第32話 神人談義(イツキ)

 勧進相撲も成功に終わり一息。この先は資金問題の解決した温泉に力をと思ったところで、ミカミと共に宮城に呼びだされた。まあ、多分勧進相撲の件でしょう。「調子乗んなよ」か「こっちにも役立つもんよこせ」と言う所だと思う。が、宮城で案内されたのは謁見の間ではなく公棟三層の部屋で、室内にはカンムロが居て驚いた。

「この部屋の管理は神祇寮で行っているのです。風を通しておくように申し使っておりました」

 大正モダン的な和洋折衷の部屋で、半分は板の間半分は畳敷きになっている。畳の上では靴を脱ぐらしい。板の間に小さなテーブルと椅子が二つ。畳に箪笥と座卓、壁一面の棚に巻かれた竹簡や作りかけなのか分からない細工物がならぶ。装飾は少ない部屋だった。

「ここは先におわされた神人の部屋なのです」

 先の神人はミカミのようにその姿のままこの世界に転移してきたらしい。私もアキラコの身体を借りなければこんな風に暮らしてゆく筈だった。「ミカミ殿、神祇寮にもお立ち寄りくださいませよ」最近カンムロは私よりミカミにご執心だ。「あ、自転車の模型出来たの?」「動き具合を見ていただきたいのともーたーの件で少々」私と違って相手をしてやるからだろう。あーあ、今日は帰って来れないね。棚を眺めて回るが基本的に達筆過ぎて読めない。「その辺りは過去の神人の記録でございますよ」歴史書というところか。と、あれっ?と思った。こちらの棚の辺りは巻に付けられた札が現代語表記なのだ。ではこれを書いたのは神人か。

「これ、開いていいかしら?」

「どうぞ」

 棚に置いたまま巻きを解いて広げる。筆で書かれているが、やはり現代日本語だ。目次などはない。ざっと眺める。雑な書き込みは何かの覚書か…読みかけて首を捻る。

「…イザナギ、イザナミって」

 そこにあったのは日本神話の国生みのくだりだ。これは先の神人が書いたのかとカンムロに確認すれば、そうだとの答えが返ってくる。神人が日本神話?更に巻きを広げてもそれはそのまま続く。ミカミが覗き込む。

「何それイツキさん読めるの?あ!日本語じゃん!」

ミカミがほかの竹簡の巻きを解き始めた。

「こっちは…第一の太陽…アステカ神話かな?」

「そうなの?」

「ゲームに出てくるんですよ。ケツァルコアトルとか。こっちにはこんなの居るの?」

「いません」

がっかりするなよ。そんなの居たら大変じゃない。ほかの巻も幾つか広げてみたが、ギリシャ神話、神話に限らず各地の民話昔話の類もある。この辺りの棚は皆そうで、雑な内容からみると覚えている物を書き留めたようだ。

「先の神人は神世の物語を書き留めていたのです」

「懐かしいから?」

神話研究者?マニアさんとか?が、カンムロは首を横に振った。

では、なぜこんなものが?

 と、扉が叩かれた。私達を呼び出した王が到着されたのだ。従者や護衛と共に現れた王に跪く。王の「供を下げよ」との求めにフジノエが頷いて退出してゆく。カンムロは構わぬらしいが、王自身も手を振ると一人を残して供を下がらせる。人払い?作法など知らぬから助かったけど…。

「話をしたかった」


 以前にもここへ来た事があったのだろう。王は古ぼけた机を撫でて付き人がひいた椅子に掛けた。一応菓子なども用意してきたのだが、もてなしはその付き人に断られた。長い時間は無理らしい。非公式の場であるので対面に座ることを許される。椅子は二脚だからミカミは立っててね。

「勧進相撲で随分と益したと聞く」

 挨拶も早々、王は面白そうに言った。そんな風に笑うとその辺の爺にしか見えないこの人が国の頂に居るのが不思議。だけどこれも表向きの一面だ。組織を率いる人が単純にそれだけという事はない。

「これで先に参皇子様より提言させて頂きました温泉宿を建てることが出来ます」

「河原の者どもを手勢に付けたとか」

これは釘を刺されたのだろう。神人が手勢を手に入れたと思われてはかなわないから言っておく。

「手勢などではございません。利益の一部を渡して人を貸してもらいましたから、商いのようなものでございます」

王である人は頷く。

「神人が持つ神世の知識は国の有様を変える。だからこそ神人は貴人として尊ばれる」

ミカミが毛織物を持ち込んだように。私が賭博をシステム化したように。が、こういう話があるだろうと予測して来たのに不安になった。何故ならこの程度の話で人を排するまでの必要がないからだ。

