第二十八話 ダ女神のマニュアル1

~バグには真摯な対応を~


カァァァァァ。


 あぁあ。可哀想に。恥ずかしいね。恥ずかしいよね。

自分の最大にリラックスしてるとこ見られるの、すんごい恥ずかしいよね。

分かるよ。


《チュッ》

「にしては笑い堪えてんじゃねェかっ」


 いや、だってさ。

他人のそれ、さっきのドッキリなんかよりも何倍も面白いじゃん。


《チュンー》

「おいおい。ここにクズがいるよ。

誰か助けてくれー」


 失礼な。人間としての真っ当な感情だろうよ。


 ほら、カジリーも笑って――


「…………え」


《……………………ん、

なんですか、藍沢さん》


「い、いえ…………」


 え、今カジリーさん――

すっごい、無表情だったんですけど。


もしかして、こういうノリはお嫌いですかっ⁉

でも、便器からのバナナの皮でちょっと思ってたけど、カジリー

結構、ボケるの好きだよねっ⁉


 あ、あれか。

自分がボケじゃないと嫌なタイプか。

なーるほど。


《チュンッ》

「つーか、ここに来てからの出来事全部、

心底どうでもいいな」


 あれ、確かに。


あれ? 私、ここに何しに来たんだっけ?


       LOADING・・・




《コ、コホンッ――》


 さてさて、身だしなみを整えて

私たちの前に立ったダ女神。


 最初に一体、何を口にしてくれるのやら。


《あ、えっと、も、申し遅れました。

僕は、アリエル・アリエナイ。女神です》


 え、なんだって?


「あ、あり得る……あり得ない?」


《違います》


「なにが違うの」


 洗剤みたいな名前してさ。


《イントネーションです。

アリ⤴エル⤵・アリエナ⤴イです》


「……………………」


 ああ。じゃあなにか?

あり得る、あり得ない。のイントネーションではないと。


 どうでもいいわ。

バグ、ダー⤴ラァ⤵ケ学園くらい

面倒臭いイントネーションだわ。


 あ、知ってた?

バグダーラァケ学園ってそんなイントネーションなの。


 あ、どうでもいいって?

私もそう思う。


《ええっと、で……なんだっけ――》


 うわ。

なんか本取り出して見だしたよ。


 本のタイトルが

【これを読めば貴方も神女神! マニュアル本】

だってさ。


 …………え、新人なの?

新人のくせにあんな態度だったの?

職場だよね、ここ?


……クビだよ。二日後くらいにはクビになってるよ、このダ女神。


《あっ、はい。ええっと――》


 ん?

私と悪ドリを交互にジロジロ見てくるんだけど。


 あ、ぴったりな能力でも考えてくれてんの?

どうせなら便利なのがいいよねぇ……

あ、分身の術とかがいいな。そしたら代わりにエンドしてもらえる。


《チュッ》

「そしたら帰るのは分身の方な。

お前は一生、このバグ世界の住人だ」


 マ、マジですかっ?

ちょっ、そりゃないんじゃないスか、悪ドリさんよぉ。


《では、いきますね》


 お、なになに

もう能力授与してくれんの?


 うわぁー、なんか意外に楽しみかも。

一体、どんなの――


《貴方が落としたのは、この目つきの悪い鳥ですか?

それともこの桃色きゅるりん娘ですか?》


《え、え? 私っ?》


 ……………………


 誰が桃色きゅるりん娘だよっ⁉


《チュッ》

「まんまだろ。

それより、誰が目つきの悪い鳥だよ」


 そっちこそまんまじゃんっ!


 てか。

全然、能力授与と関係ないじゃん‼


 この女神あれだろ。

金の斧と銀の斧に出てくる系の女神だろ。


 まぁ、確かにあの女神も怠惰か。

なんか落としてくるのをただ待ってるだけだもんね。

落とさなきゃなにもしてくれないんだもんね。


 ……意外に元の絵本に一番忠実かもね、このダ女神。


《い、いえ、

私が落としたというより進んで入ってきたので……》


 いや、カジリー……

なに真剣に答えてるの?


《貴方は正直者ですね》


 ほら、話が進んじゃったよ。

でもどうすんの? 私と悪ドリ、カジリーにあげんの?


 それは人権の侵害だと思うけどなぁー……

いや、カジリーに養ってもらえば衣食住が解決…………

大歓迎じゃん。


《チュッ》

「アホか。俺ならまだしも

お前なんてもらっても毛ほども利益ないだろ。

それどころか大損だ」


 誰が、大損だよ。

私みたいな素晴らしー人間が側にいるなんて

カジリーは幸せ者だよ。


《ケッ》

「ケッ」


 出たなっ!

なんか久々な気がするけど、最近聞いたやつっ‼


《では――

えーっと…………》


 あ、こっちガン見してるよ。

仕方ないなぁー。別にカジリーに養ってもらうのはやぶさかじゃないし?

パッと差し出してもいいよ?


《…………なんかあったっけな》


ガサゴソ。


 え。

なんか、部屋の物置漁り出したんですけど。


 なにか?

私じゃ、カジリーに渡すには見合わないと?


《チュン》

「よくわかってんじゃねェか。

俺を渡さねェのは納得いかねェけど」


 いや、そっちは納得だけどさ。


《あ!》


 取り出したのは――――



スルメイカ。


 はっ? そりゃなに?

私はスルメイカよりもいらない存在だと?


 人権侵害なんて生ぬるいものじゃないじゃん。

戦争だよ。戦争。


《いや、でも…………》


 いやいや、なに悩んでんだよ。

別に欲しくもないだろうよ、カジリーも。


《あ、あのー。

実は私たち、能力を授かりにきまして》


《えっ! ――あ、そ、そうだよね〜。

そうだと思ってたよ〜》


 いや、もう割とどうでもいいんで。


 一発、殴らせてもらってもいいスか?




第二十八話 ダ女神のマニュアル1

~バグには真摯な対応を~ END・・・

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