第二話 妙ちくりんな世界2

~どこもかしこもバグまみれ~


 これは一体、どういう事だ。


《最新作だよーっ!》

《今、買わなきゃ末代まで損しちまうぞーっ‼》

《一冊くれっ!》

《私は三冊っ‼》

《親戚中に配らねェとだから十、いや二十――とにかくたくさんっ‼》


 絵本の中に入ったかのようなファンタジーな街並みを想像していたというのに、目の前に広がっているのは絵本そのものをこれでもかとごり推しする絵本屋の列。

そしてそれを買おうと押しかけている大勢の大人たち。


 その光景を立ち尽くして眺める私と、浮き尽して眺めるちび悪魔。


「どうなってんの?」


「……どうなってんだ?」


 いや、こっちが聞きたい。

なんでちび悪魔まで驚いてるんだよ。


 ここのキャラだよね。サポートキャラだよね。

サポートなんだからこの世界の全てを理解してようよ。


「そりゃ、いつもの世界なら熟知してるぜ?

ただ、ここは誰かさんのせいでバグっちまった世界だ。そんな世界、俺の知ったこっちゃねェよ」


 ……すいませんでした。


「てか、本当にここゲームの世界なの?

もしかしたら、トリップにも失敗してるとかない?」


「あー……どうだろうな……」


 その線もあるのか、

変なパッドを弄るちび悪魔。


 てか、その線あるんだ。

とんだ、お間抜けサポートキャラだな。


「……は?」


 パッドを弄っていたちび悪魔が動きを止めて、パッドに釘付けだ。


 まさかまさかの、

本当にトリップしてなかった的な?

なんだよー。驚いて損したなー。


「ちげェ……んな簡単な話じゃねェ」


「え?」


「おいおい……

バグにしては、やり過ぎじゃねェか……」


「え、なに、どしたの?」


 顔が引き攣ってるちび悪魔。そんなにおかしい事が起きているのか。

私の問いに全く答えないちび悪魔に近寄り、パッドを覗き込む。


 するとそこには、このゲームのタイトルらしき表記が映っていた。


「【バグダーラァケ学園

~君も今すぐ主役バグになろう!~】

…………は?」


 なにそれ?

それが、このゲームのタイトル?


 …………全っっっ然、違うじゃん⁉


 なに?

来る世界、間違えたの?

恋愛ゲームじゃなくて、バグゲームにでも来ちゃったの?

……バグゲームってなに??


「い、いや……間違えてねェ……

ここは正真正銘、キミ本の世界だ」


「じゃあなんで、こんな訳分からんゲームのタイトルになってるのっ⁉」


「そりゃ……

タイトル通り、バグったからだろ……」


「…………

なんじゃそりゃあァァァァ⁉」


        LOADING・・・




 えー、てことはなに?

私がちょーっとイラついちゃって?

怒っちゃって? 噴火しちゃって?


 ちょーっと、ゲーム機を床に。

ちょーっとだけ、ぶん投げちゃったが故に?

ちょーっとのバグどころか?

バグにバグを重ねたバグだらけのバグゲーに成り下がっちゃった、みたいな?


「そういう事だな」


 なんてこったい。


 どんだけ当たり所、悪かったんだ。

ちょーっとぶん投げただけじゃんか。


 投げる力より、叫ぶ方が重要だったよ?

物凄く叫んだけど、ぶん投げる力はそこまでだったよ?


「ぶん投げる事態、あり得ねェよ」


 ……ちなみに。

新しいゲーム機とカセットに変えるなんて事はできたり?


「できねェよ」


 じゃ、じゃあサポートキャラ権限として強制リタイアはできたり?


「できると思うか?」


「…………いやぁー! それなら仕方ないっ‼ 仕方ないよー、うんうん! と、取り敢えずさっさとエンディング目指しちゃお!」


「その事だけどな……ここがどのくらいバグってんだか分からねェ以上、攻略キャラが存在すんのか事態、定かじゃねェんだよ」


「えー……」


 ん? それはおかしくない?

 攻略キャラのプロフィールとか好感度は、サポートキャラのパッドに表示されてたじゃん。


「それが、さっきから何度もアクセスしてんだが繋がんねェんだよ。

これもバグの影響だろうな」


 バグ、許すまじ。


 それじゃあ、攻略キャラが存在するのかも分からず、こんな妙ちくりんな世界でエンディングを迎えろって? 無理ゲーか。


「それだけじゃねェ。ヒロインはここに来てすぐ攻略キャラに保護される。

それがバグでなくなったとすりゃ……お前、これからまともに生きてけんのか?」


「…………げぇ」


 盲点だ。


 衣食住、そして金。

なんにも一切、持ってない。こりゃ恋愛どころの話じゃない。命懸けのサバイバルだ。


「おうおう。顔、真っ青だな」


「死ぬ……これ、死ぬ……」


「…………ハァー。仕方ねェなァ……ほらよ」


「なんだよ。慰めならいらな、ぃ……え、やきいも?」


 どっから出したんだ、ちび悪魔。

○○えもんなのか? デビえもんなのか?


「あんな丸いのと一緒にすんな。

これはアイテム機能だ。攻略キャラの好物を買える機能。最悪これさえあげときゃ、付き合える」


「なん、だとっ⁉ そんな楽な機能が……

あるって知ってたら、あんな苦労しなかったのにっ……⁉」


 信者め……あえて教えなかったなっ。

意地悪く笑ってるのが目に浮かぶぜ……


 いいだろう。帰ったらぶん殴ってやる。

頭ん中、バグらせてやる。


「フフ……フハハハハハッ‼」


「いも皮ごとがっつきながら笑ってるお前は

もうとっくに頭ん中、バグってんな」


 いやぁ、美味しいなー。


 ぶっ通しでクソゲーやらされてたから、

ストレスと同時に空腹にも襲われていた私の体に沁みるよ。あの野郎、白湯しか用意してやがらなかったからな。

 白湯だよ? せめて、せんべいも付けろっ! せんべいも!