「だが、神人とはそれだけか?」

 そう問うたまま暫くの間国の王である爺は口を閉ざし、またテーブルの傷を撫で、竹簡の並ぶ棚に目をやって言った。

「其の方らは何故神人は世を渡ると考える?」

 ああ、と思った。今日呼出されたのはこちらが本題だ、と。


 「何故神人は来るのか」或いは「神人とは何か」。当座の状況を何とかすることで手一杯だったが、それはずっと考えていた。向こうへ帰るために又こちらへ来るために何が必要かと考えてきた。

「私はアキラコ様に呼ばれたのだと思います。アキラコ様の抱える困難を解決するために」

「僕もサジという山奥で暮らしてる子供に呼ばれたのだとすれば納得できます」

呼ばれたから来たのだと。王は頷く。

「此の世は大御神の加護に普く満ちている。召ぶ者はその加護に縋る」

やはり私が推測していたように、こちらの人には神人を召喚する力があるのだろう。この世界で願いは、祈りは神に届く。ならば神人は大御神の代理か。直接に此の世の人を救うことが出来ぬから、代わりに人を遣わすのか。ところが、王は意外な事を言った。

「だが如何に請い願おうと、それを叶えることが出来ない事もあると考えはしなかったか?」

 確かに私達は召喚者が願ったこと全てを叶えてやれる訳ではない。例えば瀕死の人が生きたいと願って呼んだ神人が医者だったとしても、この世界にある物では命を救えない事もある。召喚者の願いが何であったのか知り得ないことだってあるのだ。私はたまたまアキラコの願いをかなえようと思ったが、義務や強制はなかった。そもそも他人の願いなど知らぬ顔をしたっていい。

「ある、のだ。願いを叶える事が出来なかった神人が」

 何となく王は先の神人と親しかったのではないかと思った。その神人は酷く長くこの世にあったと聞いている。

「願いを叶えられないって事は帰れないって事?」

愕然とするミカミと顔を見合わせた。私はアキラコの願いが叶ってから一度向こうに帰っている。一方ミカミは一度も帰れていない。

「こちらの人の願いによって召喚され、その願いを叶え、やるべき事を終えて元の世界に帰る。神人とはそういうものだと思っていましたが、違うのでしょうか?」

私達は万能のスキルを与えられなかった。世界を救う勇者でも聖女でもない。

(そのままの私、そのままのミカミ)

つまり神様の代理としては不完全過ぎるのだ。

「神人とは単に「願いを叶える者」ではないのだ」

 では神人の私やミカミは一体何だというのだろう。


「神人の持つ神世の知識は此の世に益する。だが其の方らは神人が凶兆とも世の乱れとも言われるのを耳にしたろうか?」

 それは、ある。フジノエから「宮城では然様な事を言う輩もおりますれば」と忠告を受けた。神人は有り難がられるだけではない。異世界人には良くない評価もあるのだ。私は単純に神世の現代知識が社会に混乱をもたらす事を指すのだろうと思っていたけれど。

「大御神の加護が薄れ、世が動乱するとも」

結構な言われようだ。ミカミは初耳だったらしく、

「帰れないかもしれない上に、そんな言いがかりまでってヒドすぎる…」

思わず声をあげている。考えながらそれを制した。

「…大御神の加護とやらが本当にあるのだとして、量的に測ることが出来るものら、それは減っているでしょうね。私達はそれを使ってこの世に召喚されているのだろうから」

ならば神人とは此の世の「加護を減らす者」だ。神人が大御神の加護によって召喚されているのならば、そういう事になる。そして王はそれに頷いた。

「え?異世界転移の代償ってこと?魔力を消費するとか生贄が必要とか、そいう?」

 対価が必要というのは頷ける。「普く満ちて」いるものをどの程度減らすのか推測するのが難しいけれども。桶の水を掬ったところで多少水位が下がるだけ。空気を袋に閉じ込めても空気がなくなる訳ではない。では砂ならばどうだろう。一部を掬えば穴が残る。加護が減るとはそんなイメージか。が、減る事、それ自体はどうもこうもない。

