「お前の心臓と十ゴウラムの血」

「今頃はアルムブラッキアの国境か。無事着いたかな」

「……」

「もう泣くなよ……いい年した男が。みっともないぞ?」

「……」

「仕方ないだろ。二人の決めたことなんだから。もう子供じゃないんだ」

「だって……私の可愛いコーデリアが」

「はああ。どうしてそれを本人の前で言ってやらないんだよ」

「……」

「『極北の氷壁』なんて役作りはやめとけって言っただろ」

「最高法務官なんだもの……そのくらいしないと法律守れないだろ」

「最愛の娘にまで『極北の氷壁』だと思われてんの異常だぞ?」

「……」

「演技のし過ぎだ。上手すぎたんだ。お前はな、最高法務官なんかにならずに役者になればよかったんだよ」

「だって公爵家の嫡子だぞ。家を捨てて役者になんかなれるわけないし。お前だって俺がいなけりゃ困ったろ。王位を狙う連中を裁く最高法務官は公正でなければ、ってお前が……」

「悪かったよ」

「国王が軽々しく頭を下げるもんじゃない」

「誰もいないよ。なあ、機嫌直せよ。来年、公務でアルムブラッキア行く用事作ってやるから」

「本当に?」

「ああ」

「もし嘘だったら、この最高法務官の標章しるしに賭けて、お前の心臓と十ゴウラムの血をもらいうける」

「『時の掟と天の声』かよ。駄作」

「傑作だぞ!」

「見る目ないよなお前は……」

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婚約破棄されたお芝居姫は国境を目指す もがみたかふみ @mogami74

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