第2話 従弟との甘い時間

エルーナ凶暴化事件から数日、聖女力の再発現も相まってすっかり解毒はされたが私は部屋で安静にしているようにとアリシアから言われたので、そうしているところだ。

正直退屈だが。



あまりにも暇なので本でも読もうかと選んでいると、部屋のドアが勢いよく開いた。

と、同時に亜麻色の髪の少年が飛び込んできた。


私の母方の従弟であるエリゼだ。

行動的に本当に14歳なのだろうか。



「ソフィア姉さん!」

「エリゼ、ノックくらいはしてちょうだい」


部屋に入ってきて私を見つけるなり抱きついてきたエリゼはその状態のまま上目遣いで尋ねてくる。


「エルーナさんに毒殺されかけたんでしょ?あとナイフで襲われたとか…大丈夫なの?」

「私は平気だけれど、エルーナにとっては災難だったかしら」


私の聖女の力が復活した時のエルーナの絶望的な表情が脳裏に浮かんでくる。


「ソフィア姉さん、確かあの人と仲良かったよね。姉さんを悲しませるなんて最低だ」

「その話は…もう終わったこと。そういえば昔助けて今も交流のある人から頂いたクッキーがあるわ。一緒に食べないかしら?」


正直、エルーナの件はあまり思い出したくなかった。数日経った今もあれは夢だったのではと思えてきてしまう。


だがあの殺意は並大抵のものではなかった。絶対に殺すという強い意志がこもっているようだった。


現実逃避ではない、筈だ。


使用人を呼ぶ用のベルに触れる手が微かに震える。


暫くしてアリシアが来る。


「どうなさいましたか?あら?エリゼ様」

「確かソフィア姉さんのメイド…」

「急に呼び出して悪いわね、お茶の用意を頼むわ。

あ、良かったらアリシアも一緒にどう?」 


確かアリシアは甘いものが好きだった筈だ。

しかしアリシアはエリゼを一瞬見たあと、遠慮したのか断った。

後でアリシアにも取っておいてあげよう。


✳︎ ✳︎ ✳︎


アリシアがお茶を運んで去って行くとエリゼが奇行に走り始めた。



エリゼはクッキーを一枚掴むと、何故かそのまま手を私の口の前に持ってきて止まったのだ。


「エリゼ?何をしていて?」


暫くお互い静止したままだったが、考えても謎が深まるばかりで私は堪らなくなり、結局質問してしまった。


「姉さん、あーん」

「!?」


理解が追いつかない。

私は何をやっているのだろうか。


「エリゼ?多分これって恋人同士の儀式?よ、何故?」

「だって毒、盛られたんでしょ?毒味も必要だし」


謎理論か?


彼はこの儀式を通すと毒味ができるとでも思っているのだろうか。

彼の考えは私にとって理解不能だ。


「姉さん、口を開けて、食べさせてあげるから」


彼の考えは頑なっぽいのでとりあえず従うことにする。



嫌な予感がふと頭をよぎる。

———もしかしなくても私はこのままエリゼにクッキーを食べさせられ続ける運命なのではないか。


もし本当にそうなら鳥肌ものだ。


彼が7枚目のクッキーを掴もうとした時、私の恐怖は絶頂に達した。


(クッキーを食べて窒息死?そんなの御免だわ!!)


私はわざとらしく咳き込む


「大丈夫!?お茶飲んで!」


エリゼに差し出されたカップを受け取り、私はお茶を飲む。


大事は免れた。

一先ず安心だ。



突然、訪問者の来訪を告げるベルが鳴った。

エリゼは不服そうだったが私はそちらに向かう。


するとドアの前に立っていたのは見知らぬ男性だった。


「ええと…失礼ですがどなた?」

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