第二十六話 独りは悲しいよ

~バグで片づけられないものもある~


《それにしても【理の泉】ですか……

歩いて行くと半日はかかりますね》


「えぇぇぇ……」


 いやちょっと、遠くない?

今日は朝から意外に歩いてるんだよ?

歩きっぱなしなんだよ?


 嫌なんですけど……


《……仕方ありませんね。

こっちに来てください》


 お。私の嫌だオーラが伝わったのか?


 なんだろ。馬車でも用意してくれんのかな。

私的にはカボチャよりもサツマイモの方がいいんだけどなぁ。


《チュッ》

「サツマイモなんて絵が映えねぇだろ。

カボチャで我慢しろよ」


 いやいや。

確かにサツマイモは紫の塊だよ?

でもね。あれは実は――――UFOだって説がある、とかないとか。


 だからさ。

カボチャより夢はあるんだよ。

私はただ単に、食べるならサツマイモの方がいいだけだけど。


 ってことでサツマイモでお願いね、カジリー。


《チュ》

「つーか、なに当然のように馬車に乗せてもらえると思ってんだよ。

そういうのは虐げられてからにしろ」


 虐げられてんじゃん。

主に、悪ドリに。


《チュン》

「俺は虐げてる訳じゃねェ。

本心を言ってるだけだ」


 …………え、ヤダ。

それもっと傷付くやつじゃん。


《着きましたよ》


 あ、着いたの? どこに……

え、その扉開けんの? え、そこって……


 ……………………


《ここから出れば、迷いの森2《ツー》の近くに出れます。

そこからなら数十分で辿り着けるはずです》


 あ、そうなんですか。

迷いの森ね。なんか3《スリー》まであるの多くねって思ったりもしたけどさ、

そんなことより――


「なんで、こっから? え、他の出口なかったの?」


 なんで、便なの?


《出入り口になるようなものは、

学園の外にあまり置かれていないですからね》


 いや、じゃあ置こうよ。

そのためだけに置こうよ。


「え、普通にトイレしたらどうすんの?

ゴールデンウォーターは?」


《まぁ、森の中ですし、水やりになりますよ》


「じゃあ、ブラウンエッグは?」


《それこそ、肥料になりますね》


 ああ。ならいっか――


 なんてなるかァァァァァァああ‼


 第一、紙も入れるじゃん⁉

紙はどう考えても環境に害があると思うけど⁉


 てかそれ以外も普通に無理でしょ⁉

なに、水やりって⁉ 木だって生きてるんだぜ⁉

可哀想だろうが‼


《まぁ、今のは冗談です。ここのトイレは職員用ですから、

間違って使う人はまずいませんよ》


「あ、そなの……」


 いや、最初からそう言ってくれよ。

冗談が過ぎるわ。


《例外は無きにしも非ずですが》


 え。


《それじゃあ行きましょうか》


 いや、え?

例外? 例外なんてあるの?


 やっぱここで用を足した人いるの?

じゃあなにか?

私たちは今から、一回でも誰かが使用した便器に足を突っ込むと?


 …………おえェ。


《お先に失礼しますね》


「あ、どぞ……」


 アンタはいいよな。

竹馬突っ込むだけでいいからさ。


ヒュゥゥゥゥゥ…………


 はい、吸い込まれるように消えていったカジリー。

さよーならー。


「……にしても、

まさかトイレの便器に足を突っ込む日が来るとはね」


 感慨深いよ。


《チュン》

「これで遂にお前も名実ともにクソになんだな」


 ああ、そうだね……

いや、どういう意味っ⁉


 確かに私が成り代わったやつは

クソインだけどさっ⁉


 私はクソじゃないからっ⁉


《チュンッ》

「いいからさっさと行けよ。

時間ねェんだから」


 ぐぅ……

酷く納得いかないが仕方ない。


 では、失礼して――


ヒュゥゥゥゥゥ…………




ジャーー。


 あ⁉ なんか今、水の音しなかった⁉

今さっ! 私、アレの扱い受けたでしょ⁉


 なんで⁉ カジリーの時は鳴んなかったのにっ‼

屈辱なんですけどっ⁉


 クソォォォォォ…………‼


        LOADING・・・




 はいはい。あそこから落ちて辿り着いたのは

本当に森でしたぁ。


 そして私は今、カジリーと共に森の中を彷徨っています。


 あの便器っ……次会ったらボコボコにしてやるっ……

大洪水を起こしてやるぜっ……


 で。


 会話がないのもあれなんで

レッツ、異文化交流といこうか!


「カジリーはさー」


ピタ。


《…………》


 あれ。どしたのいきなり立ち止まって。

ていうかこっち振り向いた顔がめちゃくちゃ嫌そうなんだけど。

口がへの字を越えてレの字にっ……なってもないか。


《なんですか、カジリーって》


「渾名だよ。可愛くない?」


《…………すみません、全く》


「うそっ?」


 もしかして、センスないの?

カジリーって。


《チュッ》

「お前がな」


 まっ、いいや。

嫌よ嫌よも好きの内って言うもんね。


《チュン》

「この場合は百パー、当てはまってねェけどな」


「で、カジリーもやっぱ絵本に出たいの?」


《…………当たり前です。

この国に生きていてそう思わない人はいません》


 あれま。

前に向き直っちゃったよ。

そんなにやだったの? ちょっと傷付くんですけど。


《もしそう思わない人がいたら、病院を紹介されますよ。

薬系の》


 あ、じゃあ、お願いします――――

って、なるかァっ⁉


 薬物やってると思われるの⁉

嘘っ⁉ 私は至って正常ですっ‼


《チュン》

「おかしなやつは皆、そう言うぞ」


 まぁ、確かに……


 え、嘘っ。

もしかして私がおかしいの?

ここの人たちじゃなくて私がバグってんの?


 え、なんか疎外感がっ……

私、独りぼっちだったの……?


《あ、そろそろ着きますよ》


 あ、はい。


 まっ、別にいいけどね。

この世界の私以外の全員、バグっちゃって

本当のことなんて知らないもんね。


 知ってるのは、私だけ。だもんね。


《チュッ》

「俺も知ってるけどな」


 あ、忘れてた。

あーあ、せっかく優越感に浸ってたのにぃ。


《チュン》

「なら俺はお前のサポートキャラから下りて

有給休暇でも取るか」


 やめてください。

一人にしないでください。


 こんなとこで一人とか……

狂っちまいますぜっ⁉


《チュッ》

「とっくにトチ狂ってんだろお前は」


 え、嘘っ。




第二十六話 独りは悲しいよ

~バグで片づけられないものもある~ END・・・

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