第27話 宮都にて(ミカミ)

 ヘコむわー。めっちゃヘコむわ。都まであと少しと言う所で遭遇したのは僕と同じく異世界転移してきた神人!ここまでは良いですよ?まだ。イツキは僕のようにそのままこちらへ転移してきたのではなかった。王太子のご息女はアキラコというお姫様で、イツキはその姫の身体を借り受けているというのである。お姫様で神人ってさぁ…。貴族に転生ってヤツですよ!よくよく聞けばこの温泉施設を整備中なのもイツキだと?こっちはヤギだぞ。何この差。今の王太子妃や第二夫人(!)の子らに比べると立場が弱いとか言ってたけど、いやいやそれでもですよ、王の孫ですよ?貴族も貴族、お姫様じゃありませんか!この差って何?貴族な上に神人の異世界知識まで得たのならば一気に主流に戻って時めいちゃったりするんじゃない?これってチートだよ、この世界チートなしかと思いきや僕だけチートなしなのかよ。

「いつでも帰れるって事?」

「いつでもって訳じゃないけど」

 やはりそこは不随意であり、意思でどうこう出来るのではないらしい。が、行ったり来たり出来るならば物の作り方や食べられる野草や栽培作物についても調べてくることができるわけでそれだけでも羨ましい。と思ったが、そもそもお姫様のイツキはヤギと格闘しなくても無駄飯食い認定されないのだった!もうマジでヘコむわ…。

 都へ戻るというイツキ達を送り出した翌日、イツキは約束した通りニコの村まで迎えの馬車をよこしてくれた。湯屋での廻合の後、陽も傾きかけているのにこれから都に戻ると言うので驚くと馬車で来ていると聞かされたのだ。馬車!あるにはあるが数が少ないというそれを使用しているのだ。都の内やニコの辺りまでならば道も悪くなく、スピードもそこまで出さないので問題ないそうだ。都まで二日を歩かなくっていいんですよ?それも半日以下で着くという。流石お貴族様と思ったが、むしろ忙しないのは下々のやることで貴族程何事にも時間をかけるのだという。貴族は歩くのよりも時間のかかる牛車なのだそうだ。馬車は貴族だからではなくイツキが神人であるから使用を願い出たものらしい。

「ここの人達それ程急がないのよね」

 確かに生活のテンポは違うのだろうと思うが、そもそも僕は貴族待遇ではなかった。もしもですよ、死ぬような思いで三週間歩いたのが馬車ならば5日ですよ。スゲぇよなぁ、チートだよなぁと感心していると

「迎えをよこしてあげようか?」

と聞かれた。今日都へ戻るのはイツキ兄の都合であり、明日は馬車を使用する予定がないと言う。

「マジで!」

二日が半日ですよ!時短ですよ!足動かさなくてもいいのよ。スゲエ!イツキさん太っ腹!姐さんにならパシられてもいいかもと思ってました。馬車に乗るまで。


 痛イから、痛イから、痛イから、イタイからっ!

尻の下から道の凹凸がダイレクトに骨に響く。石か何かがある度に食い込むような衝撃で尻を蹴り上げられるのだ。何もなくても骨伝導方式で背骨に腰にダメージが蓄積されてゆく。馬車の座席がただの板なんですよ。軽トラの荷台に乗せられて移動しているのに近い。長時間はとても乗っていられるものじゃない。尻が割れる、もう割れてる。

「もう我慢できんっ!」

叫んで腰を浮かしかけた所で

「煩い、喚くなッ!」

向かいの席のウサから膝を押し込まれ座席に逆戻り。

「!」

尾骶骨にクリティカルヒットで言葉にならない悲鳴を上げてもんどりうつ。馬車の車内は狭いのだ。2×2の四人掛けだが、御者の後ろは従者席らしくさらに座面が狭いのだ。いらんところで身分差を付けるなと言いたい。体の小さなウサとコレトウが従者席、馬車を手配してもらった神人という事で僕と都の役人で貴族であるゴジョウ坊とが後席だが、振動というダメージは平等に与えられる。

「…私は馬の方が得意でございます」

これも馬車は初めてだという青ざめたコレトウが呟くほどで、席がないからと歩きで都に向かっているゴジョウ坊の従者、ニシナの方が正解だった。こんな事ならヤギ飼って暮らしていくのだったと何度目かの後悔に襲われた頃に都に辿り着く。


