第四十八話 プレ絵本鑑賞会

~テレビを見る時は部屋を明るくして、

なるべく離れて、バグに注意してご覧ください~


《皆さん、無事組み終えたようですね!

それではっ! 実技試験の概要をご説明致しましょう‼》


ボワンッ。


 おお。

どこからともなくでっかいテレビが出て来たよ。

しかもコードとかないし、台もないのに宙に浮いてるよ。

ファンタジーか?

こんな些細なところでまたファンタジー要素ぶっこんで来たんだな?


《チュン》

「にしても、実技ってのは一体どんな内容なんだろうな」


 だね。

この即席チームじゃ不安しかないしさ。

せめて、簡単な実技だといいけど。

筆記みたいにさ。


《それではご覧くださいっ‼

【第10回! 実技試験。プレ絵本DVD➉】をっ!」


 DVDなんだ。懐かしっ。


チャチャラチャー。


 お、始まった。

うん。昔話のアニメみたいな導入だね。


【むかしむかしのお話です。

ある日、貴方たちは

昼間は酒盛り、夜はクラブでキャッホーと朝まで騒いでいた

それはそれは悪いおじいさんを叱りました。

「もういい年なんだから、健康に気を付けないとお迎え来ちゃうぞ☆」】


 え。

それ、私たち? 私たちってそんなキャラになんの?

ていうか、クラブって。随分、現代的な絵本だな。


【するとおじいさんはびえびえ泣き出します。

「すまんかったっ。毎朝、ラジオ体操するようにするから許してくれい」

「なら仕方ないなぁ。次はないぞ☆」

貴方たちは、吊るし上げたおじいさんを降ろしてやりました。】


 つ、つ、吊るし上げてたのっ⁉


 そんなことした覚えはないんですけどっ⁉

どんだけ悪質な老人虐待だよっ⁉

明らかに【それはそれは悪い】のこっちじゃないっ⁉


【すると、

「バーカバーカ! 嘘泣きじゃわいっ!

最近の若いモンは騙されやすいのぉ!」

おじいさんはお尻を叩いて挑発し、逃げていきました。】


 あ。なんだ、ただの低レベルなクソジジイじゃんか。

もっと吊るし続けてた方がよかったよ。


《チュ》

「んな訳あるか」


【そんなおじいさんを逃がすまいと、

貴方たちはおばあさんを人質に取るという

姑息で汚い手を使いました。】


 いきなりの悪役感っ⁉

やっぱ私たちって悪役なのっ⁉ 主役じゃないのっ⁉


【おじいさんは残りの余生を謳歌したい。

貴方たちはおじいさんに長生きしてほしい。

攻防戦は長く、長く続きました。】


 うんうん、理由だけはまともなんだけどな。

私たち、一体どこで道を踏み外したんだか。


【そんな膠着状態のまま、10年の月日が経ち――】


 えェェェェェええっ⁉ 経ち過ぎじゃない⁉

もうじいさん生き絶え絶えじゃないっ⁉

こんなことに貴重な余生使ってる場合じゃないでしょっ!


【遂に、今まで沈黙を貫いていたおばあさんがある提案を口にしました。

「あたしがこの10年で造った【迷宮マウンテン】に入り、

先に山の頂上にある金の玉を手に入れられた方の勝ちにしたらどうだい?」】


 お、おお。

まさかのおばあさんが一番余生を謳歌してんじゃん。

10年かけてって……すごいなおばあさん。


《チュン》

「つーか、人質に取られてたんじゃねェのかよ」


 あ、確かに。

じゃあなに? 人質に取られながらも隙を見てとか?

それともおばあさんそっちのけでやり合ってたとか?


【こうして、貴方たちとおじいさんの最終勝負の火蓋が切られたのです。】


チャンチャカチャン。


 あ、終わった。


        LOADING・・・




《と、いう訳で。皆さんにはこれから扉に入り、

【迷宮マウンテン】で金の玉を取りに行ってもらいますっ!》


 あ、なーるほど。

そういう設定で今から実技をやると。


 へぇー…………無駄に設定凝ってない?


《ちなみに扉の中は全て同じ作りになっています。

ですが、皆さんの選択次第で少しずつ物語も変わっていきます》


 やっぱ凄い凝ってるな。

流石、有名な学園なだけあるよ。


《それでは皆さん、準備はいいですかっ?

期限は今日の14時から、三日後の14時。

合計、72時間となりますので――


 あ、へぇー。72時間…………


 な、なななななな72時間んん⁉

長くないっ⁉


 筆記とは比べ物にならない長さなんだけどっ⁉

もはや筆記、いらなかったでしょ⁉

あんな簡単な問題出す必要がないでしょっ⁉


《それぞれ入る前に作戦を立てるのもよしっ。親睦を深めるもよしっ。

入ってから考えるのもよしっ。お好きなように3日間をお過ごしくださいっ》


 マ、マジか……

今から3日間も、こんな奴らと一緒にいなきゃいけないなんて…………


《だ、だだだだだだ大丈夫大丈夫大丈夫っ……

予習通りにやればブツブツ》


《どうしてこのわたくしが、こんな人たちと……

屈辱以外の何ものでもありませんわっ》


《………………》


 …………うんっ。ダメそう。


《チュ》

「諦めんな。人生、諦めたら……あー、何かが終了すんだろ」


 でもさ。人生、諦めが肝心とも言うよ?


《私たち、審査員は上から皆さんを見て審査致しますので

どうかお気になさらず》


 えぇ、いいなー。高みの見物じゃん。

私もそっちがいいなー。

審査員どころか更にその上の神になりたい。

ダ女神みたいのじゃなくて、もっと崇高な感じの。


《それでは、皆さんっ‼

健闘を祈りますっ‼》


《頑張りなさいな。応援しとるよぉ》


《……ばあさん。仇は討ったぞ》


バビュンッ。


バビュンッ。


バビュンッ。


 えェェェェェェ…………

なんか空に飛んでいったんですけど。

彼方まで椅子に座ったままぶっ飛んでいったんですけど。


《第10回! 実技試験っ‼


 スターーーーーーーーートですっ‼》


 あ、始まった。




第四十八話 プレ絵本鑑賞会

~テレビを見る時は部屋を明るくして、

なるべく離れて、バグに注意してご覧ください~ END・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る