第四十話 サスペンス、開幕

~火曜日は、みんなで観ようよバグ劇場~


 やっと帰って来たぜ、待たせたな諸君っ!


《チュ》

「待ってんのはダ女神だけだろうが」


 まぁ、そうとも言う。


 はいはい。あの後ですねっ。

気絶しちゃった私が目を覚ました時には、あのきのこジジイは

キノコ布教のため、早々に家を出て行っていたそうです。


 なので私は気絶地獄からようやく解放されましてっ、ここ。

理の泉に現着いたしましたっ。


《それじゃあ、泉に入りましょうか》


「いいけどさ。キノコステーキ、水浸しにしないでよ?」


 なぜか。なぜかね?

レストランでパッカーンする蓋をしたキノコステーキをね。

作ったChef(シェフ)の私ではなくカジリーが持っているんだよ。

なぜかねっ?


《そんなことしませんよ。藍沢さんじゃないんですから》


 うん。どういう意味かな?


《チュン》

「そういう意味だろ。分かるだろ」


 うん。わからない。びた一文もわからない。


《それじゃあ、お先に失礼しますね》


 おっと竹馬から降りたカジリー。

ていうか手が塞がってるのによく歩けてたね。尊敬しちゃう。


 あ、はい。

バナナの皮を置いて……え、また?

今回もそういう入り方しないといけないの?


《あー。

こんなところにバナナが、そんなバナナぁー》


 ツルッ。


 バシャン。


「……………………」


 あ、オーケーオーケー。

そんな感じで。なるほどー。

…………竹馬とキノコステーキ抱えてご苦労なこったよ。


 んではでは。

私もいっちょ、一芝居いきますかっ。


 えーと…………




「来ないでっ‼」


《チュ……?》

「は? きもっ……》


 い、いやキモいはないじゃん。

傷付くっ…………泣くっ…………


《チュン……》

「なんなんだよ……何する気だよ」


 ゴホンッ。


「来ないでっ‼」


《…………チュ》

「…………なんでだよ」


「あの子が悪いのよっ……

あの子が私のタカシを汚そうとするからっ‼」


《チュッ……》

「どこのタカシだよっ……」


「だから……だから殺してやったのよっ!」


《チュッ⁉》

「は⁉ タカシをかっ」


「違うっ! セツコをっ!」


《チュ……》

「誰だよ、セツコ……」


 セツコは私の親友だったけど、私のタカシを汚そうとした。

それに気付いた私は巧妙なトリックでセツコを殺害したけど、悪ドリ刑事デカに崖に追い詰められてる。そして今はまさにクライマックスッ!


《チュンッ……》

「あっそ……早口の詳細説明ありがとよ」


「来ないでっ‼」


《チュ……チュンッ》

「そっからかよ……あー、藍沢さん。オレにはもう全て分かっている。貴方がセツコさんを自殺に見せかけて殺したんですね?」


「っ……あの子が悪いのよっ。私のタカシにっ……




【た】まご【か】たゆで【し】ょうゆラーメンに、

お好みでどうぞの背油をぶっかけようとしたんだからっ‼」


《…………チュッ⁉》

「…………いや、しょーもねぇなっ⁉

んなことで殺したのかよっ⁉

ってか、タカシってラーメンっ⁉」


「だってっ、だって仕方なかったのよっ! あの子がっ、

《私、【せ】あぶらた【っ】ぷりの【こ】ってりとんこつラーメン派なの》

って言うからっ‼」


《チュー……》

「シナリオどうなってんだよ……

まぁいいわ。自白したな。んじゃあ、お縄についてもらおうか」


「来ないでっ‼」


《チュッ》

「またそれかよっ。

あー、あれだろ。崖から飛び降りるエンドなんだろ。

わかったから、止めねぇからさっさと落ちろよ」


「あんたなんてっ!

どうせ鶏ガラスープのあっさりラーメンが好きなんでしょ!

私はっ、私は認めないわよっ!

卵固ゆで醤油ラーメン以外はっ!

絶対にっ! 認めないんだからーーーーーっ‼」


 夕日で染め上がった海。

崖の上には、哀愁に染まった刑事デカの影。

それが伸びる先で、

泣き崩れる彼女の泣き声だけが、どこまでも響き渡ったのであった。


テーテレーレレレレー♪






《チュッ》

「あ、足が滑ったぁー」


 ゲシッ。


「あれっ」


 ボチャン。


 いや、ちょっ、

なにしてんの悪ドリィィィィィィ⁉


 今、めちゃくちゃいいとこだったのにっ!

犯人の演技が光り輝いてたのにっ‼


 アカデミー賞がっ、

赤い絨毯が私を待っていたのにィィィィィィ‼


ブクブクブク…………


       LOADING・・・




 ドテッ。


《あ、遅かったですね――――》


「こんのっ、クソ鳥ィィィィィ‼

今日という今日は許さんっ‼」


 引きちぎるっ‼

そのフワフワ毛を引きちぎってマフラーにして売ってやるぅぅぅ‼


《チュッ‼》

「ざけんなっ‼ テメェがさっさと泉に入んねェからだろっ‼

クソ茶番始めやがってっ!」


 茶番じゃありませんー。

もしあれが茶番に見えたんだとしたら、

それは悪ドリの演技がダメダメだったからですー。


 だから――


「毛ェ、引きちぎらせろやぁーっ‼

空、飛んでんじゃねェぞっ‼ 逃げんなぁぁぁあっ‼」


《ケッ》

「ケッ。

あんなクソ台本に付き合ってやっただけありがたいと思えっ」


 あ゛ぁ⁉


「くそーっ……銃さえあればっ…………」


 ハッ⁉ 今こそ私の女優魂が問われるっ⁉


 続編っ!

【悪ドリ刑事デカ、危うし⁉

狂気の警官連続殺人事件!】


 開幕だっ!


 ……あ、でもこれじゃ悪ドリを殺れないのかっ。

主役は何だかんだ助かっちゃうもんな…………

降板だっ! 主役、降板しろーっ‼


《チュッ………》

「あーあー、わかったよ……降板でもなんでもしてやるから。

もう俺を巻き込むな…………頼むから」




 第四十話 サスペンス、開幕

~火曜日は、みんなで観ようよバグ劇場~ END・・・

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