 深山での暮らしや街道をゆく人や牛車から都は平安京のようなものをイメージしていたが、

「嘘でしょ!」

 違った。丹塗りの柱に漆喰の壁の大門を中心に田園と都を隔てるのはレンガ塀なのだ。塀は市街を囲み切ってはおらず途切れているようだが、その長さ大きさに呆気にとられる。門もまた建物並みに大きかった。「衛士の詰め所や接遇のための部屋もございますから」というが、その大門へ人や荷を積んだ馬、人の引く車、牛車が列をなし呑み込まれてゆく光景は壮観だ。すげえよ!スゲぇ!これぞ異世界!尻の痛みも忘れて車窓にとりつく。都は初めてのウサも同じく毒を吐くのも忘れて呆気にとられている。馬車のお蔭か入門待ちの列にはつかず門衛と御者が言葉を交わすとそのまま通された。その先がまた圧巻。大路はこれもレンガ敷き。「あれが宮城でございます」門から一直線に続く彼方にさらに豪奢な門と塀、三層以上だろうレンガ造りの建物が見えているのだ。東京駅の駅舎みてえじゃん。数キロはありそうな距離であの大きさに見えるってどういう事?一〇mは超える幅の大路を当たり前のように人や牛車が行きすぎる。

「…スゲぇ」

 大路に面する側には門がなくただ漆喰やレンガ、植込みの壁が続くが、行く人の数は半端ない。「市の賑わいはこのようなものではありませんよ」門に近い側は平民の暮らす地域、宮に近づくほどに裕福になるらしい。大路から横道へ目をやると平民のものだろう木造小屋が、もう延々と続くのだ。京都や札幌のように碁盤目に区画されているらしいが、その奥の街路を行く人もまた多い。平民街と貴族街は水の流れる堀で仕切られており、道幅そのままの大橋がそれを渡す。平民街の小屋が十数軒も建とうかという敷地にお屋敷が並ぶ貴族街に入るともうスゲえも出なかった。言葉をなくしたままの僕らを乗せて馬車は宮城へ入る。


 宮城へ到着したら連絡を入れるよう予めイツキ兄である参皇子に言われていた。昨日の経緯で王への謁見にも付き合ってくれるらしい。が、馬車を下りてから旅塵を落とす間もなく謁見の間へ案内されたのはゴジョウ坊も予想外だったらしい。例のイツキ兄が話を通しておいてくれたのだろう。風呂入ってて良かったです。

「…ミカミと申します」

 合流したイツキ兄と共に玉座の前に跪く。玉座の背後を飾るステンドグラスに変な汗出てきた。辺境生活との格差に瞳孔開きっぱなし。どんだけ金持ってるの?富集中しすぎでしょ。もうね、受験の面接練習程度で動悸が止まらんヘタレなのよ。全校集会で壇上上がるだけ(表彰ではない手伝い)で記憶が飛ぶモブなのよ。その国の国王の前に出るって首相官邸訪問レベルじゃないですか。異世界転移して「勇者よ!」持ち上げられて平気で会話するアレ、絶対ムリだって!

「…神人所縁の地となれば王家の所領となすべきかと」

イツキ兄とゴジョウ坊が話をしてくれてマジで助かった。

「如何なる地ぞ」

サジの村の件も上手く伝えてくれて、目標通りに運びそう。

「鄙なれど神人の技にて新しき試みを幾つも」

 都に持ち込んだ品々を披露してみせる。懸案事項である交通や生産規模の課題点、その上でイツキの事業と連携できそうだと伝えた。

「神人二人かや…」

王は暫し思案していたが

「良きように」

こ、これは天領化?目的達成したの?コレトウが目で頷いて見せる。

「して、その方、神人と言わるるが姫とはまた違う様な」

こ、怖いって。圧迫面接その2かよ。都に着いたという事で、今日は朝から元の格好をしている。随分と草臥れてきたが疑われてはいないようだ。

「この身、この体そのままにこちらへ参りました」

コレトウの喋り方を真似してみる。ちょっとは様になってたでしょ。って、あれ?反応なし?

「これより如何に?」

ええええ?都に来たら貴族待遇でタダ飯食わせてくれるんじゃないの?あっ!もうイツキが居るから神人の価値下がってる?イ、イツキさーん。

「…かの姫の下で世話になろうかと」

「私も寄り易くありますれば」

イツキ兄が言い添える。うむと頷くと立ち上がってしまわれる。ホッ。ああ緊張したぜぃ…って、そういや都で目的達したのに、元の世界に帰れてなくね、僕?おいぃ!


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