「或いはそれ自体が大御神の意思であり、加護であるとも言われている」

問題は減った事で何が起きるか、だ。

「では大御神の機という言葉は?…妙な事が起こる、と」

 それも聞いたことがある。フジノエやマツカゼがたまに使う。思い通りにならない事、巡り合わせの意味の言い回しと思っていたが、妙とは何だろう。ミカミも混乱したままだ。

「妙って何よ。言われてるって、相関関係が確認された訳じゃないって事ですよね?やっぱ難癖付けられてるだけじゃ…」

「誹謗の類ではない。確かに奇矯な事は起こっているのだ」


 此の世の人の願いで神世から召喚される。

 神世の知識を齎す。

 此の世の加護が減る事で変事が起こる。

これが神人という一つの賽の幾つもの面。これはそういう話なのだ。

「ここはもともと先の神人が古来よりの神人の事績、言い伝えを収集していた部屋だ」

 過去の神人がどういう状況で姿を現し、何を成したのか、そういう記録が集められていたという。先の神人は元の世に帰る方法を模索していたのかもしれない。僅かな手掛かりでも欲しくて記録を漁ったのかもしれない。

 その中で先の神人はあることに気付いたそうだ。

「国の来し方を振り返ると神人が在る時、似通った事象が散見するのだ」

似通った、とは?ミカミと二人で首を捻る。

 先に思い付いたのはミカミだった。

「えっと、歴史上で似た事件が起こるって事よね?鎌倉時代の元寇って文永の役も弘安の役も結果は同じだったよね。大正位に東京駅で時の首相が襲撃されたのも二回あったでしょ?どっちも覚えられないんだよね。そういうこと?」

 ミカミは五一五事件と二二六事件も覚えられないのよ等と呟いている。確かに元寇は二回ともその経緯や自然災害によって難を逃れた結果まで同じだ。東京駅の首相襲撃は原敬と浜口雄幸ね。浜口は昭和で確かに状況は酷似していたと記憶する。歴史は繰り返すという表現があるけれど、そういう似てるならば無くはないのか。

「でも、それが妙な事?向こうの歴史でも例を挙げられるのだから奇矯と言うほどではないんじゃない?」

王は首を横に振った。

「繰り返すこと自体が妙なのではない」

勿論それも常ならざる事なのだが、と。

「物事が起こる契機、カギとなる人物の立場、人間関係。その後の展開と結果。嘗てあった出来事を模すように物事がおきる。先の神人はそれを「とれーす」と呼び、我らには「型式」と説いた」

ミカミと顔を見合わせる。

「…繰り返すって何度も?ってか、何を繰り返すのかにもよるよね?」

その通り。権力争い位ならまだしも、戦争や内乱では大惨事だ。そしてトレースというからには写し取ったかのように過去の事象を辿るのだろう。

「…元になる原本、雛型があるってこと?」

「それがここに集められている」

 こことはこの部屋。だけど、

(ん?)

(あれ?)

「…ここにあるのって」

先ほど見たばかり。神人にまつわる歴史と、

「神話だよね?物語でしょ?」

そりゃ変だわ。おかしいよ。


 ミカミが言うように私達が手に取ったものはそのような物ばかりだった。

「え?神話や物語ですよ?」

ミカミが聞き返したのに王もカンムロも当然のようにそれに頷いた。まさかぁとミカミは笑う。

「神話や物語の展開通りに物事が進むの?似通ったってそういう事?」

それは妙であるし、奇矯であるだろう。

「天岩戸の前でストリップショーやったりとか死んだ嫁を黄泉の国に迎えに行ったけど綺麗じゃなくなってたから逃げたとかだよね?」

身もふたもない言い方だが、日本神話の一部としては間違ってはいない。間違ってはいないけれども…。

「それは向こうの、私達の世界の物語ですよ。この世界のものではない」

いやと王は首を振る。

「こちらにも口伝えの頃よりの物語は様々にある。先の神人が記し留めたものに似通ったものもあるのだ。寧ろ似通ったものこそ「とれーす」され、再現される」

それらを共に知り、比較できる立場にあったからこそ、先の神人は「型式」に気付くことが出来たのだと。「例えば」続く王の言葉に目を剥く。

「継承順位を覆して王位につく、他国の侵攻を許す、国母となる者が消える。そこに神人が関わってきた」

「いやいやいや、それヤバいじゃん。内乱に戦争、行方不明?僕らそんなものに関わってませんからね?」

 確かにギリシャ神話をはじめ人や神々の争いを描いた物語は少なくない。それに類似する物事が繰り返し起こると言うのか。それも神人が存在する所為で。先程王は言った。「物事が起こる契機、カギとなる人物の立場、人間関係。その後の展開と結果」考えを巡らせる。何かね…引っ掛かるんだわ…。が、ピンとこない。

