episode8.バレンタインデー(振り返りもあるよ)

 俺––山瀬やませ 海斗かいとの幼馴染、春樹はるき結菜ゆいなは校内でも有名なバカップルである。


 これはそんなバカップルの、バレンタインデーの1話に過ぎない。



「春樹ぃー!!今日何の日かわかる?」


 朝のホームルームまでの休み時間、俺と春樹が駄弁っていると、結菜が駆け足で近寄ってくる。今日は2月13日。既に嫌な予感しかしないのは俺だけだろうか。


「バレンタインイブだな」


「何だよそのクリスマスイブの亜種」


 因みにイブはイブニングの略なので夜という意味である。バレンタインイブとか余計な意味わかんねえ。


「正解っ!なので春樹にはご褒美をあげます」


 正解なのかよ。何答えても正解ってやつな。道徳かよ。


 結菜はラッピングされたチロルチョコを取り出した。そして、ベーっと舌を出し、チョコを舌の上に乗せた。何してんだ。


たへて食べて


 おい、学校だぞ。羞恥心とかどこ行ったんだよ。今更か……。ここまでいくと気持ち悪い。


「これぞメルティキッス!」


「チロルチョコだよ」


 春樹はそのまま結菜とキスをする。ああ、見てるだけで胸焼けするし胃がもたれる。バレンタインデーにやれよ!後1日ぐらい我慢できただろ。


 そのまま30秒ほどキスした後、ふぅーと息をついて離れた。チョコは溶けて無くなってる。二つの意味で熱々だったもんな。


「この一年、いろいろあったよな」


「賢者タイム早っ」


 しかも過去を振り返るタイプだ。どんなタイプだよ。みんなはどんな賢者タイムかコメントしてね!(今世紀最低のコメ稼ぎ)


「今年ね、みんなおんなじクラスになった時は流石に喜んだよね」


「ま、まあ……いやっ……何でもない」


 ツッコもうかとも思ったが時期にクラス替え。ここで言わなくてもすぐに分かる。


「海斗の指の骨が二本折れた時は流石に笑ったなー」


「折ったの春樹だけどな」


 お盆のお泊まり会の時だ。俺かわいそすぎる。全治二ヶ月とかしっかり怪我じゃん。


「海斗が校長先生殴りに行った時はヒーローかと思ったよ」


「いつの記憶?!」


 パラレルワールド過ぎんだろ。校長先生殴ってヒーローになるってどこのラノベだよ。


「バレンタインイブのキスは凄まじかったな」


「もう思い出尽きたのかよ。早すぎだろ」


 つい数分前じゃん。そんなにこの一年間何もなかったか?一応、華の高校生だぞ。


「もうそろそろ卒業かー」


「まだ一年だよ!」


「涙出てきそう……」


「何の涙?!」


 結菜がハンカチで目尻を拭う。白々しいなこいつら。でももう2年生になるのは早いと思う。青春時代矢の如しとはよく言ったものだ。


「じゃあ海斗はこの一年何があったか振り返ってよ」


「まず入学式の主席挨拶で春樹が結菜に告白、次いで結菜が放送室に乗り込んで校内放送で告白の返事、挙句の果てには晴れの日の相合傘とかホームルーム前のディープキス。俺にスカートを履かせるなどのいじめの数々……」


 全て実話である。幼馴染が主席挨拶で幼馴染に告白するのを見る俺の心持ちを分かって欲しい。


 二人は顔を真っ赤にして手で覆っている。何照れてんだよ。こう見えて結菜と春樹は付き合ってまだ一年なのだ。こう見えて。30年とか付き合ってそう。


「そっか、もうそろそろ私たち付き合って一年記念日か……」


「海斗に祝ってもらおう」


「そういうのは二人で祝い合うんだよ」


 おめでたいのはコイツらの頭だけだ。すると、そうだ!と提案するように結菜が口を開く。


「誕生日ケーキ焼こう!」


「何が誕生したんだよ」


 ああ、バカップルが誕生したのか。納得、納得。


「流石に誕生日ケーキは無理あるね……やっぱりプレゼントかな」


「だな」


 春樹も短く応答する。プレゼントが妥当だろうな。俺も早くこんな会話してみたい。いや、ここまで頭悪くなくていいか。


「春樹は何半島が欲しい?」


「規模がおかしいだろ!!」


 プレゼントで島とか富豪かよ。


「エロマンガ島」


 中学生かな?地図帳にあるのでぜひ調べてみてください。


「もう……春樹のエッチ」


「いや、シチュエーションが可愛くねぇよ?!」


 この会話で上目遣いしても無理なんだよな。いくら美人の結菜とはいえ。


「皆さんおはようございます」


 ここで我らが天使の神崎さんの登場です。このキャラで定期テスト学年下から5番目である。


「山瀬くん。今日は何の日かわかります?」


 さっき同じような質問聞いたな。わからんけど。


「分からないです」


 すると神崎さんはチロルチョコを取り出し、舌の上に乗せる。んっ?


あへはふあげます


 上目遣いで悪戯な笑顔をし、にっこりと笑う。


 ああ、もう可愛すぎんだろ!

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