第9話 平穏Ⅰ

 翌日、私はバイトだった。

 早番だったため14時にバイトをあがりスーパーで買い物をして帰った。

 家に帰ると香帆ちゃんが学校の宿題をやっていた。そういえばもう学校は冬休みに入っているそうだ。


 だけど、まだ冬休みに入ったばかり。

 だというのにもう宿題にとりかかっていることに驚いた。えらい。まあ家に居ても他にやることがないからかもしれない。


「今日は、算数ドリルの宿題を、終わらせました」

「よく頑張ったね香帆ちゃん」


 私が香帆ちゃんの頭をよしよししてあげるとにへへっと笑ってくれた。


 その2日後、私は休みだった。

 せっかくなので香帆ちゃんと出掛けることにした。ずっと家にいるのも退屈だろうし、なにか娯楽になるものなどを買いにいくことにしたのだ。


 だが、香帆ちゃんは特に欲しい物はないと言い何かを買うことはなかった。

 その後、駅前のショッピングモールに併設されているゲームセンターに立ち寄った。


 その時知ったことだが、香帆ちゃんはゲームセンターにくるのも初めてだったらしい。初めてのメダルゲームで香帆ちゃんはずっと『カツカザーン‼』という台をやっていた。


 メダルを10枚入れてボタンを押すとボールが出てきてガードの付いているレールの上を振り子みたいに転がるのだけど、中央のガードだけボールが通れるように消えていて、その奥でアウトとアップのゲートが円を描くように並びながら回転している。


 ボールがガードのない場所に入ったときアウトのゲートを通るとおしまい。アップのゲートを通ると2段目へ挑戦ができるのだ。それが3段目まであり、1段ボールが登るごとにエリアも縮小され、アウトのゲートの数も多くなる。


 3段目は一か所だけジャックポットのゲートが設置されていてそこのゲートにボールが入ると、まるで火山が噴火したような演出が入り、表示されている数のメダルが貰えるというゲームで、貰えるメダルの下限が300枚でジャックポットに入るまでにアウトのゲートを通過する度に一定数上昇していく。


「奈緒美さん! 見てください、すごいですよ500枚もメダルが出てきました!」

「やったね~香帆ちゃん!」


 2人でハイタッチをして喜んだ。少しづつではあるが香帆ちゃんの笑顔が見れるようになってきたことが、すごく嬉しい。


 メダルゲーム以外にもクレーンゲームにも挑戦した。操作方法が分かっておらず、ボタンをちょんと押しただけで操作が終了し、あたふた困惑している様子の香帆ちゃんが少し可愛かった。


「えっあれぇ……なんでぇ……?」


 せっかくなので私もクレーンゲームで遊ぶことにした。最近のクレーンゲームはすごいな、ワイヤレスイヤホンなんかが景品になってる。でもイヤホンに困っている訳ではないのでスルーした。


 目に止まったのはまん丸お目目でかわいらしいメンダコのでかいぬいぐるみだった。ぬいぐるみならソファとか寝室に置いておけるしやってみるかと思い100円、また100円と機体に吸い込まれていった。


 結果500円で取れた。まあいいほうだろう。

 どうやら香帆ちゃんも私が取ったメンダコが気に入ったらしいので、香帆ちゃんにこの子をあげることにした。そしたらすっごい喜んでくれて嬉しかった。


「この子の名前は今日からメンダコンです」

「そっか~よろしくね~メンダコン」


 私も昔ぬいぐるみに名前とかつけてたなぁというのを思い出した。当時すごく気に入っていたぬいぐるみが3つくらい居た気がする。どんなのかはもう忘れてしまったけど、たしか名前が「ヨイヨイ」「ポチコ」「ゴンザブロウ」だったかな。

 そのあとはショッピングモールのフードコートでお昼を食べて帰った。

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