第二十九話 ダ女神のマニュアル2

~思い出はバグと共に蘇る~


《コホンッ。では改めて――

 えーっと、あ! 産まれたての小鳥さん?

おめでとうございます》


 あ、ありがとうございますー。


《うーん、でも残念っ。

僕が能力を授けられるのは人間だけなんですよ》


ブチッ。


《チュンッ!》

「誰が産まれたての小鳥だ、ババア!」


コココココココッ。


《い、いたたたたた!

え、な、なんでっ? いたっ!》


 おお。私以外にやってるの初めてみたよ。


 分かるよ。

さっきから人の逆鱗にガンガン触れて来てるもんねぇ。


 ……でもちょっと、ジェラるな。


《チュッ》

「なんでだよっ」


 お、戻って来た。


《え、えっと、実はこの人。まだ能力をもらってないみたいで》


《え、あ、そうなの?

じゃなくて、んんん――》


 あ、三回目。


《そうでしたか。それはお気の毒でしたね》


 今更、取り繕っても意味ないけどなっ。

既にお前は立派なダ女神だからなっ!


《ですが能力は通常、生まれてすぐにここへ来て授かるもの》


 ああ、産まれた直後っていったら、

ここじゃなく普通の病院でおぎゃーだったんで。


《まぁ、それができずに成長した方も少なくありません。

ですが、成長すると共に授与はむずかしいものとなります》


 へぇー。そうなの。

さっきからやたら流暢に喋ってるね。


 それでマニュアル本から目を離してれば

一人前だよ。


 しかもこいつ、さっきから棒読みなんだよ?

全然、お気の毒だと思ってないよ。人の心がないんだね。

あ、女神だから人じゃないのか。

 なら仕方ない。さっきの無礼は許してやらなくもないぞ。


《なので、貴方には生まれた赤子のような

清らかな心を持ってもらう必要があります》


《チュッ》

「無理だな」


《できます、か?》


「……なに? なにその反応はさ。

 私はどこまでも清らかだよ?

純度百%の清らかさだよ?」


《チュン》

「どこがだ。今までの自分思い返してみろよ」


《……すみません。

さっきのいじり方ではとてもそんなふうには……》


 ……………………。


「じゃ、じゃあどうすれば

清らかな心、手に入るの?」


《チュ》

「お、認めたな。

清らかどころかドブだもんな、お前の心」


 そ、そこまでは認めてないしっ!

せいぜい? 少量の砂が入った水くらいだしっ?


《清らかな心を手に入れるのは至極、簡単です》


「あ、そうなの?

…………まさか、生まれ変われなんて言わないよね?」


《んふっ、そんなこと言いませんよー》


 わ、笑いやがった。

人が真剣に質問したのにっ。


 まぁ、違うなら一安心だけど――


《心を清くするには、滝行をしてもらえば大丈夫ですよ。

そして何も口にせず一週間過ごせば見事、

清らかな心を獲得できるはずです》


「……………………」


《…………じゃ、じゃあ私はこれで――》


《チュ》

「終わったら戻るわ」


「待て待て待て待てっ⁉

置いてくとか酷くないっ⁉」


《いえ、ですが……

流石に一週間は、ねぇ?》


《チュッ》

「おう」


 いや、なに二人で意気投合してるのかな?


 おいおい、勘弁してくれよ。


「大体、実技は明日なんだから一週間とか無理だしっ。

もっと他にないのっ?」


 いや、そもそも時間あっても嫌だけどさ。


《えっ。でも……どうしよっ》


ペラペラ。


 あぁあ、焦ってマニュアルめくりまくってるよ。

てか、マニュアル通りの仕事しかできない

女神ってなに?


 こいつ、本当に女神なの?


「ねぇ、カジリー。

本当にこれって、女神なの?」


《こ、これって……

でも、正直私も驚きました。

まさかこんなに、その、生活感がある方だったとは……」


「生活感っていうか、

ただ単に怠惰な人の部屋って感じだけどね」


 酒缶は転がってるわ、つまみの袋はちらかってるわ。

ていうか、つまみもろくに作らないとか怠惰にもほどがあるな。


「……ああ、そっか」


《チュ?》

「どうしたよ?」


《どうかしたんですか?》


「いや、なんか既視感あると思ったらさ。

子供の頃に隣に住んでたじじもこんな部屋だったなって思って」


 あのじじも酒飲みでゴミ屋敷だったもんなぁ。


「私がつまみを餌にしてようやく、

部屋を片付けてくれたのが記憶にこびりついてるよ」


《…………つまみを、餌に》


 ……あ、てかいつもは悪ドリにしか言わないのに

カジリーにも話しちゃったじゃん。


 マズい、マズいぞ。

私の清廉潔白、聖女が如く神々しいイメージが

崩れてしまうっ!


《チュッ》

「前から思ってたけど、

お前のその自信はどっから来るんだよ》


 え…………

全身からフツフツと?


《あの。それ、いけるんじゃないですか?》


「え?」


 それって?

やっぱり私の心は清廉潔白、聖女が如く――


《チュン》

「それな訳ねェだろっ」


《つまり――――》


 お、耳元に口を寄せてきたよ。


 竹馬に乗ってるからなぁ。

ちょうど、私と同じくらいの身長になってるもんね。

まぁ、それでも私の方が高いけどね。


 って、そんなことより。なになに――


ゴニョゴニョリ。


 ほうほう。


「え、うそ。そんなんでいけんの?」


《いけると思いますっ》


 マジ?

まぁ、それでいけるなら万々歳だけど。


《あー、

じゃあ滝行の代わりにバンジージャンプでも可――》


 よしっ。


 このアホみたいなことしか言い出せないダ女神に、

一泡、吹かせてやろうではないかっ!


 …………ってか、本当になに言ってんだこいつ。




第二十九話 ダ女神のマニュアル2

~思い出はバグと共に蘇る~ END・・・

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