同好会を設立しよう!①

 やっとお昼休みになった。とっても疲れた。


 久しぶりに来たからって質問攻めされて……。悪気はないのはわかるけど、もうちょっとエンリョしてほしい。でも、これもみんなと打ち解ける足がかりになるといいな。


 さて、お弁当を食べよう。みんなは……仲のいいグループでまとまって食べてたり、学食に行ってるよね。わたしも誰かと――


「おーい、樫見さん。屋上で食べない?」


 禅院くんが来てくれた。わたしはひとりぼっちじゃない。よかった、安心した。わたしはうなずくと、ふたりでせかせかとHRを出て、階段を上る。


 でも、なんで屋上なんだろう。そもそも入ってもいいのかな。訊いてみよう。


「話したいコトがいっぱいあって。友達もいるけど大丈夫そ?」


「は、はいです」


 話していると、屋上へのドアの前に立った。重々しい色合いのドアには立入禁止の張り紙があるけど、禅院くんは容赦なく開けてずんずん進んで行っちゃった。ていうか、カギが壊れているみたい。


 わたしも続くと、禅院くんの言うとおり先客がいた。


「明璃、おまたせー」


 その人は、かつてこの屋上で悪霊に取り憑かれた人だった。


「おっ、来た来た」


「こ、こんにちは……」


「そんなにかしこまらないでよー。あたしは紫城明璃しじょうあかり。なんでも好きに呼んで」


「あ、じゃあ、その、よろしくお願いします、明璃さん」


「うん、よろしくねっ。夕七ちゃん」


 明璃さんはわたしと違って、とっても明るい人だ。毛先がウェーブしてる髪の毛が茶色みがかっていて、とっても似合っている。染めてるのかな?


「それで、こんな暑っついトコ呼び出して、なんの用? 風が気持ちいいからまだいいけど」


「そう。ふたりに聞いてほしいのは――」


 禅院くんはお弁当のフタをあけて、また話した。


「オレ、オカルト研究部を作ろうと思ってるから、入ってほしい」


「「……ええ?」」


 明璃さんと息があった。いきなりどうして?


「空妖とか悪霊の襲撃に備えてさ、情報を集められる基地みたいのが欲しくて。部室とかあったら、いろいろ便利かなって」


「それでオカルト研究部ねえ。どっちかというと、『禅院サトル被害者の会』のほうがあってない?」


「げふっ……」


 そう明璃さんから言われると、禅院くんはスゴく悲しい顔になった。わたしも電車の中でお腹が痛くなったとき、暗転したスマホの画面を見るとあんな顔になってた。


「ウソウソ。サトルも呪いの被害者なワケだしね。オッケーだよ」


「ホント? ホントにウソ?」


「うんうん。安心して」


「よかったマジで。樫見さんは?」


「わ、わたしも平気です」


「ありがとう、樫見さん」


「ただし、条件があります!」


「うわ、なんだよ明璃」


「夕七ちゃんに視せなさい、背中の口を」


「そうだ。説明しなきゃと思っていたんだ」


 たしかに須藤先生は、口っぽいのが視えたって言っていた。でも、わたしが禅院くんの背中から見たのは黒い翼。なにか関係あるのかな。


「バク、樫見さんにあいさつしてくれ」


 わたしに背中を向けてひとりごとのように呟いた。すると、また信じられないモノが、そこにいた。


 目を凝らすと視える黒い渦から、ギザギザの白い歯と赤い舌が出てきた。話に聞いたとおりホントに口だ!