(…例えば、ね…)

 天岩戸の物語が皆既日食の謂いならば天の運行だから似ているどころか寧ろ周期的にあったはずだ。さらに慌てるミカミを眺めて、ああそうかと気づいた。

「…行方不明はありうるわ。ミカミ、あんたが元の世界に帰れたらそういう事になる。神人が神世に帰るんだったらそれは行方不明だもの」

アキラコの身体を借りている私と違ってミカミは元の世界へ帰ってしまえば後に何も残らない。ミカミはまだ粘った。

「…それが、ある、起こると仮定しても、神人が関わっているってどうしてわかるの?」

「その「型式」が集約される、結末を迎える時にこそ神人は神世へ帰るからだ」

「「!」」

 驚愕の事実が発覚!

「召喚者の願いを叶えたら帰れるんじゃないの?」

「願いを叶えるのに「型式」の形をとると言われている」

 って事は、「型式」から外れた事をすれば帰れないってじゃない?


 困惑の沈黙が降りる。神人が在る時起こるという変事、「型式」。それが神人という現象のもう一つの側面なのだと言う。それが「ある」と言われても、神話や物語という突飛さに、私たち自身が関わっているという指摘に戸惑って、未だに飲み込むことが出来ないでいる。

「そんなの意図してないんですけど…」

「意図するしないではない。その時々において個々の選んだ筈の道が「型式」において各々の役割を果たすのだ」

その発言でようやく私も腑に落ちた。これは知っている。

(オートモード!)

乙女ゲー転移、小説に転移でよくある「物語の強制力」と言う

(あれだ!)

物語の中に入り込み悪役令嬢等に転生した主人公が断罪を回避するために奮闘する中で様々な出会いとドキドキイベント盛りだくさんの転生ライフを満喫する、あれですわ!登場人物たちが本来の配役をこなそうとする作用が「物語の強制力」で、ラストはそれを覆して愛がかち、ハッピーエンドになるヤツっ!待ってました!それよそれ!私にもプリーズ…ではない。

 私が乙女ゲー/物語の世界に入るのではない。お気に入りの世界で押しキャラが相手、ではないのだ。物語の方がこちら、ここに降りてくるのだ。

(……)

 例えば、リアルの私の環境に物語が降りてその配役通りに人が動くような…ねちねちと人の失敗をあげつらう課長(定年間近五八)がツンデレとか。たまに駅まで車に乗せてくれる隣のおじさん(再雇用六三、自治会班長、孫アリ)と婚約とか。ばったり職場窓口で再会した同級生(市民、クレーマーそして必ず既婚)ときゅんきゅんイベント…。

(ない!断じてそれはない!)

仮に異世界転移してしまったこの世界でならば、相手は兄様(血縁シスコン)、キヨカ(おまけ)、無王(ヤクザ)、カブラギ(アキラコラブ)、神祇寮各種(顔も覚えてない)、ミカミの連れだったコレトウ(遠い)、無量坊(ホームレス)もはやシオニ様一択である。

(ない!それも断じてない!)

そりゃ、ねぇだろのそれ、物語の方がこちらに降りてくる。それが「型式」…。ミカミと目を交わす。

「それなら僕だって異世界転生無双パタンがイイですよ!」

「私だって悪役令嬢転生(ここじゃないところ希望)で逆転ハッピーエンドがいいわ!」

 現状それとは程遠い。私は単純に異世界ライフを楽しみたいだけなので令嬢系のゆるい世界設定で構わないのだ。しかし、なぜ今こんな話をされているのかは判ってしまった。私達がここに居る以上、

 この先「それ」が起きる。

 少なくともこの世界の人々は、この国の王はそう考えている。


「其方らにもそれはすでに起こっているのではないか?」

 だから呼び出されたのだと。これまでは私もミカミも国の中心からは身を引いて政治的なかかわりを持っていないので放置されていたのだという。首を傾げる。「ヤギ飼ってただけですよ?」「金儲けしてただけね」首を捻っているとカンムロが口を挟む。

「イツキ様はございますでしょう」

物語の方が今いる場所に降りてくるオートモード、「型式」とやらはイヤーな想像で理解できたけれども、

(そんなのあった?)

