第三十四話 博士

~言い伝えはバグりにバグるも、やっぱり正しいもの……だよね?~


 なんとか、調味料はゲットできたねぇー。

まぁ、使用されてるけど。


 特にしょうゆなんかが少ないけど。

しょうゆ派なのかね、狸族ってさ。


《ところで、藍沢さん。

そのつまみとはどういうものなんです?》


 お、聞きたいかい?


《それはずばり――――




ステーキだよっ!》


《…………》


 ん? なんだ、この間は。


《チュ》

「普通だな」


《なんていうか、藍沢さんにしては普通ですね》


「…………」


 なんだよっ。

普通の何が悪いんだよっ⁉


 普通、素晴らしいっ!

普通、最高っ! だよっ⁉


 そ、それに、そんじょそこらの

ステーキとは一味違うからっ⁉


《それで、何のお肉を使うんですか?》


 お。


「ふふふ……甘いなカジリー」


 私が作るステーキは、お肉ではないのだよ。

だって肉のステーキって、それもうただのじゃん?


「私が作るステーキで使うのは――

しいたけ、だよっ」


 その名もきのこステーキ。

なんて独創的なメニューなんだろうっ!


《チュッ》

「どっかの料理サイトに五万と載ってるけどな」


 ぐっ……バレたか。


 だ、だが、食感はまさしくお肉!


 これで、隣のじじをダマし――――

いや、健康に気を遣ってね?

食べさせてあげた訳よ。


《チュン》

「もうダマしたって、言っちまってたけどな」


 そ、そんなっ、

そんなこと私がすることないじゃん?


 確かに? 確かに、隣の顔見知り程度のじじに

お肉をあげるのはちょっと? いや、ほんのちょっとだけ?

抵抗ある人もいるだろうけど私がそんなこと――


 ねぇ?


《…………しい、たけ?》


 ん? どうしたの、カジリー。


 あ、そっか。

ここじゃ、キノコをステーキにする発想は生まれてなかったか。


 そうかそうかっ。

じゃあ、私がキノコステーキの第一人者という訳だなっ。

 ――悪くないっ。


《えっと、すみません。

しいたけって、なんですか?》


「はい?」


 え、知らないの?


「じゃ、じゃあ、まつたけは? えのきは?」


《いえ……聞いたことありません》


 ……………………なんでやねんっ⁉


「きのこだよ、きのこっ?」


《き、きのこっ⁉

きのこを食べるなんて……》


 いや、そんな

イカれたやつを見る目でこっち見ないでくれるかな。


「食べられるきのこもあるんだよっ?」


《そ、そうなんですか?》


 え、もしかしてここじゃ、ないの?

いや、でも昔話でもきのこくらいどっかに出てるような気がするけど……


 この国にはないの?

それともきのこが出てくる絵本はまだ出てないとか?


 ふーーーん……

よし、わかったっ。


 じゃあ、私が初めてのきのこ学者となろう。

きのこ博士と呼んでくれたまえっ。


 私は、きのこ博士の称号を手に入れた。


《チュッ》

「んな称号ねぇわ。

勝手に設定、作ってんじゃねぇよっ」


《うーん…………他のつまみじゃダメなんですか?》


「えー……」


 そんなにきのこ嫌なの?

ダメだよ、食わず嫌いはさ。

確かに見た目は不気味かもだし、ヌメヌメだし、菌からできるし――


 あ、ごめん。想像したら、私も無理かも。


《チュッ》

「なんでだよっ」


 おっと、シンプルなツッコミ。


 まぁ、でも他のつまみじゃダメなんだよなぁ。

なんせ――


「他も何も、私が作れるつまみはそれしかないよ」


 だってさ、隣のじじの話って私が高校生の時だし。

そっからすぐ就職したから料理なんてやる暇なかったし。


 そういうことだよ。


《ううーん…………

あまり気は進みませんが、仕方ありませんね》


 そんなに嫌なの?

確かに不気味な形だし、毒きのこは多いし、下手したら死んじゃうし――


 あ、ごめん。やっぱ私、無理かも。


        LOADING・・・




 そんなこんなでカジリーに案内されたのは、迷いの森3。

地図でいうと謎の【。】が点々としている場所だね。

それこそがきのこを表しているとのことだよ。

 ……分かりにくいな。


《いいですかっ?

絶対に危険なきのこには近寄らないでくださいよっ》


「わかってるって」


 ここから先がきのこのあるエリアのようで

どでかい看板まで立ってるよ。


 なんかちょっと字が掠れてるけど……

【1 しっかりと知識を持って。2 ぬかりない事前準備を。

3 よろこぶのは帰ってから!】

だそうです。


 そして私は、

知識は人並み。準備はしてない。別に採れてもよろこぶ要素がない。


 うんっ。入る資格はバッチリだね。


《チュッ》

「お前に資格は毛ほどもねェだろっ」


《特に危険なのは、大きな毒々しい色をした【ノコノコキノコ】です。

もし仮に見つけてしまった時は、ノコノコ踊りをするんですよっ》


「え、何それ」


《古くからの言い伝えです。

昔の人が言うことは侮れなせんからね。

しっかり覚えてくださいよ》


 えぇー……

一体、どんな踊り――


 あ、カジリーが竹馬から降りた。


《はいっ。

ノッコノコランラン♪ ノッコランラン♪

ノコノコは~皆の側に、いるんだよ~♪

皆の側に―――――――♪


 はい。

ちょっと長いんで割愛しましたぁー。


 そして、その踊りの特徴はずばりっ――




ドジョウすくいです。


《はいっ、藍沢さんもご一緒にっ!》


「えぇぇぇぇぇぇぇ…………」


 ガチか。

めっっっっちゃめちゃ嫌なんですけど。


《チュチュチュッ?》

「いいじゃねぇかよ?

お似合いだぜ?」


「もちろん、鳥さんもですからねっ!」


《チュッ》

「えっ」


《はい、せーのっ!

ノッコノコランラン♪ ノッコランラン♪

ノコノコは~皆の側にいるんだよ~♪

皆の側に―――――――♪


        LOADING・・・




 はい。これを十分ほど踊り続けました。


 恥ずかしいとかもうないッスね。

ただただ、しんどいッス。


《このくらいで大丈夫ですね》


「あ、うっす」


 何かを失った気がするよ。

人生で大事な何かを一つ、失った気がするよ。


《チュ》

「同感だ」


《もう一度、言いますよ。

絶対に、ノコノコキノコには近寄らないでくださいね?》


「はい。必ず、厳守いたします」


 絶対、踊りたくないからね。




第三十四話 博士

~言い伝えはバグりにバグるも、やっぱり正しいもの……だよね?~ END・・・

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