第11話 開幕準備

 こんにちは。ペーターです。ヤギの利用価値が周知されたことでようやく村の中で僕の仕事ができた。ニート脱却でヤギのお世話係ペーターに昇格です。補修して使えるようにしてもらった馬水桶に水を汲んでくることとヤギの乳を搾ることが僕の仕事になる。ヤギも増えた。オス一頭とメス二頭が追加。メスは一頭が出産直後でこれも乳が出る。子ヤギともう一頭は捕獲途中で死なせてしまったのだ。手に入れたヤギの毛はハト婆に納品済みで、製品化の真っ最中だ。次に毛が取れるのは来年で、年一でしか取れないのが中期計画たる所以。もう少しヤギを増やすのも手かもしれないし、オスメス居るから増えるだろうとは思う。

 衝撃の解体現場を目撃したが、ちょっと一の血の気が引いたくらいで、話に聞くように肉を食べる事が出来なくなったなどという事はない。そんな繊細さは空腹の前では塵と同じだわ。肉ですよ、肉!感謝感激して頂くが、白飯欲しい。飼う事になったヤギ達にも名前を付けた。喰われちゃうからね。オスは偉そうだからヤギ蔵。あとはヤギ奈とヤギ美な。ニート脱却とはいってもこの仕事って大の大人の仕事量には足りないわけで子供の仕事に近いわけよ。社会復帰リハビリにはいいかもでござる。

「水が足りてねぇだろうがよ。遅えんだわ!」

 ここのハイジは可愛くない。もちろん相手になんかしませんよ。僕は大人ですからね、このクソガキが!子供グループは親の手伝いを終えるとちょくちょく顔を出す。ヤギの世話が面白いらしい。乳搾りを手伝ってついでに乳を減らしていったりする。チーズを搾るための晒し布も貰ったし、作業はずいぶんとこなれてきた。そして子供らが現れるとやらせていることがある。コレトウに竹の節を利用して茶筒のような容器を作ってもらったのだ。二つに切った片側の表皮部分ともう一方の内側を削り落として組み合わせる形。これにヤギ乳を入れてひたすら振る。子供らがきゃあきゃあ言ってる間に脂肪分が分離してバターができる。出来上がったバターで肉や芋を焼いてみたが大好評。バターは食糧にするだけでなく貯めてある。そんな風に準備期間をすごした。


 コレトウのギプスを外した二日後、その人達は僕が降りてきた峰から村へ降りてきた。その人影を斜面に確認するとすぐに迎えが立つ。

「スタンバイだ」

 村の衆は夫々定めてあった役割を確認すると散ってゆく。僕はなるべく神人っぽく(いや、本当に神人なんですけどね)振舞うのが役割だから、顔と手を洗い伸びてきた髪も撫でつけて置いた。普段はサジの家においてある所持品もリュックに入れて身に着ける。

 山から下りてきたのは人間ってこんなに大荷物を背負えるのね…唖然とするほどの大荷物を背負った二人の男だった。あれって山伏の格好だよねと首を捻る。一人は一九〇センチ超えの大男でもう一人は中背の岩鉄岩男だ。手にしているのは丈夫そうな木の杖で、山伏って金属の錫杖を持っているのかと思っていたけれど意外。先に立った中背の男は出迎えたお館様の顔を見て相好を崩しかけたが、村の衆の中に僕の姿を認めると口を開けたまま棒立ちになった。歓待する村人らに手を引かれ荷を下ろしてもらいとしているのに、僕を見つめたままだ。軽く会釈。あー、あんた僕の村での立ち位置が解ってないね。交易品を持ってきたあんたの方が上なのよ。それに気付かぬ彼らに僕もお館様もほくそ笑む。

「話はあとじゃ、まずはよう休め」

 いよいよここからよ。長長期計画、実現させて見せましょう。

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