第十六話 三匹のこぶた?3

~バグは貴方のすぐ側に――~


「もしかしてこの後。お父様、出てくる?」


《え?》


 だって、オオカミじゃん?

ワンチャン、使いまわしなのかもしれないじゃん?

そうだったらちょっと面白いじゃん?


 ……そうでもないか。


《何言ってるんですかっ。

というか、やっぱりさっきの説明聞いてませんでしたね?》


 あ。さっきその話してたの?


《チュ、チュンッ……》

「ああ……俺、正直ビビったわ。

ていうか衝撃過ぎて、お前の流れ出る思考も聞こえなくなったわ」


 え、嘘。そんなに?

なに? そんなに凄いバグだったの?


え、ちょっ、怖いんですけど。


《いいですか? 家を壊しに来るのは――――


 そう、ウルフィーが言いかけた時だった。


ドスン。ドスンッ。


 突然の地響き。

それはゆっくりと、でも確実に大きくなっていった。


 さっきまでは全く、感じなかったのに。

突然、後ろの方にその足音は聞こえた。


 顔から冷や汗が出る。

嫌な予感しかしない。喉がゴクリと鳴る。


ドスンッ‼


 そして、遂にすぐ後ろまで来たソレの一歩に、

私たちの体は浮き上がった。


 私はゆっくりと、首を後ろに向けた。


 そこにいたのは――――




《あ、来ましたね。です》


「は…………はぁぁぁぁぁぁ⁉」


 なんでドラゴンっ⁉ どんな世界線⁉

こぶたなんて狙わないでしょ⁉

腹の足しにもならないよ⁉


《やっぱり実物も大きいですねぇ》


 いや。いやさ、ウルフィーさんよ。


 なんでそんな平常心なの? 知ってたとしても驚くでしょ。


 ドラゴンだよ? 東〇ドームよりも三倍くらい大きいドラゴンだよ?

しかもちゃんとおとぎ話っぽい緑色のポップドラゴンだよ?


 あ。

もしかしてドラゴンが出るのは日常茶飯事ですか。そうですか。


 …………帰りたい。


《桜さん、桜さん。ほら、見ててくださいよっ。

今からドラゴンが家を破壊するようですよっ》


 わくわく顔のウルフィー……

なんか腹立つな。そう思うのは、私だけですか?


《チュッ》

「んなことよりなんかヤバそうだぜ。

他の奴らを見てみろよ」


 あれ。

なんかみんな家から離れてない?


 もしかして。もしかしなくてもこれ、危険?

こんな家の近くで突っ立ってんの危険だよね?


 マジか、逃げよ。




 …………え、あれ。

体が動かないんですけど。


 ていうか、あれ。

なんかスウェットの裾、掴まれてんだけど。


 ワクワク顔を通り越して、ちょっとイッちゃってるくらい

目を爛々と光らせてるウルフィーに……


「いや、あの……」


《き、来ますっ――来ますよぉ――‼》


 え、来るってなにが——――


 あれ。なんかあのドラゴン。

口開けてない?


 あれかな。欠伸とか?


 違う?


 え。

もしかして? もしかしなくてもしもしかめよっ⁉


ファイヤーですかっ⁉ 破壊光線ですかっ⁉


 焼き尽くす気だっ‼ 私たちもろとも、焼き尽くす気だよっ⁉


「ちょっ、マジヤバいって‼

ウルフィー、逃げよっ⁉

それか、手を離せっ‼ 今すぐ離せっ‼」


《こ、こんなチャンス滅多にないですよっ……!

あのっ、あの名シーンが目の前でっ……!

あは、あはははっ、あはははははははっ……‼》


 狂ってるゥゥゥゥゥ⁉

狂っちゃってるよ、この二世っ⁉


「もう分かった! 分かったからっ!

だからその手をっ、その手を離せぇぇぇぇぇ‼」


 いや、力つよっ⁉ えっ⁉

どこにそんな力があんのっ⁉


全然、裾抜けないんですけどぉぉぉ⁉


《お、おい、あの二人っ……!》


《ああ……あんな近くにいたら巻き添え食うかもしれねェぞ》


《それでも逃げないなんてっ……すごい絵本マニアなのねっ》


《お、俺にはとても真似できねェよ。すげェ……》


 違いますゥゥゥゥゥ‼


 私は違いますぅぅぅぅ‼

こんなイカれた絵本バカと一緒にしないでぇぇぇええ‼


 やっぱ、この世界にまともなやつなんかいなかったっ‼

騙されたっ‼ 詐欺だっ‼


 でもよく考えたらオオカミの頭巾なんか被って外、歩くやつ

まともなわけなかったぁぁぁ‼


 引くほどネガティブなとこでちょっと思ってたけどねっ⁉

オッサンやナチュラルじじよりは全然、マシだと思ったんだよぉぉぉ‼


 でもこいつっ!

一番、質悪いタイプだったっ‼

だって私の命、奪おうとしてきてるもんんんっ‼


 てか、ちょっ、ホントっ。


「誰か、助けてぇぇぇええ‼」


《チュ……チュッ》

「じゃ、じゃあ、俺は行くから。

お前も頑張って逝けよ」


 そして悪ドリは、羽を広げて大空へ――


「行かすかァァァァァ‼」


《チュッ⁉》

「なにしやがるっ⁉

羽、掴むんじゃねェーっ‼」


 言ったじゃん⁉ 言ったじゃん⁉

【死にそうになった時、見代わりにしてくれるわ】って‼


 でも身代わりは無理そうだから――


「お前も道ずれだァァァァァ‼」


《チュチュチュッ⁉》

「ざけんなっ‼

お前はまだ人間だからいいけどなっ!

俺は鳥なんだよっ! 焼けたらいい匂いになっちまうだろうがっ!」


 そんときゃ、美味しくいただいてやるからっ!

大丈夫っ! 心配すんなっ!


《チュチュッ⁉》

「なにがどう大丈夫なんだよ⁉

安心できるかァッ‼」


「ちょっ! 行くな、悪ドリぃぃぃぃ‼」


 こんな絵本バカと無理心中とかいやだぁぁぁああ‼


 こんなエンディングいやだぁぁあああああぁ‼


 誰かっ! 助けてぇぇぇぇええええ‼‼




第十六話 三匹のこぶた?3

~バグは貴方のすぐ側に――~ END・・・

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