第12話 この世界は乳のデカさで勇者が決まる

ヒンヌの勇者ことマナはとある辺境で生まれた。


親は貴族でとても大切に育てられた。


両親は可愛がって育てていた。


マナには二つ上の姉であるアッネがいた。


貧乳のマナ。

それから巨乳のアッネは対極の存在だった。


しかし、両親は二人とも愛していた。


しかし、そんな辺境にひとつの噂が流れ始めた。


「勇者パーティに選ばれるのは巨乳らしいぜ」

「あれ明らかに人選おかしいよな。巨乳の確率が9割もあるんだろ?残り1割が男と貧乳だもんな」


そんな噂が流れてもマナは気にしていなかった。


乳のデカさでそんなことが決まるわけが無いと信じていたからだ。


どこの世界に乳のデカさで勇者が決まる世界があるというのか。


しかし世の中は残酷だった。


「おい、見ろよ。貧乳だ!」

「勇者パーティに入れない敗北者の貧乳だ!」


彼女は辺境の村でいじられ始めた。


貧乳であることを。


マナはおしとやかなのでそんな言葉を受けても黙って聞いていた。


しかし、ある時のことだった。


「マナ。お姉ちゃん勇者パーティ候補に選ばれたよ!」


マナの姉がそんな報告をしてきたのだ。


彼女はマナがいじられていることを知らずに報告した。


しかしマナの言葉には重く響いた。


「えぐ、おめでとう」


この時マナは確信した。


この世界は乳のデカさで将来がきまることを。


つまり貧乳にはなんの価値もないことを。


「うわぁぁあぁぁあぁぁあぁ!!!」


残酷な真実に気付いて気付けばマナは家を飛び出して走った。


そんなマナのことを辺境の男たちは面白がって追いかける。


「貧乳が逃げたぞ!」

「貧乳を魔女として処刑しろ!」


ただのタチの悪い冗談だったのだが、マナにそんなことを考える余裕はなかった。


そして走ること数分。

彼女は森の中にいた。


自分が闇雲に走って山の中に入ってきたことに今気付いたのだ。


(はっ……)


そこで思い出した。

この森にはデスベアーという強いクマがいることを。


「やばい、帰らないと」


そうして帰ろうとしたが声が聞こえる。


「おい!どこいった?!あの貧乳は」

「てかやばくね?あいつこの森に逃げてったぞ!大人を呼べ!」

「あー、そうだな!」


そんな言葉も自分を探して処刑するための言葉に聞こえたマナは恐怖から走っていった。


そして、ちょっとした木の下にできた窪みに身を潜めた。


「貧乳が逃げたんだよ!」


ガツン!


「人のことを貧乳と言うなバカタレ!それを差別と言うんだよ!」


大人の声が聞こえ始めた。

その時だった。


「グルッ」


(これ、ひょっとして、デスベアー)


気付いた時には遅かった。


ヒト、ヒト。


足音。

そして、窪みの前で立ち止まると。

覗き込んできた。


「ひぃぃいぃぃぃ!!!」


丸くなった瞬間だった。


「イフリ、ココヒトガイル」

「はぁ?人ぉ?」


ガサガサ。


声がしてひょっこり顔を覗かせてのは男の子だった。


「なにしてんのこんな所で」

「ひっ……」


男の子は手を伸ばしてきた。


「出てこいよ。麓の村の子か?送るよ」


マナはその言葉を信じて隙間から出てきた。


「グルル」


こちらを見てくるクマはたしかにデスベアーだった。


「人食べるんじゃないの?このクマ」

「人を襲ってたからボコした。それからはこいつ虫と魚しか食わないよ」


そう言ってくる男の子。


デスベアーは男の子にベッタリ懐いているようだった。


「コノコゾウトカクトウシテマケタ。フッキンカタスギツメオレタ」シュン⤵


デスベアーの手には包帯が巻かれていた。


自然界では手に入らないと思うし動物に巻けるものではない。


きっとこの男の子が巻いたと想像するのは難しくない。


「お前弱すぎ」


そう言ってる男の子に聞いてみるマナ。


「あなたは私の事差別しないの?」

「なんで?」

「私ツルツルだもん」

「真っ平らなのがいいんだよねぇ」


マナの中で衝撃がはしった。


「俺胸ない方が美しいと思うよ」

「う、美しい?」

「うん」


そう言うと男の子はクマの背中に飛び乗った。


「ほら、送るよ。乗りな」

「う、うん」

「グルル」


ノシノシ。


ゆっくり進んでいくクマ。


そのまま何事もなく下山したマナ。


「あなた、名前はなんていうの?」

「イフリート」


マナはその名前を忘れることは無いと確信した。


「親しい人はイフリって呼ぶよ。んじゃあね。もう会うこともないと思うけど。俺この山にいるの今日までだから」

「グルル……」

「俺がいなくなっても人を襲うなよクマ。襲ってたら飛んできて殴るぞ。いつでも監視してるからなお前のこと」

「グルゥ……」


そのままイフリートと名乗った男の子は去っていった。


マナはその背中を見送って思った。


(貧乳でもいいんだ)


いや、違う。


(貧乳はステータスなんだ!)


貧乳こそが正義の使徒なのだ!


その後家に帰ったマナはお父さんに言った。


「はぁ?デスベアーの爪を逆に腹筋で割った男の子?」


ぶはっ。


吹き出す父親。


「ほんとだもん!イフリートくんはいたもん!」

「そんな子があの山にいるなんて聞いたことがないけどなぁ、見間違えじゃないの?」

「ほんとだもん!」

「まぁ。いいや。帰ってきてくれて嬉しいよマナ」


そうしてマナ達は再会を喜び合う。



それからの数年間マナは必死に修行した。


魔法の練習をして来た。


この世界は剣と魔法の世界。


男の子は剣を握ることが多い。

デスベアーに勝てるイフリートとなると剣を握ることになるだろう、そんな思いで彼女は魔法を練習した。


そして、彼女は村一番の魔法使いとなって王都へと向かうことになった。


それが16歳のことだった。


しかし、そこで彼女は2度目の挫折を味わった。


「不合格です。あなたは必要ありません」


初めて受けた入団テストでそう言われたのだった。


「な、何故ですか?」

「お答えできません」


そう言われてマナは立ち上がって試験をしていた部屋を出ていくことにした。


しかし、その去り際聞いてしまった。


「見た?あの貧乳」

「笑いこらえるのに必死だったよ。あんな貧乳どこも取ってくれないよw」


もみもみ。


男の面接官が女の面接官の巨乳を揉んでいた。


そこでマナは思った。


(巨乳死すべし!)


そして彼女は村を作った。


ヒンヌの村という。

貧乳だけが暮らす理想の町を。


貧乳による貧乳のための理想郷。


それがヒンヌの村の真実なのだ。


そして彼女の巨乳に対する憎悪は彼女を成長させた。


【スキル:ヒンヌの王を獲得しました】



名前:ヒンヌの王

効果:味方(貧乳)のステータスをアップ。

味方(巨乳)の獲得経験値ダウン。

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