「はじめまして。ワタシはバクと名付けられたモノだ。よろしく頼むよ」


 パッと見は怪しそうだけど、やさしそうだし、禅院くんの友達なら平気だね。


「よろしくお願いします、バクさん」


「お辞儀をしてくれるなんて……、胸にせまるモノがあるな。もっとも、ワタシには胸はないがね」


「とまあ、こういうヤツが、オレの背中に取り憑いてるんだ。いままで黙っててゴメンね」


 禅院くんは向き直って、わたしに話した。事前に禅院くん話を聞いたり、花子さんやあのカッパに出会わなきゃ、やっぱり信じられない。


「ワタシの能力も見せたらどうだ?」


「いいかげん、明璃には見せないとな。樫見さんはさっき見たと思うけど、これがバクの能力。食べた生物の生態をコピーできるんだ」


 左目に赤い傷跡が浮かぶと、背中から黒い翼が現れた。


「それで……、バクがバッタを食べればこんな高く跳べたり、クモを食べれば糸を伸ばせたり――」


 たった一回のジャンプで3メートルはある金網フェンスのてっぺんに立ったり、指から糸を出し、金網に引っ掛けて身体を引き寄せたり、縦横無尽に動いている。


「翼を出して、空を飛んだりとか」


 黒い翼を羽ばたかせて空中に留まる姿は、まさにさっき見た光景だ。


「もっと飛べないの?」


「姿勢を保つのがつらいんだよな。だから最近、鍛えてるんだけどさ。腹筋とか」


「ふうん」


「驚かないのか?」


「もう、幽霊とか視たし、口から翼が出てきて飛ぶくらい……。ねえ?」


「アカリはキモが座ってるな。口をポカンと開くくらいもっと驚かせられるように、ワタシもがんばらなくては」


「驚かす方向にがんばらなくていいぞ、バク。とまあ改めて、オレをバクをお願いします」


 傷痕は消え、鋭く吊り上がった目じりは元に戻っている。


「うん、オッケー! じゃあ、お昼食べましょ」


 わたしたちはお弁当を食べ始めた。今朝の出来事とかの雑談を交えていると、あっという間に弁当箱はカラになった。青空の下で食べるのも楽しいな。


 みんなが完食したとき、明璃さんが言った。


「でも3人だけど……?」


「あっ……、もしかしてやっぱり足りない?」


「真島くんは?」


「『軽音部に入って、カンペキな高校デビューを迎えるぞ!』って意気込んでた。いま体験入部とかじゃね?」


「んー、望み薄ね」


 ふたりとも、仲がいいんだ。下の名前で呼び合ってるし。それにしても、いままでクラブ活動には縁もゆかりもなかったから、誘われるだけでもうれしいなあ。こういうのにあこがれていただけに、協力したい。


「あの……、まず同好会から始めるのはどうでしょう……?」


 たしか、同好会なら部員が少なくても設立はできる、みたいなコトが生徒会の規約にあった気がする。


「……それだ!」


「夕七ちゃん冴えてる!」


「あ、ありがとうございます……」


 ふたりとも喜んでくれた。あとは、順調に設立できれば……。


「そうすると、顧問の先生はどうしよっか」


「小林先生に頼もう!」


「決まったわね。じゃあ会長、ビシッと設立させて!」


「了解!」


 禅院くんは行ってしまった。きまずい。友達の友達への距離感がわからない。そもそも友達って、どの時点から友達って胸を張って言えるんだろう。


「――おーい、心の声、ダダ洩れだよ?」


「えっ……ああ。ごめんなさい。またやっちゃいました……」


「あははっ。ウソつけないのは大変ね。サトルと同じだ」


「そうなんですか?」


「うん。後ろの首筋を掻くのがクセで、わかりやすいんだから」


 きっと、明璃さんの前ではなんでもお見通しなんだろうなあ。


「あっ、サトルから連絡。……小林先生からはオッケーもらったけど、やっぱり人数が課題みたいね」


「そ、そうですか……。ごめんなさい、役に立たなくて……」


「動くきっかけを作ってくれたんだから、そんな落ち込むコトないよ! あっ、また連絡。……人が少なくても、実績があればあるいは……だって」


 オカ研に実績を求めるなんて……。でも、ここの高校は実績だらけ。わたしは視えないけど、花子さんにメリーさんもいる。それに――


「――あの、カッパを見せつければいいんじゃ?」


「朝、サトルとバトったっていう? なるほど……」


 あの絵本から飛び出してきたようなカッパを見てもらえば、きっと大丈夫、なはず。


「それをサトルに伝えておくね。きっと、すぐ動くから」


 あこがれのクラブ活動、うまくいきますように。

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