第四話 神、降臨

~悪い事をしたらバグになって返ってくる。

それが絵本の鉄則~


 今までのあらすじ


キュルルッキュッキュッキュー‼


【明日に煌めけ! 夢にときめけ!

 今日も貴方にバグはーと注入だぞ♡

 バグバグメモリー♡】


 私の名前は、姫神 愛!

 今日は入学式なんだけど、楽しみ過ぎてうっかり寝坊っ。

私ってば、本当におっちょこちょいなんだから!

 てへっ♡




 てへっ💀

じゃないんだけど⁉ なに今の⁉

走馬灯⁉ 幻覚幻聴⁉

やだっ、病院行かなきゃ⁉

《チュン》

「その前にお前のてへ顔で気分悪くなったわ。

 俺を病院に連れてけ」

 一人で行って来い。そして地獄に逝って来い。二度と戻ってくるなっ。

《チュ》

「そんなことより」

 そんなことっ⁉

私のてへ顔はそんなことで片づけていい代物じゃないぞ‼

丁重に扱えっ! 私のてへ顔を‼

《…………》

「なに言ってんだ?」

「…………」

 なに言ってんだろ。

そして遂に鳴きもしなくなったな。

 …………いいの?

ていうかそんなこと可能なの?

《チュ》

「そんなことより」

 あぁ、うん。そんなことより。


 今までのあらすじ


バグったゲームの世界に来て、

現在絶賛ホームレス中。

お腹が減った。もうダメだ…………

その時。

神、降臨⁉


        LOADING・・・




《そんなに腹減ってるなら、そこらの木に生ってるもん食べたらどうッスか?》


 こ、これが――神の教示かっ‼


 なんか張り付けたような笑みな気もするけど、それさえも神々しく見えるっ‼


「いいんですかっ⁉」


《当たり前じゃないッスか。

自生してる普通のりんごなんスから》


 そんなっ、そんなことがっ!

現代じゃ、町中に生ってる果実なんて採ったら窃盗罪にあたるのにっ⁉


 ファンタジーだ。


《ほら。あそこの実なんておすすめッスよ?》


 おぉ。

太陽に反射して煌めく艶。

芳醇な香りは脳の奥の方を麻薬のように刺激し、食べたら一瞬で夢の国、いや黄泉の国に逝ってしまいそうな毒々しい紫色…………


 って、見るからに

【俺に触れたら火傷を通り越して焼死するぜ♪】的な毒りんごじゃんっ⁉


「え、あの…………」


《はははっ、ジョークッスよ。

そんな雨に濡れて臭いレベルが5になった生ゴミを見るような目で見ないでくださいよ》


 …………いや、どんな目⁉

逆に、私の目はそんな目に見えるほど濁った生ゴミみたいな目をしてましたか⁉


 まぁ、でも…………


神様から見れば、下々の民なんてみんなドブみたいなもんだもんね‼


《あれは食べたら即、あの世の

【ヨミニゴールド】っていう毒りんごなんで

危ないってこと教えようと思って》


 教えようと思って、ね。


 おすすめだと、毒りんごを指差す、ね。


 私が毒りんごだって思わなかったならどうしてたんだろ、ね。


 まぁ、でも…………


 神様の言ってることは万物、正しいもん! ね‼


「なーんだぁ! そうだったんですかぁ!

いやぁー、びっくりしたなぁー。もーっ!」


《まぁ、ヒロイン様なら別ッスけどね》


 あぁー、確かに!

普通の人なら即、デッドだろうけどヒロインなら

眠る程度で済みそうな色してますもんね‼


《じゃあ、俺はこの辺で》


「あ、はいっ! ありがとうございましたっ!」


 神様は忙しいもんね‼


 さぁ、みなさん。


 紳士の如く、優雅に頭を下げて去って行く神様に敬意を表して合掌しましょう。




 …………って、あれ?


【まぁ、ヒロイン様なら別ッスけどね】


 なんでがそんなこと知ってるんだ?




 あ、神様だからかっ‼


        LOADING・・・




 さてさて。


 神様から教えていただいたりんごをむしり取り、ほくほく顔で歩いている私ですが、ふと思いました。


「あれ? 悪ドリ、なんか喋ってなくない?」


《……チュ》

「いや、あまりに典型的な信者精神に

ドンッッッッ引きしてただけだ」


 ドン引きって…………

どこに引く要素があったの?


《チュン》

「全部だわ。さっきの一連の会話、どう考えてもあいつ怪しいだろ」


 あいつってっ……

悪ドリっ、知らないの?


 【神に背く者すべからず北京ダック】だよ?


《チュンッ⁉》

「明らかに今、お前が作っただろっ⁉

俺にしか該当してねェじゃねェか‼」


 当たり前だよ。

だって信者は私と悪ドリの二人だけじゃん。


 さぁ、行こうか。

神の存在を広める布教活動へ。


「アハハ! アハハハハハハ‼」


《チュン?》

「なんだ? あの毒りんご、嗅ぐと催眠効果でもあんのか?」


        LOADING・・・




 空がすっかり青春色に染まった頃。

さっきまでの【何を捨ててでも悪ドリを北京ダックにしてやる!】みたいな思考が、

【まぁ、タンドリーチキンにするくらいでいいか】というくらいクリアになってきたところで、例の標高ポストmの山の近くに戻って来ました。


《チュン》

「国が変わっただけじゃねェか」


 茂みからチラーっと覗くと、そこには私が出て行った時と同じ位置で、あのオッサンが倒れていた。心なしか前よりも干からびている。


《……チュン》

「夕日浴びたオッサン。哀愁、半端ねェな」


「だね」


 ありゃ、オッサンにしか出せない味だよ。

色々あったんだろうね、哀しいよ。


《チュチュン?》

「んな事より、どうすんだ? あの、オッサン。

このままほっといたら数日も経たずに、動かなくなっちまうぞ?」


「うん。まぁ、見ててよ」


 私は、確かに一度オッサンを裏切った。

情けないと、こんなにはなりたくないと思った。


 けど、私も同じだった。

いや、同じって事はないけど……まぁ。

 神様に会って、自分の心の狭さっていうか、薄汚さを感じた。そして情けなさを感じる度に、オッサンを思い出した。


 私は、心の底ではオッサンを見捨てる事をためらっていたのかもしれない。

でも、自分が危機にいたからオッサンを見捨てる選択を取った。

 最低だ。けど、仕方ないと割り切った。


 でも、神様に、絵本に教えられた。

情けない私に、温かさをくれた。

それで、目が覚めちゃった訳ですよ。


 だからさ、私がもらった温かさ。それを誰かに分けるのもまた、絵本の鉄則でしょう?


 と、いう訳なので?




 私の物語を始めようか。


「ただいま、オッサン」


第四話 神、降臨

~悪い事をしたらバグになって返ってくる。

それが絵本の鉄則~ END・・・

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