仲間を探そう!①
文化祭まであと22日
文化祭を成功させると誓った翌日、サトルは気づいた。いっしょにやってくれる人がいないと。ひとりではなにもできる気がしない。
早速、仲間探しからだ。唯一といっていい同じクラスの友人である
「禅院、ついにやる気になってくれたんだな……。任せろ、おれは協力するから!」
真島は中学生のとき、いつもサトルに気にかけていた。そのおかげで同じ高校に進学しても、完全に孤立するコトはなかった。
「いつも悪いな、ありがとう」
「でも、タイミングがな。もうみんな出し物を決めたしな」
「そうだよな。みんな手いっぱいだよな」
「いちおうさ、
「たしか女子の……。あれ、やべえ。顔が出てこないぞ」
クラス中の顔と名前は一致させたつもりだったが、見渡してもわからない。まだ覚えられていなかったのかと、不安になった。
「探しても見つからないよ、たしか保健室登校してるもん」
「そうなの?」
「思い返せば、入学したときからなんか不安そうだったもんな」
振り返ってみれば、背中にバクが現れてから学校のアレコレを思い出せない。自分のコトで精いっぱいだったからだ。
「いじめとかは?」
「それはなかったハズ」
「病気がちとか?」
「それも聞かないなあ」
「じゃあ……人間関係?」
「知ってるだろ? 人間関係っていっても、このクラスにいじめはナシ」
今は6月下旬、高校に通い出して2ヶ月過ぎた。もう人間関係は形成されてる頃合いに馴染めないのはつらいだろう。
痛いほどわかる、だからこそ手助けしたい。どう接すればいいだろうか。考えようとすると、チャイムが鳴ると同時に教師が入ってきた。
「とりあえず、昼休みに行ってみようかな」
「マジか、お前勇者かよ!」
「安い例えだな!」
この授業の時間を使い、どう言えばいいか考えた。なにも思い浮かばなかった。授業の内容も頭に入らず、あっという間にチャイムが鳴り昼休みになってしまった。急いで弁当を食べて、昼休みをできるだけ長くする。
「ええい、ままよ。いざ行かん!」
「禅院隊員、健闘を祈る……!」
やっぱり言葉は出てこないまま、保健室に着いてしまった。こういうときは用意した言葉ではなく、その場の新鮮な言葉で話すしかない。まったく自信はないが。
「失礼します」
保健室の中は、ただ静かだ。人を拒まずに受け入れてくれるような安心感がある。
「どうした、ケガか、具合でも悪いのか?」
その雰囲気を作ってくれているのが、先生の
「いや、その……」
柔和な雰囲気があっても、言葉が出ず、固まってしまった。
「昼休みにわざわざ来るってコトは、だろ。たしか同じクラスだったろ。じゃあ大体察しはつく」
「えっ?」
須藤先生はおもむろに立ち上がり、カーテンの引かれたベッドの前に移動した。
「おーい、樫見。……お客様だよ」
そして、カーテンに顔を突っ込み、不気味な口調でこう言った。
「シャイニングだ!」
思わず声が出た。
「おっ、わかる? イケる口だねえ」
須藤はサトルの方へと向き直り、笑いながら手招きした。
「ま、樫見もそうなんだよな。恥ずかしがり屋だけに『シャイ』ニング! なんつって」
「えっ」
なんて古典的なダジャレなんだろう、と思った矢先に、ベッドから小さく笑い声が聞こえた。
「あれ、きみにはウケないな。まあ、樫見に話があるんだろ? そこに丸イス用意しとくから、ゆっくりしてな」
「どうしてわかったんですか?」
「わかるさ、
「名前まで知られているとは……」
「それを信頼して、こうやってきみを樫見のトコに招いたんだからな」
笑いながら、小さな丸イスを置いてくれた。
「ただし、ルールがふたつある。ひとつ、カーテン越しに話すコト。もうひとつ、『帰って』って言われたらHRに戻るコト。以上」
「了解っす」
早速、丸イスに座った。まずはなにを喋ればいいのか。
「こ、こんにちは」
まずはあいさつだ。これは基本だろう。
「……はい」
カーテンの向こうから、小さくても返事はしてくれた。次はなにを言おう。
「今日はいい天気ですね。梅雨なのに、珍しく晴れて」
やはり天気の話、これに限る。ここから暑いとか汗かいてヤダとか、話を広げてくれれば幸いだ。
「……はい」
ダメだった。後ろで長イスに座っている須藤が吹き出した。
「なにがおかしいっすか!」
「いや、おおよそ普通の高校生のする話じゃねーなって思って。距離感よ。おかしくてつい……」
「いたって普通っすよお」
「ふつう? じゃあ、なんでまだ夏服じゃないの」
「……あっ」
