいけれど…何故ここで実験をなさって?」
「村人への恨み…僕が忌み子だから…」
絞り出すように言って彼は、耳よりある自分の顔の横の髪に触れる。
それ以上、彼は何も言わなかった。
「悪いが一旦皇都まで来てもらう」
ロレンツォ様がげんなりとした顔でそう告げた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
村に戻ると、村人はまだ戻って来ていないが
私たちが乗ってきた馬車と、御者がいた。
強面の男性とまた会ったので話を聞く。
「よう坊主!無事だったのか、良かった良かった。俺ぁお前さんが死んじまったんかと思って心配で夜も寝られんもんだったからな」
「いや、まだ一日も経っていなかろう」
私のツッコミに彼は苦笑いしながらため息を吐く。
「冗談だ。お前らもう行っちまうんかあ…また村に来いよな」
「そうさせてもらうわ。お元気で」
私はあえて普段通りの口調で言った。
そしてローブをとって。
✳︎ ✳︎ ✳︎
馬が行きに動かなくなった理由は、この少年の“実験”による電波が原因だったようだ。ちなみにこの電波は人間への害はないらしい。
行きは5人だった馬車が7人に増えている。
多分定員はとっくの昔に超えているはずだ。
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