第四十九話 君の名は?1

~自己紹介で緊張するときは、周りの人を野菜だと思おう。

え、でもさ。なんで野菜に自己紹介してんだろ。

……そうです。人はみな、気付かない内に自らバグろうとするのです。

そういうものなんだなあ~


 はいはい。そういう訳で、実技試験が始まりました。

他のチームは、ニコニコと愛想笑いを浮かべながらペコペコしていたり、

拳を突き上げて早速、扉に入って行ったりと。

まぁ、それぞれ思い思いに過ごしていますねぇ。


 えー、で。一方、私たちはというと……


シーーーン。


 あれ。

なにこの重苦しい空気は。い、息がしにくいんですけど。

ここだけ空気が薄くない? あ、もしかしてもう山の頂上に着いちゃってる感じ?

もうゴール? だったらすんごく嬉しいやぁー。


《チュン》

「現実逃避すんな。

ただ単にコミュ症×2と高飛車とよく分かんねぇ奴しかいないだけだろ」


 え、コミュ症二人いんの?

明らかにオドオドしてる極々、普通な男と……もう一人は?


《チュ》

「お前」


 なっ、なななぁっ⁉ 私のどこがコミュ症なのっ⁉

こんなに喋ってんじゃんっ! 日本語、ペラペラですぜっ⁉


《チュ》

「脳内ではな。だけどお前、外じゃ案外喋ってねぇぞ」


 …………


 そ、んな訳ないじゃんっ?

ワタシ、ペラペーラ。ニホンゴ、ペラペーラヨ?


《チュン》

「なんで片言なんだよ」


 よ、よーしっ。見てろ!

私がこの重苦しい空気を一変させてやるっ!

話しやすーいほんわかウフフな空気に変えてやろうじゃあないかっ‼


今っ!


すぐにっ!


……今っ‼




「…………っ」


 む、無理ィィィィィィ‼


 なんかっ! なんかさっ⁉

意気込むと余計、無理になって来るんだけどっ⁉

なにこの動悸っ⁉ なにこの汗っ⁉

なんかめちゃくちゃ怖いんですけどォォォォ⁉


《チュッ》

「無理すんな。お前は所詮、内弁慶なんだよ。

テンションが昂った時以外のお前は基本、口数少ねぇぞ」


 そ、そそそそんな訳ないじゃんんんんっ⁉

仕事だってねっ⁉ 私、結構喋る系のやつやってたからっ。

バリバリだから。本気出せば、バリボリに喋れちゃうからっ。


《チュー》

「へぇー」


 じゃ、じゃあいいよ?

私、本気出しちゃうから。喋っちゃうから。

いいの? 私が本気出したらすぐに仲良くなっちゃうよ?

肩組んで踊り出しちゃうよ?

マイムマイムしちゃうよ? ジンギスカンしちゃうよ?


《チュー》

「ふーん」


 あ、もうやっちゃう。やっちゃうから、うん。


「…………あ――」


《え、えっと、あのっ!》


ギュンッ!


「なにっ⁉」


《へっ⁉》


 何かな、普通くんっ‼

何か言いたいことがあるのかねっ⁉ あるんだねっ‼

しっかたないなぁーっ! 私が喋ろうとしたんだけどねっ!

仕方ないから譲ってあげるよぉー!


 で、何っ⁉


《チュ……》

「こいつ、どうしようもねぇな……」


《あ、えっと。

と、とりあえず、自己紹介。とか、どうですか……?》


 なーるほどっ! 確かにっ!

確かにまずは自己紹介だねっ!


 …………あっっっっぶな。

普通くんが話してなかったら、私の武勇伝を披露するとこだ――


い、いやっ⁉ 私もそう思っていたさっ!

ちょっとありきたりだなぁとは思うけれどねっ⁉

まぁ、初対面だしっ! うんっ! ねっ⁉


「う、うん。しようしようっ」


《…………》


《…………》


 あ、あれ。なんか他の二人から反応がない。

え、やっぱり自己紹介なんてありきたりだった?

つまらなかった? やっぱりここは私の武勇伝を――


《チュンッ》

「自己紹介がありきたりってなんだよっ。

初対面の常識だろ」


 あ、だ、だよねぇー。

常識だよねぇー。 アハハハハ。


《あ、じゃあ僕から――》


 ん、どぞどぞ。


《ぼ、僕の名前はムラビ・トビーです》


 …………わぁお。


 それは、えっと――

なんか、頑張れ。応援してるよ、来年もあるさ。


《チュッ》

「名前だけで不合格にしてやるなよ」


 いやいやだってさ、村人Bだよ?

絶対、AもCもZまでいそうな名前だよ?


 これはちょっと……

頑張れ。仕事は他にも山ほどあるさ。


《で、えっと――》


 ん、村人Bがななめ横にいるゴスゴースを見た。

だが、ゴスゴースの睨み攻撃がさく裂。

村人Bの心は折れた。


 次に、鬼くんの方を見ようとした。

だが、震えて見ることができなかった。

村人Bは怯え状態になった。


 そして最後に私の方を見た。

少しジト目になり、目を逸らした。

しかし熟考後。もう一度、こちらを見た。


《あ、貴方のお名前は?》


 村人Bは消去法により、仕方なく私に決めた。




 ――いや、私らはお前の最初のモンスターかっ⁉

ポケットに入るモンスターかっ⁉

しかも全部、ハズレかっ⁉ ハズレ御三家なのかっ⁉


 失礼だろっ‼


「……藍沢 桜、です」


 まぁ、答えるけどさ。


「んで、君は?」


 はいっ。ダメダメな普通くんに変わり、

私が流れるよ~うにゴスゴースの名前を聞いてあげちゃいましたよ。


 ほれ、言ってみ? ゴスゴースって言ってみ?


《……庶民に名乗る名はありませんわ》


 …………へぇーーーー?

私が? この私がっ? 折角聞いてあげたのに?

そんな態度取るんだ? へぇーーーーー。


《チュ?》

「結構、勇気出したのにな?」


 べっつに出してませんんんんっ‼

さっきから何言ってんのかな、悪ドリィ⁉

私のキャラがぶれるじゃんかっ!

二度と、そんなこと言うなぁっ‼




第四十九話 君の名は?1

~自己紹介で緊張するときは、周りの人を野菜だと思おう。

え、でもさ。なんで野菜に自己紹介してんだろ。

……そうです。人はみな、気付かない内に自らバグろうとするのです。

そういうものなんだなあ~ END・・・

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