発足、オカルト研究部!

 放課後、わたしと明璃さんは空き部屋に案内された。長机とイスしかないけど、ここがオカ研の部室になるみたい。暑いし、校舎からけっこう離れているけど、自由に使える秘密基地みたいでワクワクする。


「――というワケで、オカルト研究部、発足~!」


 禅院くんの拍手が部室に響く。物は少ないからか、拍手ひとつで彩りが添えられる。


「とりあえず、オリエンテーションってやつしようぜ」


「屋上でやったのに?」


「部活気分を味わおう!」


 それから、禅院くんから順番にあいさつしていった。屋上でやったコトと変わらないけど、あきらかにテンションが上がっていた。禅院くんの背中のバクさんもノリノリだった。


「みんな、もう集まっていますね」


「あっ、お疲れさまです」


 顧問の先生がやってきた。この先生が屋上で起こった悪霊騒動の、その教え子。そして、禅院くんに救われた人――


「私がオカルト研究部の顧問、小林です。みなさんよろしくお願いします」


 わたしたち部員3人も「お願いします」と返事した。


「はじめまして。あなたが樫見夕七さんですね。須藤先生から聞いています」


 いきなり話しかけてくるから、なにも答えられなかった。しどろもどろしていると、再び言葉を紡いだ。


「どうでしょう、クラスに馴染めそうですか? あまりつらいなら、無理はしないようにしてくださいね」


 やっぱり、あのコトがまだ胸に残っているのかな。でも、大丈夫。


「わたしが思っていたよりも、クラスのみんなはやさしいですし、私にはこんなに素敵な居場所があります。……大丈夫です」


「……安心しました。では、ここをもっともっと素敵な場所にしていきましょうね」


 禅院くんと明璃さんが「おーっ!」と掛け声をあげると、どこからかガタガタと音がした。まさか、いきなり怪奇現象!?


「おい、禅院山! オラをもっといいトコに移動させてくんろ!」


 音の正体は、ひっそりと置いてあったバケツを中から揺らすカッパのモノだった。たしかに怪奇現象だけど、怖くはないなあ。


「ああ、これが例の。……なんかこう、ユニークな見た目ね」


 明璃さんは初対面なんだ。すぐさま後ろを向いて笑いをこらえている。カッパと初めて会ってそのリアクションで済むなんて、バクさんの言ったようにキモの座った人だ。


「呼び方は置いといてだな……。じゃあ、帰ればいいじゃんよ」


「いたた……朝にぶつけたトコが痛むだあ……」


「昼に相撲しただろうが!」


「ずいぶん充実した一日だったみたいね」


「はあ、おかげさんでな……。それで、なんで帰らないんだ?」


 朝、カッパは地面に叩きつけられたのに、相撲をとれるくらいには元気みたい。面白い見た目だけど、けっこう頑丈なんだ。


「オラ、『すたー』になりてえだ。だからはるばる山から下りてきただ」


「……すたー?」


 わたしたちはそう言うと、この部室から沈黙が訪れた。『すたー』という言葉の意味を考えているのかな。


「……どゆコトよ。虹色に光って無敵になりたいの?」


「なに言ってんだオメエ」


「お前なあ!」


「えーと、ハリウッドスターのスター的なコトでしょ?」


「はりうっど? なに言ってんだオメエ」


「あァん?」


 わたしは見逃さなかった。明璃さんの眉間にシワが寄ったのを。あまり怒らさないでおこう……。


「つまり、人の世で大金星を上げて目立ちたいというコトですね」


「さすが小林山だ、わかってるでねえか!」


「いやわかるか! それで悪霊に取り憑かれちゃ元も子もないだろ!」


「あたしの例のほうが的確だったでしょ!」


 盛り上がっているけど、わたしはどうやってこの中に入ろう。ふたりは幼馴染で幽霊とかも視える人で、小林先生も知識が豊富みたい。せめて、わたしも花子さんが視えれば……。


「それで、彼のスター計画ですが……。どうでしょう禅院さん、文化祭に参加させるのは?」


「うーん、やっぱり、そうするしかないですよね。考えてたのは、樫見さんとオレの能力を使ったサーカスでもやろうかと思ったけど……」


 やっと、会話の輪に入れた。たしかに禅院くんの能力はサーカスに向いていると思う。あんなに縦横無尽に飛び回れるんだもん。……って、わたしも?


