第3話 騎士様の苦悩

男性は恭しく頭を下げてから答えた。


「突然お伺いして申し訳ございません。俺は王立騎士団の者です。」


彼はそう言い、無表情で騎士団の証であるバッジを見せてきた。 


「お名前をお伺いできますか?」

「名乗り忘れていたな、すまない。俺はロレンツォという者だ。」

「ロレンツォ様、ね。既にご存知かとも思いますが私はソフィアと申します。

ところでロレンツォ様は何故こちらへ?」


私は特に騎士団の世話にかかるようなことはしていない筈だが。

思い当たる節は一つだけある。

エルーナ凶暴化事件の時の聞き込みかもしれない。


「ソフィア嬢とりあえず皇子宮まで来てくれ!!」


何故急に。

いや、急を要する事態なのだろう、多分。

だが連行されるような心当たりはない。

エルーナのことか?いや、だがもうエルーナは連行されたはずだ。


「あの、もしかしてなのですがロレンツォ様がお探しの方ってエル…妹ではありませんか?」

「確かに、その可能性もあるな。いや…違う。違う筈だ。ソフィア嬢の方で間違いない。」


騎士様は若干天然かもしれない。


それと、先ほどからスカートを引っ張られている気がするのだが。

私は振り返る。


するとエリゼが笑顔で話しかけてきた。

というより、騎士様に話しかけているようだが。


「姉さんは毒を盛られた上に急な聖女の力の復活で非常に弱っていますのでそれを許すことはできませんよ?」

「私は大丈夫、今は騎士様に従うわよ」

「すまないな…」


表の方に馬車が停めてあるようなので私はそれに乗ればいいらしい。

アリシアに付き添い人として来てもらえることになったので私たちは出発した。



数分後、騎士様の方を見ると眠っているようだった。

寝顔も美形だな、と思いつつ私はふと窓の方に目をやる。


もう皇子宮が見えかかっていた。


「やはり、皇子宮用の馬車は早いのですね」

「そうね、私も同じことを考えていたの」


乗り心地も悪くない上に早い。

最高だ。


気づけばもう皇子宮に着いていた。


いまだに騎士様は寝ているようだが起こした方がいいのだろうか。


「あの…ロレンツォさ…ひゃっ!?」


驚いた。

急に誰かに肩を叩かれたのだ。

咄嗟に振り返ると、そこにはロレンツォ様とはまた違うタイプの、社交的そうな美形の騎士様が笑顔で手を振っていたのだ。


「すまないね、聖女さん。コイツ、なかなか起きなかったでしょ?まあ、これから関わる機会も増えると思うし仲良くしてやって」

「あ、ええ…?」


相変わらずロレンツォ様は起きる気配はない。


「ろっくん、もう着いてるよ。起きて?」


すると、ロレンツォ様が先程まで寝ていたのが嘘のように起きた。

そして赤面しながら抗議し始めた。


「兄貴!お、おい!そ、その呼び方は…!!だから、とにかくやめろ!」


そのやりとりを見て何故かアリシアがほんのりと頬を赤らめ、恍惚こうこつとした表情になった。


「ああ…兄弟愛ばらが…素敵…素敵すぎるわ…ああ…駄目…しっかりするの、アリシア…」


そのアリシアを見て、今度はロレンツォ様のお兄様が弟を揶揄からかうように耳元でささやいた。


「さあ、任務に戻ろうか。」


見ているだけでロレンツォ様が哀れに思えてくる。

下手したらエリゼよりも厄介かもしれない。

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