第三十九話 8分9秒クッキング!

~好きなものだけ詰め込めば、ほらご覧。料理バグの完成さ~


「はいっ。始まりましたー!

8分9秒クッキングーっ‼」


《えっ、なんですかいきなり…………》


 ちょっ、ノリが悪いなーカジリー。


「こういうのはノリが命なんだよ、カジリー。

なんたってクッキングなんだからっ」


《はぁ……》


 ではでは初めていこうか。


「まずは、ステップ1っ!

きのこの納の部分を切る…………」


 んだけど――


「ご、ごめん、カジリー。お願い」


《え? あ、はい》


 だ、ダメだ。

なんか感情移入しちゃって。


 同士だったから、さっきまできのこだったからさ。


《チュンッ》

「なんだきのこに感情移入って」


 仕方ないだろ。

きのこにも命が宿っているんだよ。


 ごめんよ、きのこ。

きっとダ女神が美味しく食べてくれるから。


《できましたよ》


 ぐわっ⁉

な、なんてグロテスク…………


 カジリー、なんてやつだ。


《なんですかその敵を見るような目は……》


 おっと、バレたか。


 きのこ殺しーっ! と、心の中で

叫んでいることに気付かれない内に次、いこうっ!


「えー、で。ステップ2!

このきのこを油をたっぷり入れた鍋に放り込みます」


 これはもうできます。

だってこれはもうきのこではない。

きのこだったものだからだっ。傘だけのきのこなんてきのことは認めないっ!


 なぜなら傘は、髪の毛に過ぎないのだからっ!


「さぁ、いきますっ!

油へ、ポーンッ‼」


ジュワーーーーーッ‼


《チュッ》

「お前……無人島で暮らしてたのかよ」


 お?

悪ドリ、そのネタに気付くとは中々やるなっ。

だがっ、だがっ! あえて言わせていただこうっ。


 なんのことかなっ?


「んで、ステップ3!

いい感じに揚げ終わったら取り出し、

今度は調味料をフライパンに入れますっ」


 えぇーっと、

しょうゆに砂糖に――まぁソースとか?

適当に入れましょー。


《そ、そんなに入れて大丈夫なんですか?》


「大丈夫だよー」


 味なんて濃ければ濃いほどいいんだから。

隣のじじも言ってたよ?


【こんなに濃いもんは久方ぶりじゃ!

天に召されるかと思ったわいっ!】ってさ。

それはそれは大喜びだったよ。


《チュンッ⁉》

「殺す気かっ⁉

本当に召されちまうぞっ!」


 大丈夫だよ~。

あれから一度も食べさせてないから。

というか食べさせようとすると片づけだすんだよね~。


《チュッ……》

「お前の料理、本当に大丈夫なやつなんだろうな……」


「はいっ、ここでステップ4!

フライパンにきのこを入れて、しっかりと絡ませれば――」


 あーら、不思議っ。


「きのこのステーキの出来上がりー!」


《もうできたんですか?

本当に簡単ですね》


「でしょでしょ」


 これでダ女神も卒倒のつまみが完成したね。


《チュンッ……》

「別の意味で卒倒したりしてな……」


 さっきから失礼だなぁ、悪ドリくんよ。

一回、食べてみ? 羽ばたけるぞ。


《チュッ》

「別の言い方してきてんじゃねぇよっ」


《では、私も味見程度に一ついただきますね》


「うんうん。どぞっ」


 んじゃ、私も一つだけ――


ガチャ。


《帰ったぞーい》


 ん?


《あ、帰ってきたでごわす》


 ああ、もう一人の住民だっけ。

ていうか小人は今までどこにいたんだ?


 まっ、どうでもいいか。


「それじゃ、いただきまぁ――」


《いやいや。

今日もきのこの素晴らしさを皆に伝えたぞい》


 え゛っ…………


 き、きのこ、ジジっ――――


バターンッ!


《チュ⁉》

「おいっ⁉」


「藍沢さんっ⁉」


《お? なんじゃ、この娘は?》


「き、きのこが、一人――

きのこが二人――」


 あれ、なんか口から泡が――――


「た、助け、てェー…………」


        LOADING・・・




 ……………………ハッ!


《チュ……》

「お、起きたか。

たくっ、何回気絶すれば気が済むんだよ………」


 あ、あれ?

もしかしてまた、幻惑見てた??


 そ、そうだよねぇ。

だってさ、流石にさ、きのこジジイが実在する訳――


《おお、大丈夫かね、


 き、君ィって…………


「ぎゃああああああああっ⁉

キノコジジイ出たァァァァァァァ⁉」


 たたたたた助けて、悪ドリィィィィ‼


《チュッ!》

「落ち着けっ!

よく見ろっ。このオッサンのどこがキノコなんだよっ」


 ……………………え?


《ほっほっほ。元気な娘さんじゃのぉ》


 あ、あれ?

キノコ、じゃない?


 それどころかガチのおじいさんじゃん。

白ひげがお似合いの温厚そうなおじいさんがそこに――


 あれ? でもさっき――


「き、きのこの格好してたような…………」


《おお。これのことかね》


 そ、それって…………

きのこの着ぐるみ?


《さっきは驚かせてしまってすまんかったのぉ。

実はわし、きのこの知名度を上げる為に活動している

キノコ博士なんじゃよ》


「き、キノコ、博士?」


 じゃ、じゃあ、さっきの格好は――

ただの着ぐるみ?


 な、なんだぁぁぁぁ…………


「あれ? でも……

なんで幻惑におじいさんが出て来たの?」


《うむ……恐らくじゃが、ノコノコキノコは

記憶機能を持っておったのじゃろう。

そのため、幻惑にわしが出て来たのやもしれん》


 き、キノコの記憶って…………

なんじゃそりゃっ。


 ま、まぁ、でもよかったや。

あのキノコジジイはあくまでもこの人に影響された幻惑なんだもんね。

マジモンのヤバいやつな訳じゃなかったんだもんね。


《それにしてもこのキノコ料理はおいしいのぉ》


 …………って。


 なんでおじいさんがキノコステーキ、食べてんだよ。


 私もまだ食べてないのにっ。

部外者のおじいさんがさっ。ただの、おじいさんがさっ。


《チュッ》

「ここはじいさんの家でもあんだから

別にいいだろ」


 あれ、そだったっけ。


 あ、そうだ。


「あのー、おじいさん」


《む? なんじゃ?》


「もしおじいさんが

余命幾ばくもない人にあったらさ。

どうしてあげる?」


《チュッ》

「どんな質問だよ。

初対面でする話じゃねぇぞ」


 いいじゃん。気になるんだもん。

そして返答次第で私のトラウマは返上されるのだっ。


《うむ……そうじゃな――》


 さぁ。優しいおじいさんらしく、励ますやら。

諦めるなと病院を探してあげるやらするんだ。


《【アンラクシノコ】をやるかのぉ。

楽になるぞい、とな》


「……………………え゛」


《なんてっ。

まぁ、ほんの冗談じゃが――》


バターンッ。


《チュッ⁉》

「おいっ⁉ 今日、何回倒れる気だよっ⁉」


 や、

やっぱりヤバいやつだったぁぁぁぁァァァ‼


ブクブクブク…………




第三十九話 8分9秒クッキング!

~好きなものだけ詰め込めば、ほらご覧。料理バグの完成さ~ END・・・

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