第十五話 三匹のこぶた?2

~バグは誰のせいでもないんだよ。大丈夫、落ち着こう~


 えっと、なんだろ。

多分、三匹のこぶたについてだよね。


 あー…………


「うんうん、聞いてた。

あれでしょ? レンガで作った小屋が正解なんでしょ?」


 楽をしたやつよりもコツコツ地道に努力してきたやつが報われる。

そういう教訓が詰まってるもんね。


《全っ然、違いますっ‼》


「……うっそぉ⁉」


 あんなに努力したのに? 報われなかったの?

なんて無情な絵本なんだ……


《正解は、この木の家ですっ》


 え、木の――

木のって、これ? これぇ?


「えぇっ? これっ? このおんぼろがっ?」


《桜さん……本当に物語を知らないんですね…………》


 いや、だってさっ⁉


 これが正解っ? 嘘だぁ……

こんなおんぼろ小屋、指一本触れるまでもなく崩壊するじゃん。

ていうかもうすでに崩壊しちゃってんじゃん。


《いいですか? 絵本では、藁の家もレンガの家も壊されてしまいます。

ですが、この木の家はどれだけ踏みつぶそうとしても

奇跡のバランスで壊すことができないのです!》


 き、奇跡のバランスぅ?


《そして、ここに塗ってあるペンキ。

なんとっ、耐熱塗料が使ってあるので火でも燃やせないんですっ!》


 た、耐熱塗料ぉ?


「そ、それはあれ?

木の小屋を作ったこぶたは全て計算ずくだったってこと?」


 別の教訓?

勉強してたらいいことあるよ! 的な?

色んなことに興味持つといつか役に立つよ! 的なっ?


《それが違うんですよっ!

なんとなんとっ! これ全て、偶然が生み出した産物なんですっ!》


「ぐっ――」


 偶然んんんっ⁉

 教訓、どこ行った⁉ 子どもへの道徳はどこ行った⁉


 偶然って! 人生、運任せで生きていきましょってかっ⁉


「い、いいのっ? それ、絵本としていいのっ?」


《いいに決まってるじゃないですかっ!

もうダメかもっ! って思ったら、凄い偶然っ!

私なんか、思わず声を上げちゃいましたよ!》


 え、いいんだ? これでいいんだ?

絶対、バグがなかった絵本の方がよかったと思うけど……


 ま、まぁ、皆様がいいならいいけど別に。


 どうでもさ。


「えー……

じゃあ、この木の小屋が正解でいいんだよね?」


 この小屋が学園への入口でいいと。

…………ホント?


《いえ、それが…………》


 ん? なに?


 って、よく見たら周りにいる皆々様も

ウルフィーと同じ曇り顔。曇天顔をしているじゃないか。


 どうしたどうした。

やっぱりこんなおんぼろ小屋が正解なのは腑に落ちないのか?


 激しく、同感だ――—―


《な、なんだこの木の家っ?》


《こんなにボロボロだったか?

こんなんじゃ奇跡のバランスはもう保ててねェだろ……》


 え。


《え、ていうかこれ……扉が外れちゃってない?》


 あれ。


《ホ、ホントだっ! じゃあ、やっぱり

この木の家はもう奇跡のバランスを失ってるんだ……》


《あの、奇跡のバランスが…………》


 …………。



《と、いう感じで、

どういう訳か、扉が壊れてたみたいなんですね》


 …………。


【「ぎゃあァァァァ‼ ジジイにされるゥゥゥゥ‼」


 こういう時は…………

全速力で逃げましょうゥゥゥ‼


反対側の扉を開けて。

いや、逃げましょうゥゥゥ‼】


 …………。


 ……………………。


 ………………………………。


 なんかごめんなさいぃぃぃぃぃぃ‼‼


 私のせいっ⁉ 私のせいだよねっ⁉

ど、どうしよっ⁉ どうしよ、悪ドリっ⁉


 …………


 どうして反応してくんないの、悪ドリィィィ⁉


《…………チュッ》

「…………あ、わりぃ。なんだって?」


 もういいよぉおっ‼


 こ、こうなったら…………


「な――なななななん、で、

ここここんなことなってんだろうねェェ⁉」


 全力で知らないフリ作戦だっ‼


《えぇ……もしかしたら学園側の意図かもしれませんね。

簡単に学園には辿り着かせてくれないのかもしれません》


「そ、それだっ! きっと、多分、いや百%それっ‼

それしかないっ! それに決定っ‼」


《は、はぁ……?》


 フーーーー……

なんとか誤魔化せたね。流石、私っ。

演技力が女優並みだねっ。


《チュチュン》

「何の話か知らねェけど、

お前が大根だってことは分かるわ」


 だ、大根だとぉ⁉


 ……いいじゃん、大根!

大根はどう調理してもらしいよ?


 私ってばどんな料理シチュエーションにでも対応できる

万能、野菜えんじゃってことだね‼


《……チュッ》

「間違えたわ。

お前はどうしたってしかない腐魚役者だわ」


 な、なにぃ⁉


 そ、それは……それはもうどうしようもない――――


 とでも言うと思ったか、悪ドリめっ!


 腐ったならさっさとご臨終して生まれ変わるまでよっ!

そうっ! 私は、ぶりに生まれ変わる‼


 そして鰤大根だいじょゆうにっ! 私はなるっ‼


《…………チュ》

「…………あ、そっ」


 勝ったっ。


 えー、さてさて。

心もようやく穏やかになったところで、話を整理しよう。


 私が、というか八割方ナチュラルじじのせいで?

おんぼろ小屋の扉を壊したから、この小屋は奇跡のバランスを失ったと。


 てことは?


 この家も壊されると?

あれ。っていうか、確か家壊すのって――




第十五話 三匹のこぶた?2

~バグは誰のせいでもないんだよ。大丈夫、落ち着こう~

END・・・

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