気づかれてしまった。サトルには、それを深掘りされると困る理由があった。
この学校指定の夏服である白いワイシャツ1枚だと、背中に巣食うバクがバレやすくなってしまうからだ。ワイシャツだと、バクの口である黒い渦がよく目立つから見られてはならない。暑い中、学ランを着ている努力が台無しになってしまう。
でも、いっそこの際言ってしまえば――
「まあ、いいや」
「スルーされた!?」
「訊いてほしかったのかい?」
「いやまさか!」
「正直だねえ。
「須藤先生と小林先生、仲いいんですか?」
「まあね。ずっと暗かったのに、最近は目に見えて変わったよ。そう、まるで憑き物が落ちたような。きみのコトをよく話すようになってからね」
「というか、よく話すって……?」
「聞きたいかい? じゃあ、お互い隠しゴトはナシにしようか。1カ月前くらいかな、
「……どうしてそれを?」
「言いたくないって顔に出てるね。あのとき、紫城を病院に連れてったのはわたしなんだから、訊く権利はあるだろ?」
たしかに小林の憑き物を落とした。かつて、いじめを苦に屋上から飛び降りた生徒を救えなかった自責の念という憑き物を。
その生徒は『悪霊』となっていた。サトルの幼馴染である明璃に取り憑いて身体を操り、自殺に追い込もうとしたのだ。偶然にも小林がそれを止めて、最悪の事態は防げた。
悪霊の支配から解放されても目覚めないため、明璃は病院に送られ検査入院したが、時間が経つと問題なく目覚めたので、コトなきを得た。それがキッカケとなり、明璃はサトルと同様、『幽霊が視える』体質になってしまった。のだが――
(……言っていいのか?)
呪い、
信じられても困るが、必要以上に知られるワケにはいかないのだ。現に、呪いに目醒めてから危ない目にもあった。それも自他問わずに。
もちろん悪いコトばかりではないが、とにかく、教えてどんな影響があるかわからない。
しかし、知ってもらいたい面もある。遥か昔から受け継がれた呪いの重さを『共有』して欲しかった。ひとりでは耐えられない。かといって、言いふらしてほしくもない。須藤先生は信頼できそうだ。言ってしまおう。
「幽霊って、信じますか――」
サトルはあの日になにが起こったかを語った。須藤は前のめりになって聞いていた。
「……そうか、怖い思いをしたんだな。教えてくれてありがとう」
「このコトはマジに他言無用でお願いします」
「わかってるさ。なあ、樫見」
「……あっ」
「さては樫見のコト、話に夢中になって忘れてたな?」
「い、いや、そんな……」
サトルは首の後ろをかいた。いつもウソをつくときのクセである。
「樫見さん、今の話、みんなにはナイショにしてくんない?」
「……はい」
「ああ、よかった」
さて、次はどんな話をしよう。なにか距離を縮める話は――
「……帰って下さい」
「えっ、急に!?」
樫見が言ってすぐに、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ってしまった。言いたいコトだけ言ってこの時間が終わってしまった。
(いや、それとも違う。ホントに言いたいのは――)
「樫見さん、オレと一緒に文化祭で出し物しない? 考えてほしいな」
イスから腰を浮かせながら、緊張を振り切って発した。これがサトルの言いたいコトだ。
「ごめん、オレの言いたいコトだけ言って。また来ます!」
「廊下は走るなよ! ケガして来られても困るからな!」
「いや、なんのための保険室!?」
サトルは騒がしく保健室から出て行った。
静寂が戻った保健室で、またふたりに戻った。
「あれ、樫見。まだ帰らないのか?」
「……はい」
「そうか。しかし、あの禅院が語ってくれた話、ホントだと思うか?」
「……いいえ。全然」
「ははぁ、わかるよ。今の時代に幽霊だのなんだの。でも、私はホントに思えるんだ」
「ホント、ですか?」
「私には視えたんだ。禅院を見送った背中に、ギザギザの白い歯と赤い舌がね」
「えっ。えっと、そうなんですか?」
「妖怪を背負って、幽霊と話せる。そんなヤツと文化祭の手伝いするのも、けっこう楽しいんじゃないかな」
「……うん」
「というワケで、まずは勉強をがんばってみるか。さあ、ベッドから出てきて数学の教科書1を開くんだ!」
「お手柔らかにお願いします……」
支えてくれる人と、連れ出す人。そのふたりを信じたとき、少女の心が動き始める。
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