第5話 遊園地

これは4年前のこと。


私は小学生に上がったばかりの娘と遊園地に来た。

その遊園地は随分昔にできたのか、言い方は悪いが少し古ぼけていて、人もまばらな感じだったが、ジェットコースターや観覧車、いい匂いが漂う出店など、子供と1日いるには十分すぎるくらいの充実さだった。


入口には看板が立っており、そこには「楽しんでね」という一言だけが書いてあった。

娘はまだ少ししか字が読めないので、漢字が難しかったのかその看板を真剣な顔をしてまじまじと見つめており、少し可愛らしかった。


遊園地でしばらく遊んでも娘は何かそわそわしながら落ち着きがなく、とても楽しんでいる様子ではなかった。

私は久しぶりの遊園地だし楽しんでもらいたいと思い、

「遊園地楽しい?次何乗ろっか。それとも何か食べる?そろそろお腹空いてきたんじゃない?」

「………………うん、」

「どうしたの?具合悪い?」

「……………………ううん、」

「? ほら、入口にあった看板みたいにしなくちゃばちがあたっちゃうよ〜、ね?」となだめた。


だがその後も訝しげな顔をしながら楽しんでいる様子がなく、少し震えているかのようにも見えたのでやはり具合が悪いのかと思い今日はそこで帰ることにした。


私は遊園地から帰ったその後のことを今でも後悔している。私が、もっとすぐに異変に気付いていれば――



あの子が自ら命を絶つことは無かったのかもしれない。


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