「樫見さんにこれをやろうって、ずっと言いたかったんだけど、変更しよう」


 ホッとした。サーカスだなんて、そんなコトできるとは思えないから。安心しきっていると、禅院くんは小さなペンケースからシャーペンを取り出し、配られたプリントの裏面になにかを書いた。


「こんなのどう?」


 書き終えると、わたしにそれを渡した。


「すいません。ちょっと、メガネ出しますね……」


 別に目が悪いワケじゃないけど、字を見るときはメガネをかけるようにしている。そのほうが集中できるから。伊達メガネってコトはナイショにしたいな。


 手渡された紙を見ると、そこにはこう大きく書かれてあった。


『伝説の妖怪・カッパは実在した!!』


 ……別にメガネをかけなくてもよかったかな。どう反応すればいいのかわからないけど、とりあえず横にいる禅院くんのほうへ向く。


「――えっ?」


 見間違いかな、禅院くんの後ろに金髪の女の子がいる。目が合ってる。手も振ってる。メガネの耳にかかった部分を指で押してレンズを浮かすと、視えなくなった。


「ええ?」


 もう一度指を離すと……やっぱりいる! 何度もたしかめたから間違いない!


「ちょ……。なに樫見さん、メガネ、クイクイやって……」


 禅院くんに不審がられた! 笑いをこらえて震えているのがよくわかる。


「あの、禅院くんのうしろに女の子がっ」


「えっ? 視えるの?」


「はい、金髪の……」


「なるほど、そうか……」


 メガネをかけると、女の子が両手を挙げてうれしそうな表情をしている。でも声は聞こえないから、視る限定みたい。ふつうの店で買った伊達メガネなのに、そんなチカラがあったなんて思わないよ……。


「このメガネも空妖だな。そうだろ、バク」


「そうだな、なんら不思議じゃない。霊視の能力を持ったメガネ、立派な『異形の空妖』だ」


「へえ。異形っていうだけはあって、いろんな見た目があるのね。サトルは気づいてた?」


「まさかあ」


 これが、あのバクさんやカッパと同じ空妖だなんて、それがどうしても結びつかない。いつもより慎重にメガネケースに入れてカバンにしまった。


 なんだかつかれちゃった。授業だけでもそうだけど、朝からいろいろなコトが起こって頭が理解と追いつかない。はやく横になりたい。


「もう暗くなってきたし、今日はおひらきにしよう」


「ずいぶん唐突ね」


「なんだか眠くなって……」


「なんじゃそりゃ」


 よかった、禅院くんも同じ気持ちだ。……と思ったら、首筋を搔いてる。たしかウソをついてるときのクセだっけ。まさか、わたしの気持ちを察して……? 訊いてきた明璃さんもそれをわかってて微笑んでるのかな。


「今日は初日なので、これくらいにしましょうか。では皆さん、また来週に集まりましょう」


「はーい」


 みんなで部室を出ようとしたら、うしろから切実な声がする。


「待ってくれだ、オラ、またひとりぼっちになるんか……?」


「さびしいか?」


 カッパは素早く首を縦に振る。空妖でもさびしがり屋なんだ。見た目は面白いけど、親近感が湧くなあ。


「じゃあ、休みの日でも会いに行くよ。さすがに夜はムリだけどな」


「私も仕事があるので行けますよ」


「じゃああたしは……行けたら行く」


「わ、わたしも……」


「みんなやさしいだな……」


 なんだか、小学校のときのウサギ小屋当番みたい。これも部活動の一環としてみれば、違和感はないかな。


「じゃあ、またね~」


 これで、やっと帰れる……。


「ちょい待ち、サトル。ここの連絡先って作んないの? ラインのグループとかさ」


「連絡先! そうか、頭になかった」


 わたしもだ。だって、家族以外に友だち登録してないから……。


「で、どうやって作るの?」


「……ええ? ネタで言ってる?」


「オレが友だち少ないの知ってて言ってるだろ!」


「ゴメンって。こうやって――」


 明璃さんはスマホを取り出して、手慣れた様子で指を動かしている。わたしもわからないのはナイショにしておこう。


「これでよし。それと、みんなと友だちにならなきゃね。夕七ちゃん、あたしのQRコード読みとってくれる?」


「じゃあオレのもいいかな?」


「私も入れてください。顧問なんですからねっ」


「は、はいっ」


 一気に友だちの数字が増えた! 数字上だけど、こんなにうれしく感じるとは思わなかった。


「オカ研としての連絡は、このグループにやるってコトで。それじゃあ、今度こそ解散で!」


「明日も待ってるだよ~」


「おう、カッパもまたな」


 みんなで手を振って帰路についた。いろいろあってつかれたけど、うれしいコトもいっぱいあって、なんだか心地のいい疲れかただ。わたしは今日のコトを思い出しながら、鼻歌まじりに家に帰った。

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