最終話 嫌な形で復讐終了

目を覚ましてすぐに確認したスマホの画面には南翠からの意味深な文章が表示されている。

「何?どうかしたの?」

また彼女は何事かに巻き込まれたようで俺に助けを求めるようなチャットを送ってくる。

「家の中に盗聴器が仕掛けられていたみたいで…」

「どうして発見できたの?何か不可解なことがあったとか?」

「うん。同僚の女性と家で女子会した後から何かおかしな事が起こるようになって…」

「うん。それで?どんな事が起こるようになったの?」

「それが…頼んでもいない宅配物が届いたり…デリバリーサービスを頼んでもいないのに届いたり…全部私は頼んでいないって断るんだけど…何件も重なった結果…ブラックリスト入りされたみたいで…宅配便もデリバリーも頼めなくなったの…もう嫌がらせの域を越えていると思うんだけど…警察署の相談係のお姉さんは聞く耳を持ってくれなくて…私が何したっていうの…」

南翠は完全に疲弊しており今にも倒れてしまうのではないだろうか。

そんな事を感じさせるほど疲れ切っているようだった。

「引っ越すしか無いんじゃないかな?誰かが住所を特定しているみたいだし…夜に引っ越すとかしたら?日が上っている間に引っ越すと監視している人にまた特定されると思うな」

「夜に引っ越すって…一人で?荷物を車に積んで引っ越すの?」

「そうだね。面倒で大変だと思うけど…それぐらいの労力は必要だと思うな。そうじゃないと一生イタチごっこだと思うよ」

「でも…慎吾は手伝ってくれないの?」

「なんで俺?夜は殆ど配信だし。無理だよ」

「そっか…でも他に頼める人がいないんだよ」

「元カレならいくらでもいるでしょ?そいつ等に頼めばいいじゃん」

「無理だよ。皆、酷い振り方したから」

「それを言うなら俺にもでしょ」

「そうだけど…慎吾はもう許してくれたでしょ?」

「許したけど。忘れたわけじゃないからね」

「どうしてそんな酷いこと言うの?」

「酷いかな?別に酷くないと思うけど。事実だし」

「酷いよ。私はこんなに弱っているのに…」

「俺の未来が不透明な時に勝手に去っていった南ほど酷くはないと思うけど」

「そんな過去のことまだ言うの?」

「過去のことだから言えるんでしょ?未来のことはわからないから何も言えない。俺に言えるのは過去に酷いことをされたって確かな記憶と事実だけだし」

「許してくれたんでしょ?じゃあもう良いじゃん」

ここまでのやり取りで南翠の本性がやっと顔を出したような気がした。

俺は彼女の本質が今でも変わっていないことに気が付くと苦笑して頭を振った。

「俺にはもう何も出来ないから。申し訳ないね」

「ちょっと。何でそんな見放すようなこと言うの?私が困っているんだよ?」

「自分で撒いた種だろ?自分で摘み取れよ」

「酷い。私は何もしてないよ」

「そんなわけ無いだろ。大体のことは分かっているんだよ。自分でどうにかしな。それに謝罪にしたって誠意が見えないからまだ怒っている人がいるんじゃないか?ちゃんと世間に向けて謝罪すれば事も収まるかもな。俺にはもう何も出来ない。申し訳ないけどいい気味だって思うよ。それじゃあ。もう連絡しないで」

そこで俺はスマホを机の上に置くとスッキリとした気分を味わっていた。

ようやく俺の中の復讐心は鳴りを潜めて心の問題も解決した。

これにて物語は終わると思っていたのだが…。



「本日未明。◯◯地区のマンションで女性の遺体が発見されました。女性は幾度となく警察署を訪れては相談をしに来ていたそうです。ですが相談係にまともに話を聞いてもらえずに困っていたそうです。事件の可能性は限りなくゼロで女性は自ら命を絶ったと思われます。警察は相談係の女性警察官に事情聴取を行うと共に迷惑行為を行っていた人物にも任意同行を図るそうです。以上本日のニュースでした」

夕方のニュースを目にして俺は唖然とする。

南翠は自ら命を絶ってしまったのだ。

そして新道みこは不正な対応をしていなかったか事情聴取を受けているようだ。

俺の話が出たら…。

そんな事を不安に思うと共に麒麟の皆のことも不安に思っていた。

メン限のフリーチャットを見に行くと何名かが警察官に任意同行を言い渡されていたそうだ。

という事は警察官もこのフリーチャットを覗いている可能性がある。

麒麟の中から犯罪者が出なければいいが…。

そんなことを不安に思っているとマンションのインターホンが鳴ってビクッと驚いてしまう。

モニターを見るとそこには刑事と警察官が立っていた。

俺は居留守を決め込むのも無理があると感じて外に出る。

「はい?何でしょう?」

「南翠さんの元恋人で間違いないですね?」

「そうですね。それが何でしょう?」

「はい。実は彼女の遺品から遺書の様な物が発見されまして。それが貴方宛だったんですよ」

「はぁ。それで俺もニュースでやっているように任意同行ですか?」

「いえ。貴方の配信やチャットを観ましたが。どうやら貴方のファンが何かをしていたわけではないようでした」

「そうなんですね。俺も不穏なチャットを目にしていたので…不安だったんですけど…」

「はい。ただそれは仲間内のノリのようなものだったそうです。迷惑行為をしていたのは貴方を除く元恋人たちだったみたいです。主犯格の男性が南翠さんの元カレ達を集めて嫌がらせをしていたみたいです。そして同時に貴方の配信を観ていたようで…貴方に罪を擦り付けようとしていたみたいです。以上が今回の事件の流れですね」

「そうですか。では俺のファンは誰一人捕まっていないと?」

「はい。もう全員解放済みですよ。ご足労おかけしました。では」

警察官は俺に遺書を渡すとその場を離れていくのであった。



俺は南翠からの遺書を読み取る。

「ごめんなさい。

それだけは言わせてくだだい。

本気で謝罪します。

そしてずっと私を忘れないでください。

さようなら。

いつまでも愛おしい慎吾…


                 南翠」


そんな手紙の様な遺書を見て俺は何を思ったのだろか。

俺の発言で南翠は亡くなったようなものでもある。

犯人は別にいたけれど…。

俺の一言から何事も始まったのかもしれない。

責任のようなものを一人で感じると…。

俺は今後のことを考えるのであった。


一つの復讐が嫌な形で終りを迎えた。

また新たな復讐劇は始まるのか…。

それはまだわからない。

誰にも俺にもわからないのであった。



                 完

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有名になった途端に連絡を寄越してきた元カノを弄ぶ。直接手をくださない復讐劇 ALC @AliceCarp

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