第四章 能力授与 後編

第三十一話 レッツ、ガラガラ!1

~バグは時に厳しく、常に重い~


 シャボン玉に入って飛ぶこと数分。

泉から出て、森まで抜けて、向かう先はどこかの町――


 いやぁー、随分便利なシャボンなことだね。


 だけどさ、私はわかっているよ。

このバグ世界。


 トランプの兵隊然り、釈放然り、ドラゴン然り…………

結構、手荒なんだよな人様に対してさ!


 だからこのシャボンもさ。

どうせ、割れるんだろ?

空中で割れるんだろ?

わかってんだよ、そんなことはよぉ。


 よし、町に近付いてきたな。

悪ドリっ、いつでも受け身が取れるように準備しなっ!


《チュッ》

「俺は飛べるから必要ねェよ」


 これだから素人は……

そういうおごりが死を招くんだよ。


《チュン》

「だったらお前は数えきれないほど死んでんぞ」


 何を言ってるんだか。

私がいつおごったって言うんだよ。


 あ、そろそろだっ!


 来るっ。


 来るぞっ…………




パチンッ。


トンッ。


 ……………………


「え、優しっ⁉ 着地、優しっ⁉」


 普通に地面まで着いてから割れたんですけど⁉

違うじゃん⁉ そんな優しい世界じゃないじゃん⁉


《そりゃあ、優しいですよ。

産まれたばかりの赤ん坊を連れて行く場所ですからね》


 ああ、そっか……それもそうだったね。

なんだよ、無駄にバグ慣れし過ぎてるな。


《チュッ》

「まっ、かもしれない思考は大事だろ」


 かもしれない運転みたいだな。

でも、この世界。かもしれない、と思ってても

斜め上から剛速球かましてくるんだけど。


 改めて、最悪な世界だよ。


「ところで、ここって?」


 まぁ、見た感じのメルヘン感は

ウルフィーと会ったところに似てる気もするけど。


《ここは【メルヘンタウン】です》


 あ、やっぱり?

てか、町の名前は普通なんだ。


《けど……この町も知らないって、藍沢さんは一体

今までどこで暮らしていたんですか……?》


「あ、アハハハ……

まぁ、その話はおいおい、ね?」


《はぁ……?》


 おいおい、というか。

とわとわ、というか…………あ、永久ってことね。


        LOADING・・・




《それじゃあ早速、材料集めですね》


「うん。それなんだけどさ――」


 ここで一つ問題がありまして、ね?


 その、何て言えばいいんだか……

あのー…………


《チュッ》

「ズバッと言えねェのかよっ」


 あ、はい、ズバッとね。

では、ズバッと!


「お金がないっ!」


《え》


 うーん、なんていうかっ。

盲点中の盲点だったっ!


《チュン》

「アホ中のアホだな」


《…………仕方ありませんね》


 おっ、貸してくれるのっ?

いやぁー、悪いなぁー。

そんなつもりはなかったんだけどなぁー。


《チュッ》

「そんなつもりしかなかっただろ」


《こっちです》


「え、こっち?」


 そっちは……

なんか賑わってる――


カランカランッ!


《残念っ! ハズレ~!》


《えーっ、またぁー?》


《いやぁー、お客さん。運がなかったですねィ。

また来てくだせェー!》


 えーっと、福引?

商店街とかにある……でもここ、

どっちかっていうと住宅街な気がするけど。


《あのガラガラで、調味料セットを当てましょうっ》


「え、あ、え?」


 あの、ガラガラで?

た、確かに、三等が調味料セットって書いてあるけど……


 その、なんていうかさ?


「か、カジリーは、その、お金とか持ってたり――」


《持ってますよ》


「え、じゃあ、その、か、貸してなんかくれたりは――」


《…………はぁーーー》


 あ、ありゃ、クソでかため息だ……

そ、そりゃ、お金貸してなんて非常識かもしれないけどさ?

か、返すよ? その、い、いつか…………さ?


《……いいですか、藍沢さん》


「あ、はい」


《もし、藍沢さんが

初対面で牢屋に入っていて――》


「はい」


《強引に【理の泉】まで連れてけと言って――》


「は、はい」


《変な渾名を付けてきて》


「へ、へん……あ、いえ。はい」


《その上、自分の失敗を笑い――》


「……………」


《女神様をつまみで釣ろうとする――》


「い、いやそれはカジリーが――」


キッ。


「いや、なんでもないです」


《そんな人に、お金。貸しますか?》


「い、いや、その…………」


《…………》


「……貸しません、すいませんでした…………」


《チュッ》

「よくぞ言ってくれたなっ」


 ううっ……私ってば、そんなひどいことしてた?

カジリー、嫌だったの……?


《全くっ……貴方みたいな自由奔放な人は初めて見ましたよ。

ただでさえ、少し変わった人が多いのに》


「あ、カジリーもそう思ってたんだ。

やっぱりこの世界の人って変わってるよねっ」


《貴方が一番、変ですがねっ》


「うっ…………

ホント、すいませんでした……」


 ホント、反省してます。ホント。


《はぁ……まぁ、いいですよ。

私もここまで来たら最後まで付き合います》


「か、カジリー!」


《ですが、お金は貸しませんっ!》


 うっ……


「はい…………」


《その代わりに――

これをあげます》


「これって……」


《福引券です。五枚しかありませんから、

これで当てられなかったら今年の受験は諦めて、

来年までに授与してもらましょう》


「うっ…………はい」


 全ては、カジリー様の言う通りに……


 でも、

今年無理だったら正直、生きてける気がしない……


《チュッ》

「だったら死ぬ気で当てろっ」


 はいよ……


《それじゃあ行きましょうか。

運命の、福引ですっ》


 本当に、生死を賭けた福引だよ。

福引って、そんな重いもんだったっけ…………




第三十一話 レッツ、ガラガラ!1

~バグは時に厳しく、常に重い~ END・・・

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