第十三話 二世の悩み

~昔の正義は、今のバグ……なのかもしれない~


 いやぁー、ホントラッキーだったなぁ。


 まさか、あかずきん二世が私と同じタイミングでバグダーラァケ学園を受験するなんてねぇ。


 まぁ、なんであかずきんが結婚してて子どもまでいんのかってとこだけど

それは一旦、いや一生、置いておこう。


《へぇー。じゃあ、そのおじいさんに受験票をもらって試験を?》


「そうなんだよ。怖いったらないよねぇ」


 それはそうと、

今はウルフィーに付いて行きながら

受験票をもらったいきさつを話しています。


 なんと、ウルフィーが言うには

受験票と一緒にバグダーラァケ学園の行き方の地図が同封されていたとか。


 だが、あの生きてるか死んでるか分からない

ナチュラルじじはそんな肝心なもんを渡さずに消えたのだ。


 これは、地獄行き確定だろう。


《チュッ》

「死んでねぇ可能性もあんだろ……五%くらい」


 いや、まぁ…………

あっても、二%じゃない?


《でも、ちょっと羨ましいです。

まるで本当に絵本の中のお話みたいでっ》


 あらま見事な、キラキラ目。


 でもそれを言うならさ…………


「絵本っていうか、

ロウソク一本立てて語るお話だよね」


 やっぱり、ウルフィーもこの世界の住人なんだな。

人の不幸は蜜の味ってやつだな。そうなんだな。

そうなんだろっ‼


《チュチュンッ!》

「情緒、怖ェよ!

雪崩みてェにお前の思考が流れ込んでくる俺の身にもなれっ。

 つーかそもそも、んなの本人に言え」


 それはさぁ……

私にもキャラってもんがあるじゃん?


《チュンッ》

「どんなキャラだよ」


 そりゃあ、清廉潔白で虫も殺せないような純粋無垢な――


《ケッ》

「ケッ」


 えぇっ⁉ なにそのいきなりの態度はっ⁉

鳴き声と言ってること一緒じゃん⁉

唾、吐いてんじゃん⁉


《あ、あの? どうかしましたか、桜さん?》


「あ、いやいや。なんでもないよっ」


 やべっ。悪ドリなんかに気を取られてたから。

悪ドリなんかに。


 で、だよ。

さっきのウルフィーの言葉、聞いたかい? 桜って言ってただろ?


 なんと、

ナチュラルじじの話の前に自己紹介は済ませていたのだよ。


 仕事が早いだろ? 凄いだろ?

なんせ私、できる女だからな。


《ケッ》

「ケッ」


 またそれっ⁉


 全く、もういいよ。

それより、この異文化交流を楽しもうじゃないかっ!


 …………あれ? なんの話してったっけ?


 あ、そうそう。絵本みたいな話だねぇ的なやつだ。


「絵本の話っていうなら、ウルフィーの方がよっぽど夢あるじゃん。

 絵本の中に人たちが結婚して、その子ども。

もしウルフィーの絵本が発売したらすっごい売れるんじゃない?」


 いやホント。

私にその絵本、プロデュースさせてほしいくらいだよ。


 この世界なら全人類に需要があるし、印税がっぽがっぽ間違いなしっ!


《チュッ》

「とことんゲスいやつだな」


 なんとでも言うがいい。ハハハハハッ。




 あれ?

なんか、ウルフィーから反応がなくない?


 ていうか、なんか様子おかしくない?


ズゥーーーン。


「えぇぇ……どしたの、そんな落ち込んで」


《桜さん……実はですね…………

二世ってちょっと、いや物凄く不利なんですよ……」


「おぉ……そういうもんなの?」


 確かに、親と比べられたりするって聞くけど。

…………でも、あかずきんと比べられるってなに?


 もう頭巾は被れないみたいな?

いやでも、オオカミ頭巾ならもしかしたら赤頭巾よりキャラ濃いんじゃない?


《ですがっ。私、頑張りたいんです。

両親に負けない有名な絵本に出て見せますっ!

なんて》


 おー、健気。


 これはヒロイン向きの思考回路だね。

大丈夫だよ。それだけの気概があれば何でもできるよ。


 多分。


《でも、やっぱ私なんかじゃ無理ですよね…………

大体、私は両親のように目立った個性はないですし……》


「いや、そんなこと――」


 オオカミ頭巾は結構、目立ってますよ?


《いいところ、絵本に出れても

一言喋るか、後姿ちょっと映るくらいかもですし…………》


「いや――」


 ていうか、絵本には出れると思ってんだ。

その図々しさがあればやってける――


《そもそも私なんかが絵本に出たいと思う方がおこがましいのかも……」


「…………」


 いや、めちゃくちゃネガティブじゃん。


 どうした。

さっきまでのお上品はどこへいった。


 ていうか、なんでいきなり歩み止めてしゃがんでんの?

ブルーどころかブラックに染まっちゃってんだけど。

ハートがブラックでハートブレイクなんだけど。


《チュン》

「なに言ってんだ、お前」


《私なんか……私なんか…………》


 いや。

どうするよ、これ。


《チュッ》

「どうするも慰めるしかねェだろ。

こいつがいなきゃ、学園にゃいけねェんだからよ」


 えぇー……

 慰めるったって、どうやって……


 罵倒したり貶したりするのは嗜む程度に得意だけど

慰めるのはルーキー中のルーキーなんですけど。


《チュン》

「んなの適当にやりゃいいだろ。

ほら」


 …………いや、悪ドリ。

羽で背中叩いたところで何になるんだ――


《こ、小鳥さんっ……!

慰めてくれるんですかっ? ありがとうございますぅぅ!》


 え、これでいいの?

それなら私にもできるっ!


 えーっと、肩を叩いて。

後は…………あ、そうだ。


「元気だよっねーっ!

元気があればなんでもできるよっねーっ‼」


《え》


「え?」


《チュ……》

「お前……それはないわ」


 え。

だってこれ。

これさえ叫べばみんな元気になるって私のじじが言ってたよ?

じじが言うことは全部、正しいんだよ?

神なんだよ?


《え、ええっと……

じゃあ、バグダーラァケ学園に急ぎましょうかっ》


 え、なに。


 なにこの気持ち……

なんで私、頑張って慰めたのにこんな気持ちにならないといけないの?


 ねぇ。



 なんか言ってよっ⁉




第十三話 二世の悩み

~昔の正義は、今のバグ……なのかもしれない~ END・・・

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