第二十二話 恐怖の筆記試験

~バグは時に攻略を容易にする~


ブンブンッ。


 更に手を左右に振ってやった。

これでも無視するなら教壇の前まで行って振ってやるっ。


 あれぇー? 目、見えないんですかぁ?

って言ってウザ絡みしてやるっ。


《……ハァー》


 おいおい、ため息ついてやがるよっ⁉

辞めちまえっ! お前、教師辞めちまえっ!


《どうした?》


「私、筆記用具持ってないんですけど」


 え、なにその嫌そうな顔は。

苦虫を嚙み潰した上にすり潰して

ジュースにする仕事をやらされてる社畜みたいな顔してるんだけど。


《チュッ》

「まぁ、あながち間違っちゃいねェな」


《筆記用具持ってきてないって、

お前……やる気あんのか?》


 お前にだけは言われたくねぇわ。


「まぁ……それなりに」


《ハァ》


 あ、またですか。またため息ですか。


 それでよく教員試験通りましたね?

私なら、教員免許どころか人としての何かを剥奪させるよ。


《チュッ》

「だからお前のどこにそんな権限があんだよ」


《……取り敢えずこれ使え》


「あ、ども」


 スーツに差してるボールペンを寄こして来たよ。

消すことはできないんだね。人生と同じだね。


《それと、その鳥没収な》


「え」


《このご時世に鳥連れてるとか

随分、古いヒロイン像を参考にしてんだな》


 あ?


《チュ?》

「あ?」


《んじゃ、試験終わったら取りに来いよ》


 なんてやつだ。

ここまで私をコケにするなんて……許せんっ。


 神様っ! この男をドブまみれの川に叩き落として、絞って、

心までもカラッカラの【カラダにデッド!】的な何かに何かしてくださいィィィっ‼


《チュッ》

「神なんて甘っちょろいのに願わなくてもいいぜ。

俺がこの場でこいつの頭、かち割ってやっから」


ゲシッ。


《おわっ》


 おお、悪ドリキックが頭にクリーンヒットだよ。

いいぞ悪ドリ、もっとやれ。


 ……効果はいまひとつだけど。


《随分、態度わりィ鳥だな……

まぁいいや。それじゃあ、始めー》


パラッ。


 え、いや。

始めるタイミング雑過ぎじゃないっ⁉


 乗り遅れたわっ⁉


 たくっ。んじゃ、試験開始でーす。


パラッ。


 えー、名前書いて――


 さぁ、1問目っ。カモーンッ!


【問1 絵本が始まる最初の文章で繰り返される言葉は何?】


 ま、マジかっ。


 どクソイージー問題じゃんっ!


 こんなんでいいの? こんなんで入れんの?

い、いや、私が知ってるのとは違ったりするかも――


【○○○○○○あるところに――

の空欄に入る三文字を繰り返して書きなさい】


 いや、百パーだ。百パー、答え【むかしむかし】だよ。


 なにこれ。こんなん誰でも分かるじゃん。

それともわかんないの?

そんなやつ、絵本になる資格どころかこの国で暮らす資格あんの?


 い、いや、まぁまだ問1だもんな。

最初は大体、簡単なのからくるもんだもんね。

うん、そうそう。


 んじゃ、次。


【問2 事例を読んで答えなさい。

悪さをしている人がいて村の人たちが困っています。

貴方ならどうしますか?】


 んー……


 私なら悪事をダシにそいつを脅してお金もらうか、

どうもしない。の二択だけど……


 まぁ、絵本の話からしてここは

【こらしめる】が妥当な答えかな。


 よしっ、次。


【問3 事例を読んで答えなさい。

怪しいおばあさんからもらったりんご。

貴方ならどうしますか?】


 お、丁度いいじゃん。

さっきのやつに食べさせて、村一番の金持ちに【倒したよ♡】

って言ってダブルでお金もらお。


 ……なんて書いたら

主人公の風上にも置けないクソ野郎だろうから

それはなしだな。


 あれ? 私ってクソ野郎だったの?


 ……………………そんな訳ないよね。


 えーっ……だけど、食べないってのも違うよなぁ。


 まっ、仕方ない。

ここは【食べる】が答えかな。


 でもなぁ。

やっぱり、食べた後に倒れて王子様に起こされる展開なのかなぁ。


 それさぁ……もはや両想いだった時にしか成立しなくない?

もしくは両片思いだよ。


 じゃないとさ。普通に逮捕だよね。

人工呼吸な訳じゃないんでしょ? あくまでもキスだと言い張る訳でしょ?

これはもう犯罪だよねぇ。


 私がそれやられたら完全にお縄に付かせちゃうよ。

まっ、情状酌量の余地はあるだろうけどさ。

一応、命救ってもらった訳だし?


 はい、次。


【問4 絵本が終わる最後の文章で繰り返される言葉は何?


 幸せに暮らしたのでした。○○○○○○○○。

の空欄に入る四文字を繰り返して書きなさい】


 いや、嘘でしょ。

ここに来てのどクソイージー問題っ?


 いや、別に間の二問も普通にイージーだけどさ。

え、ここに来て?


 こんなもん答えは一つじゃん。

【めでたしめでたし】だよ。


 なんなんだ。もはやちょっと煽ってきてるように見えてきたよ。

人をおちょくってるような問題だな。


 はいはい、次は――


【問題は以上です。めでたしめでたし】


 あ、もう終わりなの?

そっかぁ――――




 って、答え書いてあるウゥゥゥゥゥゥ⁉


 こわっ⁉ なにっ⁉

簡単過ぎて、もはや恐怖すら感じるんですけどっ⁉


 なんで最後に答え書いてんのっ⁉

絶対に入れなきゃいけなかったっ⁉ それっ⁉

別になくてもなんの問題もなかったと思うけどなぁっ⁉


 いやいや、なにこの試験……

え、他のみんなは何も思ってないのっ?


 ちょっ、カンニングに見えないレベルで顔上げよ。

まぁ、こんなもんカンニングするなんて恥ずかしいやついないだろうけど。


 あー…………なーるほど。


 めっちゃ、真剣にやってたァ………

なんならちょっと頭悩ませてる人いるんだけど。


 私の前の人なんて貧乏ゆすりが止まらないんだけど。

え、そうなの?

ここのレベルってこんな感じなの?


 じゃあ、ウルフィーってやっぱ特殊だったの?

まぁ、どう考えても普通ではないと思ってたけどさ。


 え、これ、もしかしてさ――

合格、余裕なんじゃない?




第二十二話 恐怖の筆記試験

~バグは時に攻略を容易にする~ END・・・

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