「……言っとくが、これは初回サービスだからな」


「ええェェェェェ……」


 ヒドい……そんなの廃止にすればいいのに。

緊急事態だからいいじゃないかっ。


「ダメだ」


 ケチ。

身長だけじゃなく器まで小さい奴め。


「あ゛? なんか言ったか?」


「イ、イエ……ナニモ」


 こわっ⁉ こっわいわっ‼

流石、悪魔の笑みは天下一品ですね⁉

悪魔だけにっ⁉


「たくっ……

次、頼みたきゃ【❤】で支払えよ」


「え、なにその不吉な記号は」


 聞くだけで悪寒が…………


「お前、ホントに恋愛する気あんのか……

 ❤ってのは好感度が上がるごとに増えていく好感度ゲージみたいなもんだろ」


 あー、あったねそんなの。


 好感度ゲージってのは、選択肢とか貢物で変化する。全部で十個あって、それが貯まると告白できる。そしてハッピーエンド。


「それだ。もっと細かく言えば❤が一つ貯まると十%、攻略成功を意味する。

 そして、❤が完全体じゃない時は十%ではないが少し上がったって事だ」


「なるほど。その❤が貯まれば、アイテムと交換できる仕様だと?」


「そういう事だ。

ちなみに俺がいま出したやきいもは、❤一つ分で交換できるやつな」


 はー、そうですか。そういえばプロフィールに好物が記載されてた割には、そういう描写が少ないと思ってた。


 それにしても、やきいもって……

確か、隠しキャラの好物だよね。

❤一つで手に入れられるなんて安上がりな隠しキャラだな。


「まっ、あのキャラは会えるかどうかランダムだからな。会えれば攻略できたも同じのキャラってこった」


 そうだった……あのキャラ。

最後まで手こずらせやがった奴だ。

出て来ない度にリセットさせられるプレイヤーの気持ちを考えてないよ、あれは。


「さて、食うもんも食ったし。

そろそろ探索でもしたらどうだ?

いつまでもここにいちゃ、野宿確定だぜ?」


「……だね」


        LOADING・・・




 という訳で、探索を開始した私。


 ちび悪魔は黒い小鳥に化して、私の肩に乗っている。


「…………ん?」


 あれ? おかしくね?

ちび悪魔って変幻なんかできるの? 忍者かなんかだったの?


《チュンチュン》

「そういう訳じゃねェけど、

小鳥にもなれる仕様だ。キャラ設定だ。

ほら、ヒロインがピンチになると小鳥が攻略キャラを導いてくれるだろ?

それ、俺だ」


 あー、やけに都合よく小鳥いるなと思ってたけど、ちび悪魔だったのか。


《チュンチュン》

「あん時はエン・ジェルだったから白の小鳥だけどな。ここじゃ、ゲームみたいにメニューが開けないから俺も姿、現してる必要がある。

それで都合いいのがこの姿なんだぜ?」


 確かに。ちび悪魔のままじゃ、絵本の物語に影響出るよね。

妖精的なもんとか、中々出て来ないから出て来た時、盛り上がるんだよ。

知らないけど。


 …………にしても、鳴き声の割に喋るね。


《……チュン?》


 えー、そんな感じでちび悪魔改め、悪ドリと頭の中で話しながら【この世界】を見て回った。

 そして結論から言うと……訳分からん。


 確かに絵本っぽい雰囲気醸し出してるよ?

 全体的に色が淡いし、西洋っぽいところもあれば遠くには畑っぽいのも見える。

今にもなんか流れて来そうな川も、割ったらなんか出て来そうな竹もある。


 でも、なんか。


「統一感がないっ」


 ここは日本昔話? みたいな着物のじじばばがいたかと思えば。

これからお城で舞踏会ですか? みたいなドレス着た貴婦人たちが馬車で道を走ってる。

信じられます? これ。


 山へ芝刈りに、みたいなじじに手を振る12時が門限、みたいな貴婦人。

こんな共演、見たことないよ。


《チュン……》

「バグにしてはやり過ぎだな……

ここ、もはやキミ本とは別の世界だと思った方が理解しやすいぐらいだ」


 訳が分からな過ぎて主に心が疲れた私は、比較的人の少ない山の上のベンチに座った。


 …………そう。山があるんだよ。普通に真っ直ぐな道だったのに、いきなり。

それもポストくらいの高さのね。

なんなの、これ。なんなの、ここ。


 やっぱり、攻略キャラと出会うの諦めて泊めてくれるとこ探した方が良くない?

じゃないと、本当に野宿だよ?


《チュン……チュン》

「だろうな……ここで野宿なんかしたら

どんなバケモノが来て喰われるかわからねェよ」


「うわぁ……」


 でも実際、私ってホームレスだよね?

マズ過ぎる。一刻も早く、住むとこ探さないと。




 あんなになるのは御免だ。


《チュン……》

「だな……あれだけは御免だぜ……」


 私達の座っているベンチ。

そこからほんのちょっと視界にチラつく。


 見ないようにしているが、どうしても目に入る。


 それは…………


 オッサンが、山の途中で倒れ込んでいるという世にも哀しい姿だった。




第二話 妙ちくりんな世界2

~どこもかしこもバグまみれ~ END・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る