後悔と決意

 屋上での一件から、一週間が経った。


 結論から言うと、ユイさんは意識不明の重体。

 川野君は植物状態。

 堀田君は一時的に命は取り留めたが、すぐに心肺停止。


 これだけの大きな騒ぎがあったというのに、教室内は三日で話題が「動画サイト」の話に変わっていた。


 何事もなかったかのように、みんなは明るく、笑って話している。


「夏休み、……か」


 ずっと頭がボーっとする。


 ブー、ブー。


 そこへスマホのバイブが鳴った。

 画面を開くと、氷室先輩と柊先輩からチャットが届いていた。


「何もしないと、……手遅れになるんだ」


 ボクは怪物相手にどちらも選ばなかった。

 ハッキリと断ることができた。

 でも、事態はとっくに遅かった。


 何かがあってからでは、もう遅い。

 この言葉をありのまま経験しているのが、現状だ。


 二匹の怪物は、ボクを食い合うことで決定した。


 ローテーションを組んで、一日おきに相手が変わる。

 氷室先輩に沈められた後は、柊先輩の人形になる。


 二人は、確かにボクを大事にしてくれている。

 でも、一通りの行為を重ねれば重ねるほど、ボクは確実に心が死んでいた。


『今日は、家で』


 氷室先輩の番だ。


『氷室さんの家に向かう前に、アタシの所に寄れますか?』


 それを無視して、柊先輩はチャットを送ってくる。

 スマホの画面を閉じ、ボクはカバンを膝の上に乗せた。

 チャックを開き、中身を確認する。


「もっと、早く。行動していればよかった」


 中には、家から持ってきた包丁があった。

 タオルに包んで、生地を破らないようにしている。


 ボクは周囲を見た。


 みんなは笑っていて、穏やかな景色がそこにある。

 ボクの起こした出来事は、確かに全てボクが悪い。

 ハッキリとしなかったから。


 でも――。


「……みんな狂ってる……」


 無自覚な狂気が、そこにあった。

 ボクは周りから目を逸らし、今日もオモチャにされにいく。


 でも、これで最後にしよう。

 ボクは、柊先輩へ先に返事を送った。

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ボクは今日もオモチャにされる 烏目 ヒツキ @hitsuki333

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