第四十三話 ヘンメール体操第一
~体操を甘く見たら、痛い
何回、キンキンさせんのっ⁉
もはや態とでしょっ!
《……ええぇ。わしはメルヘンタウンの町長をしておる爺であり――》
え、町長っ?
このじじ、学園の人でもないのっ?
何しに来たのっ? お言葉でも述べに来たのっ?
《ええぇ、今日はお日柄もよく。ええぇ…………》
「…………」
《えぇぇ…………》
「…………」
《えぇぇ…………なんだっけ》
なんなんだよっ。何が言いたいんだよっ。
《チュッ》
「まぁ、待ってやれよ。
いい歳なんだからよ」
えぇー……
仕方ないな。なんだよ。何が言いたいんですか?
《えぇぇ…………ここからは――
みんな大好き、ヘンメール体操のお時間です》
ああ、そうですか…………いや、なんじゃそりゃっ⁉
知らないんですけどっ。私が知ってるのはラジオ体操と
ぽんぽこ体操とコンココ体操くらいなんですけどっ。
《チュンッ》
「下の二つはなんだよっ。聞いたことねぇわ」
それは悪ドリが遅れてるからだよー。
ていうか、なんで今から体操……あ、実技だから?
準備運動は大事と?
なるほどなるほど、確かにそうだ。
でもさっ、そんな体操知らないんですけど。
カチッ。
あ、じじがどこからか出て来たラジオのスイッチを押したよ。
~♪
うわぁー、なんか演歌みたいなの流れてきたんだけど。
全然、ラジオの体操っぽくないメロディなんだけど。
って、あ。
なんか周りのみんなが距離を取り出してるよ。
そりゃそうだよねぇ。こんな体操知らないもんね。
怖いよね。
よしっ。私も離れようっ。
《チュ、チュン》
「い、いや待て。
こいつら……一定の距離を取って踊りやすくしてるだけだぞ」
わぁおっ⁉ 踊る気満々なんかいっ⁉
なにっ⁉ みんな周知の体操なんですかっ!
また私だけが知らない感じですかっ! のけ者ですかっ!
事前に教えてくれよ、誰かぁっ‼
《チュッ》
「ちょっと待て。周りをよく見ろっ」
なんだよなんだよ。
どうせ私だけ仲間外れなんだろ。
みんなで私をイジメて楽しんでんだろっ……
《な、なぁ、ヘンメール体操ってなんだ?》
《さ、さぁ……でも踊らなきゃ試験に影響あるかも》
《わぁー、確かにっ…………》
…………え。
も、もしかして……普通にマイナーな体操?
いやでも、まだサビ前なのになんか踊ってる人いるけど……
でも踊れてない人もいるっ…………
あ、これあれかっ。踊れてるのはメルヘンタウン出身でしょっ!
なぁんだぁーっ。そっかぁー、私だけのけ者な訳じゃなかったのかっ。
ならいいんだよっ。
《チュン?》
「でもどうすんだよ。
踊れなかったなら試験に響くかもしんねぇらしいぞ?」
ぬーっ……仕方ない。
悪ドリよっ! …………全力で真似るぞっ‼
《チュッ》
「おう。頑張れ」
チャンチャカ チャンチャン♪
チャチャンチャ チャンチャン♪
おっ?
そうこうしている間になんだかサビが来る予感っ……!
体操のサビといったら――――
【しゃがんで両手を下に向かって擦り合わせ、
時折手を後ろにやって背中を叩くっ♪】
来た来た来たっ!
サビといえば、動きの指示っ!
【序盤に出てくる川で洗濯するおばあさんの運動♪】
《 《 《腰が痛いのぉ》 》 》
おおぉ……
流石、絵本の世界っ。
体操もそれに寄せてるんだねっ。
でもさ、序盤に川で洗濯するおばあさんとか
出てくる絵本、パッと一つしか思いつかないんですけど。
《チュッ》
「文句言ってないでお前も言えっ」
ああ、はいはい。
「腰が痛いのぉ」
【手を顎に近づけて斜めに女の子座りをするっ♪】
手を顎に……?
ああ。手の甲を顎にくっ付けて、手を少しくの字に曲げるとっ。
はい、これが?
【継母にイジメられるヒロインの運動♪】
《 《 《ヨヨヨ……》 》 》
「ヨヨヨ……」
なるほど。
典型的な悲劇のヒロインタイプだねっ。
…………でもこれ。一体、どこの何を体操できてるんだろ。
《チュン》
「座り込む時に足首、ひねらないようにだろ」
ああ……
いや、それ下手したら体操した時に足首やっちゃわない?
【手を前に出して威嚇し、斬られた時のようにスローモーションに倒れる♪】
はい、手を前にやって威嚇して。
スローモーションで倒れ……た、倒れ…………
【よくある悪役の運動♪】
《 《 《やられたー……》 》 》
「や、やら――――」
いや真似できるかぁっ⁉
スローモーションってなに⁉ どうやってやんのっ⁉
あんなの編集で付けるもんでしょうがっ⁉
【りんごをかじる真似をして、苦しみだす♪】
もう次かいっ。
え、かじる真似って、落語かっ。
【毒りんご食べた時の運動♪】
《 《 《ぐ、ぐおおぉぉぉぉ⁉》 》 》
いやいやいや。これはもうどこも体操できてないから。
ていうか、何人か迫真の演技の人いたんだけどっ。
経験者だろ、毒りんご経験済みだったんだろ。
《チュ》
「おいっ」
あ、忘れてた。
「ぐ、ぐおおぉぉぉぉ⁉」
LOADING・・・
【ヘンメール体操っ。あ、これにて終~了~っ‼】
ふぅー……やっと終わったよっ。
かれこれ五分くらいはやってたんじゃないっ?
あ、ほらそうだよ。
今が丁度、試験開始時間だもん。
タタタタタタッ。
ん? なんだなんだ?
なんかスーツとサングラスの人が壇上に駆け上がってきたよ。
《ダメでしょ、おじいさんっ!
こんなところに来ちゃあっ》
え。
《ていうか貴方、誰なんですかっ》
《わしかぁ? えぇぇ…………
ああっ。御伽市街地の市長じゃよ》
《なに言ってるんですかっ……》
え、なに?
町長でもなかったの?
ついでに市長でもない?
え、じゃあさ…………
今のなんの時間だったのっ⁉
第四十三話 ヘンメール体操第一
~体操を甘く見たら、痛い
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