第十二話 サラブレッド、現る

~バグって、そんなところに⁉

ってところに出現することもあるよね~


「いや、ちょっ、

えェェェェェェェェ…………」


《――えっ?》


 あ、こっち振り向いた。


 赤い羽織を身に着けて…………



オオカミの被り物をした少女が。


 いやぁー、びっくりしたねぇ。

まさか町中でバイオレンスな事件が起きてるかと思ったよ。

リアルで見たらシリアス通り越してR18事件簿になるとこだったよ。


《チュッ》

「紛らわしい言い方してんじゃねェよ」


 いや、別に間違ってないじゃん?


 だって被ってるオオカミのやつ口開いてるし。

その中に顔が入ってるみたいなデザインしてるし。


 ほら、喰べられてるも同義じゃん?


《えっと、なにか?》


「あ、はいはい。えーと……」


 やべ。

思わず反応しちゃっただけで何言おうか考えてなかったや。

 どうしよ。


《チュン》

「どうするも何も聞くことといや、二つだろ」


 二つ?

ああ、そっか。


「もしかして、【あかずきん】さんですか?」


《チュッ⁉》

「そっちかよっ⁉」


《え、えっと、違います……》


 あれー? 違った。


《チュッ》

「そりゃそうだろ。

本物ならなんでオオカミの被り物なんてしてんだ――」


《赤須 琴(あかず きん)は私の母です》


「…………」


「…………」


《チュチュンーーっ⁉》

「「母ァァァァァ⁉」」


 母なのっ⁉

お母様なのっ⁉ どういうことっ⁉


《チュッ⁉》

「嘘だろっ⁉

しかもなんだ、その取ってつけたような名前はっ⁉」


「お、お母様が、あかずきん……さん?

え、それ…………お父様は?」


《オオカミです。大神 喰(おおかみ くう)》


「お……オオカミィィィィィィ⁉」


 え、なに⁉ なにっ⁉

あかずきんはオオカミと結婚したのっ⁉


 なんでっ⁉


 自分のこと喰べっちゃった相手だよっ⁉

もっと言うなら自分のおばあちゃんまで喰べちゃったんだよっ⁉

どうせ結婚するなら助けてくれた狩人じゃないっ⁉


 …………あ、別の意味でタ――――


 い、いや、そんなことよりっ。


「じゃ、じゃあ貴方は…………オオカミずきんとか?」


《えっ? ふふふっ、いいえ。

私は、ウルフィーといいます》


 あらま、お上品。

この世界に来てから一番、まともな人に会った気がするよ。


 にしてもあの、あかずきんがオオカミと――

絵本を知ってる私からしたらびっくり仰天だよ。


《みなさん、驚かれるんですよ。

あかずきんとオオカミは絵本の中じゃ殺伐としていますからね》


 そうそう。

なんせ丸のみされてする間柄だからね――って。


「え、なんで知ってんの?」


《なんでって――両親のですから。娘の私が知らないはずないですよ》


 …………え?


「だ、代表作って――」


《両親の出ている絵本のことですよ?

てっきり、貴方も知っているのかとばかり……》


 え、絵本…………?


 え、でも、絵本って作り話じゃ……


《チュッ》

「バカッ。

前にオッサンに教えてもらっただろ?

この世界じゃ、絵本に出てくるのはここで生きる人間だ」


 あ、あれ、ホントだったんだ……


 じゃ、じゃあ、この子の両親は本当の?


《チュン》

「ああ。あかずきんとオオカミってことだろ」


 …………ま、マジかっ。


「え、じゃあ……お、オオカミ、さんは…………

やっぱり、狼なの?」


 人と獣の禁断の恋的な?


《ああ。あれは比喩表現ですよ。

父は普通の人間です。ちょっとオオカミが好き過ぎるだけで……》


 えぇっ……! そうなんだ…………

聞いた? 悪ドリ。オオカミは比喩だったんだってっ。


《チュン》

「んな興奮することでもねェだろ」


「あ、じゃあ、

お母様の名前ってホントにあかずきんだったんだ」


《あー……いえ。

母は絵本を誇りに思っていたので後々、改名しまして――》


 お、おぉ?

さっきからなんとなく、あかずきんもオオカミもバグ臭がするな。


《あ、すみません……

実はこれからバグダーラァケ学園で試験がありまして、このくらいで失礼させていただいてもよろしいでしょうか?》


 あ、ですよねー。

そりゃあ両親がハリウッドスター並みなんだもんね。そりゃあ行くよね。バグダーラァケ学園に――—―


 え、バグダーラァケ学園??


 行くの? 今から? 試験受けに?


《それじゃあ、失礼します――》


「私もですゥゥゥ‼」


 私も行くんでした! バグダーラァケ学園‼


 いやぁ、あかずきんの衝撃ですっかり忘れてましたよぉ。


《そ、そうなんですかっ? それは奇遇ですね》


「だけど、行き方がわかんないんですよねェ……」


 チラ。


 チラチラッ。


《チュッ》

「うざっ。過去一でウザいわ」


 失礼な。

確かにウザかったかもしれないが、これが最後のチャンスだ。

どっかの誰かが言ってたよ。

【人生、時にはウザくならざるを得ないものだ】って。


《チュン》

「どこぞのバグ野郎の格言だよっ」


《ええっと……

よかったらご一緒いたしましょうか?》


「いいのっ⁉」


《はい。私も緊張していたので、

声を掛けていただけて嬉しかったです》


 わぁお。天使じゃん。


 この世界に来てこんないい人は…………

あ。スネカさんもいたか。


 まっ――初めてだよっ‼


《チュッ》

「適当なやつ」


 いやぁー、それほどでも。


《チュン?》

「褒めてねェよ、なんて言わねェからな?」


 えぇー、そこはツッコんでくれよ。

サポートキャラじゃないか。


『チュンチュンッ!』

《なんでお前のボケのサポートまでしなきゃいけないんだよっ!

他、あたれっ!》


 はいはい。

さっさとツッコミのできる攻略対象を探しますよ。


 あ。

にしても、ホントびっくりしたよねー。


 だって、あかずきんってさ。




 元のゲームじゃ、だったもんね。




第十二話 サラブレッド、現る

~バグって、そんなところに⁉

ってところに出現することもあるよね~ END・・・

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