ないよね?王子様いなかったし、婚約は破棄されてたし、きゅんきゅんイベントも結婚も溺愛もないよ!イケメン約一名発見しただけでそもそもトキメイてない!

「えーっと、解んないです」

「皇子等にそれぞれ試しを行ったことがあったろう」

 各々の能力を測るためにも立太子が可能な四人を各地へ派遣した。ああ、お兄様のあの件だ。

「二人が怪我をして戻った」

壱皇子弐皇子の負傷、つまり失敗したのだ。本来ならば皇子の視察など失敗するような性質のものではない。準備がなされ護衛が居るのである。

(…あれが?)

改めて指摘されるとその不自然さに気付く。後ろ盾もなく病から引籠った妹を抱え凋落の一途を辿る皇子が再び表舞台へ戻ろうとしている。ラッキーで済まされる話ではないし、事実私が居た。いつぞやの兄様とのやり取りが思い出される。

「…三兄弟の弟が成功するって、アレ?」

 貧しくとも善良で賢い弟が成功する物語。『三匹の子ブタ』『長靴をはいた猫』『金のガチョウ』兄弟がそれぞれ試練にチャレンジした結果、末弟が成功する同じ形の物語だ。その形式の物語が私達の周りで展開されていた、と。

(物語、神話って…「型式」ってそういう…?)

 乙女ゲーでも少女小説でもなかった。「物事が起こる契機、カギとなる人物の立場、人間関係。その後の展開と結果」ミカミにも説明する。「子豚しか知らんわ」似てはいる。思い当たりはするけれど、これが「型式」?乙女ゲー転移どころの話ではない。これが何度も起こる…それは妙であるし奇矯といえるだろう。

「思い当たることがあったようだ」


「そして其の方らがこれから何を成すつもりかを問いたい」

 ミカミと顔を見合わせる。

「何って…」

「カブラギが隣国に渡ったと聞いた」

 本来ならば参皇子が地位を回復して話は終わる筈だった。「型式」とやらに乗っ取ればカブラギも参皇子の後塵を拝する筈だったのだ。事実カブラギは身に危険を感じていたではないか。そのカブラギガ隣国へ赴き何事かを成そうとしている。末弟以外の存在だったはずのカブラギが困難を乗り切りそうになっているのだ。が、そんな展開、末弟が成功する話には沿っていない。つまり

(話が違ってきている?)

「イツキよ。お主がそう勧めたそうな」

 確かにカブラギには私がそれを勧めた。国内が危険なら国外に伝手を求めるように助言した。王は私/神人が何か働きかけた事で「型式」に変化があった、或いは別の「型式」が動いているのではないかと尋ねているのだ。そしてそれが政に関わりがあるのかないかを。平民相手に賭博相撲をやるのも辺境でヤギを飼うのも国政には関わらない。お兄様の参皇子が権力レースに復帰するのはギリだ。だが隣国にまでとなると話は別。どのような影響があるのか、「型式」が起こるのならばどのような形で起こるのかを把握しておかねばならない。

 暫し考える。宮城には報告せずに済ませているが、私は計二回こちらに転移している。

(という事はですよ)

神人に纏わる「型式」「トレース」なるものが起こると仮定して、一回目と二回目で別の型式が動いている可能性もある。だけどそんな展開の物語や神話があったかしら…?


 扉をたたく音がして護衛が顔を出し、扉内の供に何事か告げる。すぐに扉が大きく開かれる。

「王よ、こちらにおられましたか」

 入って来た偉丈夫は私達を一瞥すると構わず王に耳打ちする。あ、この人壱皇子様じゃない?胸章と手首に覗く包帯で思う。

「…隣国の使者を伴って帰京するとの早馬が」

 聞こえちゃってるよ。カブラギは上手くやったらしい。こちらもミカミが耳に寄った。

「アキラコ姫はカブラギが無事に戻ってくることを願っていたんじゃない?」

「そうだよ」

何の「型式」かは分からないが、意図せぬうちに私は役割を果たせていたらしい。

「その願い叶うんじゃん」

「そうだね」

召喚者の願いを叶える事が出たのだ。帰れない心配は無くなる。

「と、なるとイツキさん、また向こうに戻るんじゃない?」

「…そうなるね」

え?それって今?この状況で?

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